一流と呼ばれる人たちは、自分だけのルーティーンをとても大切にしています。どんなときでも習慣化した振る舞いを繰り返すことで、集中力を最大限に高めて勝負に臨んでいるのです。なかには、一見合理的でないように見えるルーティーンを行う人もいます。

一方、永世竜王、永世棋王の有資格者である渡辺明さんは合理派の代表のような棋士であり、必要な手だけを指して勝利を目指す棋風で知られています。今回はそんな渡辺さんの戦う姿勢を通して、「運」というものの捉え方に迫ります。

【格言】
験は担がない

やや難しい言葉を用いると、将棋は「完全情報ゲーム」と呼ばれる。伏せた牌やカードのある麻雀やトランプなどとはちがって、情報はすべてプレイヤー全員に開示されている。そうしたゲームは、理論的には運の要素は介在しない。将棋で勝つのも負けるのも、「すべてが実力」ということになる。

もちろん、誰もが理屈としては将棋に運の要素がないのは知っている。しかしそれでも、なにかしらの験は担ぎたくなるものだ。以前に勝ったときと同じネクタイをしてみたり、同じものを食べてみたり。それぐらいのことであれば気分の問題だから、やってみて損はないだろう、という棋士もいる。

また、「指運(ゆびうん)」という言葉もある。「終盤、どちらか迷ったところで指がどこに向かうかは運みたいなものだ」という見方である。勝者が局後のインタビューで、「幸運でした」「ついていました」と言えば、それは謙虚な姿勢と受け止められるだろう。

一方で、渡辺明は合理派の代表である。験を担ぐなどといったところに、意識を費やしたりはしない。そこまで割り切って対局の場に臨むのもまた、現代型の勝負師と言えよう。

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渡辺さんの「験は担がない」合理的な行動は、ただ単に「意味がないことはしない」ということではなく、自らのスタイルに対する絶対的な自信に裏打ちされたものです。

もちろん、一見非合理的に見えるルーティーンが精神を落ち着かせて集中力を高める場合もあるため、経を担ぐかどうかは人それぞれ。でもそうしたことに興味がない人は、ぜひ渡辺さんのスタイルを参考に、自分ができる「合理的な行動」に集中するアプローチを試してみてはいかがでしょうか。

【棋士プロフィール】
渡辺明(わたなべ・あきら)
1984年4月23日、東京都葛飾区に生まれる。94年、小学生名人戦で優勝し、同年、所司和晴七段門下で奨励会入会。2000年、四段。04年、20歳で竜王位獲得。タイトル獲得数は竜王11期、棋王5期など、合計19期(17年10月末現在、史上5位)。

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