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頻発する金融危機と、その度に脅かされる世界経済。グローバル化に伴い、国内に流入してくる海外資本。そしてそれらに振り回されるだけの日本経済。日本はこれからどうなっていくのか、そしてこの激動の時代をどう生き抜いていけば良いのか。あなたはこの問いに答えることができますか? 今回ご紹介する書籍の名前は『僕は君たちに武器を配りたい』。上で述べた問いに鋭く答えた一冊です。

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『僕は君たちに武器を配りたい』
瀧本哲史著
講談社 2011年
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(以下引用は本書より)

本書はビジネス書大賞2012で見事大賞を獲得した名著で、著者は東大、マッキンゼーを経て、独立後は投資家として活動する傍ら、京大で教鞭をとる瀧本哲史氏。非情で残酷な資本主義社会で生き残るための教訓を武器と形容し、私たち若者にもわかりやすい言葉で表現してくれています。投資家としての経験に基づく生きた知恵は、目から鱗のものばかり。では、激動の時代を切り抜けるヒントとは一体何なのか、一緒に見ていきましょう。

コモディティ化する人材マーケット

現代という時代を理解することなしに、現代を生き抜くことは不可能です。現代が抱える問題点とは何かを正しく把握することで、活路が見えてくるのです。そこで、まず瀧本氏が指摘する問題は、人材マーケットのコモディティ化です。

市場に出回っている商品が、個性を失ってしまい、消費者にとってみればどのメーカーのどの商品を買っても大差が無い状態。それを「コモディティ化」と呼ぶ。経済学の定義によれば、コモディティとは「スペックが明確に定義できるもの」のことを指す。材質、重さ、大きさ、数量など、数値や言葉ではっきりと定義できるものは、すべてコモディティだ。

すなわち、コモディティ化とは、どれもこれも似たようなスペックであることが容易に判別できるため、商品間の差異が消失し、均質化している状態だと言い換えることもできます。ここで瀧本氏が強調するのは人材もまた商品と同じくコモディティ化するということです。

これまでの「人材マーケット」では、資格やTOEICの点数といった、客観的に数値で測定できる指標が重視されてきた。だが、そうした数値は、極端に言えば工業製品のスペックと何も変わりがない。同じ数値であれば、企業側は安く使えるほうを採用するに決まっている。

つまり、だれが一番安い給料で働けるかどうかの争いになってくるというのです。

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生き残るためにはスペシャリティになれ

ではそんな不毛な争いから脱出するためにはどうすればいいのでしょうか。瀧本氏の答えはこうです。

答えは「スペシャリティ(speciality)」になることだ。スペシャリティとは、専門性、特殊性、特色などを意味する言葉だが、要するに「ほかの人には変えられない、唯一の人物(とその仕事)」「他のものでは代替することができない。唯一のもの」のことである。

例えば、あなたがコックだとして、誰かの経営するレストランで働き、命じられるままに料理をつくっているならコモディティだとされます。対して、あなたの作る料理を目当てに来店してくれるお客さんがいて、レストランの経営に大きく貢献しているのならスペシャリティだとされるのです。といっても、いきなりスペシャリティになれと言われても何をしたらいいのかわかりませんよね。そこで、スペシャリティの具体例についてご紹介します。

スペシャリティには6つのタイプがある

瀧本氏は、スペシャリティの具体例として、漁師を例に6つのパターンを易しく解説しています。順に見ていきましょう。

まず1番目に挙げられているのが「とれた魚をほかの場所に運んで売ることができる漁師」です。その日の水揚げを魚の取れない山地などに運搬して売ることで、大きな利益を挙げられるタイプです。

2番目に「一人でたくさんの魚をとることができる漁師」です。ほかの漁師と同じ時間をかけて二倍の魚をとることができるなら、収益も二倍となります。

3番目は「高く売れる魚を作り出すことができた漁師」です。ほかの漁師が捨ててしまう魚を独自の料理法で調理し、こう食べればおいしいのでは、と提案を行います。つまり、魚に付加価値をつけるのです。仮にその料理に人気が出れば、原材料が低コストなので大きな利益をあげることができます。

4番目は「魚をとる新たな仕組みを作り出す漁師」です。ほかの漁師が釣り竿で一尾ずつ釣っている時代に、漁船を使い大きく定置網を設置すれば、当然少ない労力で多くの魚を得ることができます。

5番目は「多くの漁師を配下に持つ漁師集団のリーダー」です。人望があり、彼の船のもとには多くの若手の漁師が集まり、彼の指示に従ってチームワークで漁を行います。その結果、安定した漁獲高を全員が確保できるとするならば、そのリーダーもまた多くの収入を手にすることになるでしょう。

そして、6番目は「投資家的な漁師」です。彼自身が漁師でなくても構いません。しかし、漁に関する知識は深く、今市場ではどの魚が人気なのか、どういうルートを使えば新鮮なまま魚を運ぶことができるのか、魚を売るビジネスのあらゆる側面について熟知しています。そして彼は、魚をとるための漁船と網を保有し、漁船の燃料代と漁師を雇う人件費のための資金も潤沢に持っています。彼が所有する船に乗っている漁師が多くの魚をとれば、彼はほかの漁師に報酬としての魚を渡し、残りを自分のものとします。しかし、市場の読みを間違えて、とってきた魚の値が暴落してしまうと大損になります。つまり、このタイプの漁師は究極の結果責任を負っているのです。

これまでに述べた儲かる漁師をまとめると以下のようになります。

1.商品を遠くに運んで売ることができる人(トレーダー)
2.自分の専門性を高めて、高いスキルによって仕事をする人(エキスパート)
3.商品に付加価値をつけて、市場に合わせて売ることができる人(マーケター)
4.まったく新しい仕組みをイノベーションできる人(イノベーター)
5.自分が起業家となり、みんなをマネージ(管理)してリーダーとして行動する人(リーダー)
6.投資家として市場に参加している人(インベスター=投資家)

コモディティ化を避けるためには、この6タイプのいずれかに属する必要があるということになります。

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学生時代から焦る必要はない

ここまでの話を聞いて、焦った方も多いのではないでしょうか。上で述べた6タイプのどれかになるためには、並大抵の努力では不可能のように思えますし、そもそも自分には才能がないからどれだけ頑張ったって無理だとさえ感じてしまいます。しかし、瀧本氏はこうも述べています。

成功した起業家に実際に話を聞いてみると、学生のときから起業のためにすごく努力をしていた、という人はほとんどいない。そうではなくて、自分が長年興味と関心を抱いていた何かに、心から打ち込んでいるうちに、たまたま現在の状況につながっていた、というケースが多いのだ。だから私は、社会に出てからのステップアップやキャリアプランについて、学生のうちから考え続けることは意味がほとんどないと考える。社会に出てから本当に意味を持つのは、インターネットにも紙の本にも書いていない、自らが動いて夢中になりながら手に入れた知識だけだ。自分の力でやったことだけが、本物の自分の武器になるのである。資本主義社会を生きていくための武器とは、勉強して手に入れられるものではなく、現実の世界での難しい課題を解決したり、ライバルといった「敵」を倒していくことで、初めて手に入るものなのだ。

焦らずに、夢中になれるものを見つけることこそが大事なことなのだ、と気づかせてくれます。

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いかかでしょうか。この本は、現代を戦略的に生き抜くためのヒントが、数多くの具体例を交えながら記された良書です。ここで紹介しきれなかったことが、まだまだたくさん書かれています。興味を持たれた方はぜひご一読あれ。

☆こちらは同じ瀧本哲史氏の著書を、インテルなど外資系企業に20数年努めたライターが紹介している記事です。紹介者の視点が異なればメッセージも変わります。ぜひこちらの記事もご覧ください。
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京都大学農学部応用生命科学科所属。香川県立高松高校卒業。iGEM Kyoto 所属、デザイン担当。ボストンで開かれた合成生物学の世界大会iGEMの2014年度大会に出場し、金賞を受賞した。サイクリングが趣味。