あなたにとって、理想的なコミュニケーションとはどのようなものでしょうか。とにかく相手を笑わせられることを一に挙げる人もいれば、論理的な思考に基づいて相手と建設的な議論を交わすことを目指す人もいるでしょう。あるいは、自分は口下手だという自覚のある人にとっては、積極的に自分の考えを発信できることかもしれませんね。

このように、どんなコミュニケーションを理想とするかは人によってさまざまかと思いますが、“コミュニケーション能力は非常に大切である” という点だけは、おそらく皆さんの誰もが共通して考えていることなのではないでしょうか。

そこで今回は、近年注目を浴びているディベート型のコミュニケーションがもたらす危険性とともに、これからますます重要になるであろう「クリエイティブな対話」ができるようになるための方法についてお伝えしていきます。単に相手と意見を交換し合うことをコミュニケーションと考えてはいけませんよ。

コミュニケーションはクリエイティブであれ!

企業が学生や社会人に求める能力について語る際、「コミュニケーション能力」という言葉が必ず出てきます。冒頭にも書いたように、人によってコミュニケーションというもののとらえ方は千差万別。そのため、ほとんどマジックワードのように聞こえるようになってしまったこの言葉ですが、教育学者の斎藤孝氏は理想的なコミュニケーションについて以下のように述べています。

理想的なコミュニケーションとはどういうものか。私は、クリエイティブな関係性だと思う。ここでいうクリエイティブな関係性とは、話をすることでお互いにとって新しい意味がその場で生まれるという関係を指している。

(引用元:斎藤孝著(2004),『コミュニケーション力』,岩波書店.)

様々な場面で語られる「コミュニケーション能力」の核心が、この言葉に現れているのではないでしょうか。言いたいことを適切に言える、相手の言葉に注意深く耳を傾けて本音を引き出せる、あるいは自分からたくさんしゃべって場を盛り上けることができる……。コミュニケーション能力として挙げられることの多いこれらですが、じつはこれらはあくまでもコミュニケーション能力の一部に過ぎないのです。本当に重要なのは、これらができた上で、さらに新しい意見や考えが生まれるかどうか。したがって、口下手だからコミュニケーションが下手だとか、気軽に誰とでも話せるからコミュニケーションが得意だとは必ずしも言いきれないのです。

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ディベートは諸刃の剣!?

近年、論理的思考力やプレゼン力を身につける方法として、ディベートが注目されています。ディベートとは、簡単に言うと次のような形式の討論のことです。

「死刑制度は必要である」といった命題に対し、実際の立場に関係なく賛成と反対に分かれます。そして、論理的に自分の立場の正しさを証明するべく情報を収集し、お互いにそれを主張し合い、どちらがより一貫した論理を持っているかを競い合うのです。

これにより、論理的思考力や、相手の主張をよく聞いて理解する能力が鍛えられるのだそう。実際、世界中の多くのエグゼクティブたちがその訓練をしてきたと言われています。そして、日本の小学校や中学校の授業においても、ディベートの授業が行われるようになってきました。そのため、ディベートのようなコミュニケーションが正しいものなのだという考えも広まりつつあります。

しかし、人間関係を円滑にし、コミュニケーションをクリエイティブなものにする方法としては、ディベートは必ずしも適切とは言えません。なぜなら論理には逃げ道が多くあるため、論理的思考力が低い人同士がこのようなやり取りをすると単なる水掛け論に陥ってしまいがちだから。論理的なテクニックを活用し論点をごまかして相手を言い負かすことも、訓練すればじつはそれほど難しいことではないのです。

また、自分の実際の立場と関係なく論理を構成するという競技の性質も問題点の一つ。これにより柔軟な発想や理解力が身につくのも事実ですが、筋が通っていて相手を言い負かすことができれば倫理的な価値基準などを軽視してもいいのだという考えにも及びかねません。論理的なコミュニケーションを取れるということは非常に大切なのですが、人間関係のツールとしてのコミュニケーションがいかにあるべきかの指標としては適していないのです。

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弁証法トレーニング

斎藤孝氏がお勧めするのが、「弁証法トレーニング」です。弁証法は、以下のように説明されます。

弁証法
対話・弁論の技術の意。概念が自己内に含む矛盾を止揚して高次の段階へ至るという論理構造は、一般には正・反・合、定立・反定立・総合という三段階で説明されている。

(引用元:コトバンク|弁証法)

つまり、「弁証法トレーニング」とは、問いと答えを繰り返していくことで、より深い知見に至ることを目指すトレーニング。皆さんは普段、気の合う仲間とコミュニケーションを取ることがほとんどだと思います。そのような関係の中で行われる会話は、同意や共感がメインになりがちではありませんか。そんな、普段同じような感性を持つ仲間の考えに疑問を投げかけるのが、弁証法なのです。会話をする二人は、何かの論題に対して正反対の立場をとり、論理的にその理由を説明します。説明を聞いた相手は、すかさず質問をし、違った風に考えられないかということを、やはり論理的に説明するのです。

一見するとディベートに似ているように思えますね。しかし、目標とすることがディベートとは違います。弁証法トレーニングは哲学の専門用語でいうところの「アウフヘーベン」を目標としているのです。これは、対話を通じて低い程度の考えを否定し、より高い程度の考えに至ることを目指すというものです。

二つの立場にわかれるのも、異なった視点を持ち込むため。そうしていくうちに、片方の意見が矛盾し始めたり、議論がどこから始まったのか分からなくなったりすることもあります。それでも議論を続けていくうちに、二つの立場が相反しないような新しい考え方が時折生まれてくるのです。それが、アウフヘーベンです。これを繰り返し行っていくことで、クリエイティブな対話能力が身についていきます。

例えばある仕事に対して「皆で分担すれば一人ひとりの負担が軽くなって効率的だ」という考えと、「複数人で取り組むと重複する箇所があって余計な作業が増える」という考えがあったとしましょう。二つは相反する意見であるように感じるかもしれませんが、実際には作業の引継ぎをマニュアル化したりリアルタイムで進捗状況が分かるようなシステムを作ったりすれば、双方の意見を尊重することができます。大切なのはどちらか一方の意見を否定してしまわないこと。相反する意見だと感じても、矛盾を悪だと決めつけずに、お互いの要望を最大限叶えられるような新しい考え・方法がないかを議論しながら模索していきましょう。

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コミュニケーションの在り方が多様化したことで、面と向かった対話や、電話での通話までも苦手とする人が増えたといわれている今の時代。意識して鍛えてみると、周りに差をつけられるかもしれませんよ。

(参考)
齋藤孝著(2004),『コミュニケーション力』,岩波書店.
平田オリザ著(2012),『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か 』,講談社.
山田ズーニー著(2013),『半年で職場の星になる! 働くためのコミュニケーション力』,ちくま文庫.
コトバンク|弁証法