他者との心理的距離が創造性をもたらす! クリエイティブに問題解決するための3つの科学的な方法。

自分以外の誰かに問題が起こっているのを見たとき、「自分ならこうするのにな」と、良い解決策を思いついたことはありませんか? それなのにいざ自分に問題がふりかかってくると、なかなか解決できず、窮地に陥ってしまいます。

誰しも、時には問題に直面することはあるでしょう。そこでどのように対処していくかが重要です。創造的で良い解決策を思いついたなら、問題が及ぼす悪影響を最小限にとどめることができます。

他人のための意思決定は自分のためよりも創造的

他人になにか問題が起きたとき、つい彼らの対応を批判してしまいがち。例えば、スキャンダルが発覚した後、有名人が謝罪会見を開くとしましょう。会見内容がどんなものだったとしても、「こう言ったほうがよかったんじゃないか」「私なら代わりにこうするのにな」と、非難する人はいるでしょう。

ここまで極端な例ではなくても、職場の同僚や部下が失敗をしたときも同じです。直接言葉には出さなくても、脳内で「もっとうまくやればいいのに」と思ったこと、ありませんか。

自分以外の誰かに対する指摘の中には、もっともな意見もたくさんあります。しかし実際に、同じような問題が自身にふりかかってきた場合を想像してください。普段他人の行動に対して的確な判断を下している人全員が、自分の問題に対する解決策として、同様に最良の選択をできるでしょうか? そんなことはありません。実は、これには科学的理由があるのです。

他者との心理的距離とアイディアの質の相関性

自分自身のためよりも、他人のために意思決定をしたほうが、より創造的で良い考えが浮かぶ。これを科学的に裏付ける根拠として、大学教授のEvan PolmanとKyle J. Emichが、『Personality and Social Psychology』の研究誌に、面白い実験結果を報告しています。

実験1 被験者は、宇宙人が登場するストーリーを書き、その話に登場する宇宙人のイラストを描く。または、他人が書くストーリーに登場する宇宙人のイラストを描く。結果、他人のストーリーのために描いた宇宙人のイラストのほうが、自分のために描いたものよりも、創造的で良いものであった。

実験2 他人を、よく知っている知人と、そこまで親しくない他人に分ける。被験者は、心理的距離が遠い他人、心理的距離が近い他人、そして自分自身のために、ギフトのアイディアを出し合う。結果、心理的距離が遠い他人のために考えたアイディアのほうが、親しい知人や自身のためのアイディアよりも、創造的であった。ギフトの受取人が自分と遠い関係にあればあるほど、より良いアイディアが出されるという相関関係が見られた。

実験3 ものの見方や考え方を大きく斬新に変えないと解決できない問題を、インサイト・プロブレムと呼ぶ。実験では被験者が、自分または他者のために、以下のインサイト・プロブレムに挑戦した。

塔に閉じ込められている囚人が逃亡を試みている。その塔から安全に地上に降りるために必要な長さの半分しかないロープが、監房の中に見つかった。囚人はそのロープを半分に分け、2箇所を結んで、逃亡に成功。さて、その方法とは?

(引用:Evan Polman and Kyle J. Emich (2011), “Decisions for Others Are More Creative Than Decisions for the Self”, Personality and Social Psychology Bulletin, Vol.37, No.4, pp.493)

他者のために解決策を考えるとき、自分のために考えるよりも、より高い確率で正答できる傾向にあった。また、他人との関係が遠ければ遠いほど、正答率が上がった。

以上の3つの実験結果から、人は自身のためよりも、他人のために意思決定をするほうが、より創造的で良いアイディアを生み出せることがわかります。また、他者との心理的距離が大きくなるにつれて、その傾向は高まるようです。

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Construal-Level Theory

自分から距離があるほうが、「良い」アイディアを生み出せるというのは、想像しやすいですね。自分が傍観者でいるとき、問題の影響に悩まされずに済み、冷静になって客観視できるため、解決もしやすいのだと推測できます。ではなぜ、良いだけじゃなく「創造的な」アイディアを思いつくことができるのでしょうか?

その答えは、Construal-Level Theory(解釈レベル理論)に隠されています。一言でいうと、対象との距離の認知が、人間の考え方に大きな影響を及ぼすという理論です。早稲田大学消費者行動研究所で所長を務める阿部周造・商学学術院特任教授は、「解釈レベル理論」を次のように説明しています。

人は出来事や対象に対する心理的距離が遠いときにはより抽象度の高い解釈レベルで考えようとし、逆に心理的距離が近いときにはより具体的なレベルで考えようとする傾向があって、そうした解釈レベルの違いが、選択肢の評価や選択そのものに影響を及ぼす(中略)。心理的距離には、時間的距離、空間的距離、親しさの距離などが含まれる

(引用:読売新聞オンライン|解釈レベル理論という新しいアプローチで消費者行動研究に新領域を拓く|

解釈レベル理論の代表例として、マリッジブルーが挙げられます。プロポーズされたときは、結婚できることに漠然とした喜びや安心感を感じます。ただそれは、役所で入籍したり、結婚式を挙げたりするより、半年~1年ほど前のこと。まだまだ先のこととして、結婚を抽象的に捉えている段階です。

しかし、実際に挙式の日が近づくにつれて、生活の変化に対する不安や結婚相手との相性に対する疑問等が頭に浮かんでくることがあります。なぜなら、結婚を現実のものとして、具体的に捉えるようになったから。このように、対象との時間的距離により、思考のレベルが異なり、物事の捉え方も大きく変わってきます。

抽象的、具体的な思考レベルの変化を引き起こす要素は、時間的距離”に限りません。遠くの場所にいるという空間的距離”や、親しいという心の距離”でも同様です。先ほどの実験の話で、関係が遠い他者に対して創造的なアイディアを思いついたのは、より抽象的な思考をできたからなのです。

創造的な問題解決方法

では、この知見を活用して、創造的な方法でよりよく問題解決をするための方法を考えてみましょう。

1. 自分の問題を他人のものに置き換える 自分に起こったことだから、つい焦ってしまいがち。問題によって引き起こされる悪影響が頭に浮かび、ネガティブな考えに支配されてしまいます。その結果、視野が狭くなり、固定観念に囚われることもあるでしょう。創造的な解決策は到底思い浮かびません。まずは問題の当事者を、自分以外の誰かに置き換えて考えてみましょう。

2. 相談役(コンサルタント)になりきる とはいっても、そう簡単に置き換えられるわけではありません。そこで、プライベート上の問題なら「相談役」、または仕事での問題なら「コンサルタント」になりきってください。そして、あまり知らない「相談者/顧客」の問題を解決してあげる姿をイメージします。自分にふりかかってきた問題を、遠くの他人の問題として受け止めるために、なりきることが大切です。

3. 一時的に問題について考えるのをやめてみる 心理的距離があればあるほど、冷静になれるもの。落ち着いて、問題を客観視できるようになります。また、抽象的な思考が可能になり、アイディアを思いつきやすくなります。そこでいったん、問題について考えるのをやめてみましょう。

散歩をしてもいいし、家事や軽い運動をするのもいいでしょう。時間に余裕があるのなら、一晩から数日間おいてみるのも手です。他のことをしている間に、または夜ベッドでうとうとしながら、ふと良い考えが浮かぶことがあります。

実際にやってみた

先日、プライベートで大きなミスをしてしまいました。しかし、一度深呼吸し、遠くの親戚の女性にこの問題が起きたとイメージすることにしました。その女性の話を電話越しに聞き、どう解決すれば良いのかを一緒に考える姿を想像したのです。

最初は動揺し、「こんな失敗をするなんて私は本当に駄目だなあ」と落ち込んでいました。しかし、相談役の私と“当事者”の女性とのやりとりを思い浮かべるうちに、「時には失敗することもありますよ」「いつまでも落ち込んでいても前に進めませんよ」と女性を励ます自分の姿がイメージされ、だんだんと前向きな気持ちになれました。

また、「まずはこうしたらどうでしょう。」と、落ち着いてアドバイスをする姿も想像できました。その後、考えるのをいったんやめ、家事や水泳をして気分をリフレッシュ。数日後、“他人”のためだと仮定して考えたアドバイスを自身で実行し、現在その問題は解決済みです。

上記の1~3のプロセスを通して、最初の自分では思いつかないような、斬新な解決策を見いだすことができました。しかし、それだけではありません。他者の視点から問題に向き合うことで、自ずと心理的ダメージも解消したのです。これは思ってもみなかった収穫でした。

一時的に問題から距離を置くときは、複雑な思考を必要としない単純作業や、熱中しすぎずリラックスしてできることをするのが良いでしょう。一度、大好きなアクション映画を観たのですが、夢中になってしまい、知らぬ間にふと良い案が浮かぶような隙がありませんでした。

ジョギングや散歩、簡単な料理や掃除など、何も考えず軽く体を動かせるアクティビティのほうが、ふとした瞬間にアイディアが浮かびやすくなりますよ。

*** 問題が起きるたびにくよくよしていたら、何事も成し遂げることはできません。それをどう解決していくかによって、あなたのキャリアや人生が変わります。上記の3つの方法、ぜひ試してみてくださいね!

(参考) Evan Polman and Kyle J. Emich (2011), “Decisions for Others Are More Creative Than Decisions for the Self”, Personality and Social Psychology Bulletin, Vol.37, No.4, pp.492-501. Daniel H. Pink|3 tricks for solving problems faster and better QT PROモーニングビジネススクール|解釈レベル理論(Construal Level Theory) 読売新聞オンライン|解釈レベル理論という新しいアプローチで消費者行動研究に新領域を拓く

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