私たちの感情と切っても切り離せない存在が涙です。楽しいとき、悲しいとき、嬉しいとき、おもしろいとき。私たちはさまざまな場面で涙を流しますよね。

そこで今回は、“悲しい” “つらい” といった「ネガティブな感情」のときに流す涙に着目したいと思います。仕事や勉強が思うようにできなくて悲しい……。上司に怒られてつらい……。皆さんも一度は、このような経験をしたことがあるのではないでしょうか。このときに流れる涙は、実はある効果を秘めていたのです。

それでは涙について、その研究の歴史にアプローチするとともに、科学的にどのような効能があるのかをご紹介していきましょう。

涙とは

そもそも「涙」とはどのようなものなのでしょうか。Wikipediaでは以下のように定義されています。

涙(なみだ、淚、涕、泪)、涙液(るいえき)は、目の涙腺から分泌される体液のことである。眼球の保護が主要な役割であるが、ヒト特有の現象として、感情の発現による涙を流すことがある。

(引用元:Wikipadia|

感情を伴った涙はヒト特有の現象として存在していますが、その科学的な機構はいまだに解明されていません。ちなみに、産卵時のウミガメや、近年話題になった50年にも及ぶ虐待から解放されたゾウなどに見られた涙から、動物の涙にも感情が伴っているのではないかという論争もあることは事実です。

さて、人間にとっての涙は主に悲しみの象徴として認識されていますが、実際は涙には「基礎的涙」「反射性涙」「感情的涙」の3つの種類があります。順番に見ていきましょう。

・基礎的涙(Basal tear)
目の保護のための機能的な涙を意味します。気づいている方はあまり多くないかと思いますが、実は目の表面は常に涙に覆われています。それにより、目を保護していたり、視力を保っていたりするのです。

・反射性涙(Reflex tear)
文字通り、目に対して何らかの異変があった際に、その反射として流す涙のことです。基礎的涙では足りない際に分泌されます。例えば目にゴミが入ったときやあくびをしたときで、感情とは全く紐づいていません。

・感情的涙(Emotional tear)
こちらが今回テーマとして扱うものです。涙を流すことに目的なあるわけではなく、ある感情が強く発現したときに副次的に流れてくるところに特徴がありますね。基礎的涙とも反射性涙とも異なる、感情が高ぶった際に生じるヒト特有の涙です。

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感情的涙の効果

それでは、この3つめの「感情的涙」について詳しく見ていきましょう。

涙の研究自体は19世紀の後半から執り行われてきましたが、当時、感情的涙は反射性涙と同質のものだと思われていました。しかし次第に研究が進むにつれて、反射性涙の際には見せないような反応をヒトが見せていることが明らかになってきたのです。

具体的には、
・呼吸が増える
・目の血管が膨張する
・目の周辺の筋肉が収縮する
といった反応です。そして科学者たちは、この感情的涙の際だけどうしてこのような反応が現れるのか、ずっと疑問に思ってきました。

しかし20世紀の後半になると、ようやく感情的涙の特異性がわかってきました。というのも、ほかの2種類の涙には含まれていない物質が存在していたのです。ここで、感情に基づいて流す涙に含まれる代表的な要素を並べてみましょう。

・副腎皮質ホルモン
・ロイシンエンケファリン
・セロトニン

これらの中でも注目すべきは、副腎皮質ホルモンです。副腎皮質ホルモンとは、コルチゾールに代表される、ストレスのもとになっているホルモンのこと。涙を流すことでストレスが解消されるという言葉の背景には、副腎皮質ホルモンが体外に排出されるという現象があったのですね。

また聞き慣れない名前ですが、ロイシンエンケファリンという物質も、涙を流すことで分泌されます。これは鎮痛作用を持つ化合物の一種であり、アヘンのような麻薬物質です。この物質の分泌による再吸収が自己投与効果を持つとされているため、涙を流すと、どこかすっきりしたような気持ちの良い感情になるのです。

最後のセロトニンは近年市民権を得てきているため、解説するまでもないかもしれませんね。幸せを感じるためのホルモンであり、涙を流すことで晴れやかな気持ちになるのは、まさにこの物質のおかげでしょう。

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つらいとき、悲しいときには涙を流そう

さて、ここまで涙について解説してきましたが、感情的涙がやや特殊なもので、流すことで気分が良くなる仕組みであることがおわかりいただけたかと思います。

皆さんの中には、つらいことや悲しいことがあったときに泣いてしまうのを恥ずかしいと感じる方や、あるいは必死に涙をこらえて感情を無理に抑えつけようとする方もいるかもしれませんね。実際、泣かずともつらさや悲しみを乗り越えるためのさまざまなメソッドも、世では紹介されています。

しかし、いろいろな方法がある中でも筆者は、やはり感情に任せて涙を流してしまうことをおすすめします。なぜならば、あなた自身の体に、つらさや悲しみを乗り越えるための仕組みがもともと備わっているのですから。前述したような感情的涙に特有の物質が、皆さんをネガティブな感情から解放してくれること間違いなしです。

***
余談ですが、約150年前に始めて涙の研究を始めたのは、『種の起源』で有名なチャールズ・ダーウィンです。今でこそ進化論の印象がとても強い彼ですが、学界では、感情研究の第一人者として評価されています。

150年も連綿と続く研究に裏打ちされた、しっかりとした効果が、涙にはあるのです。

(参考)
Darwin, C. R. (1872), “The expression of the emotions in man and animals” London: John Murray.
William H. Frey (1985), “Crying: The Mystery of Tears” Winston Pr.
Wikipedia|