みなさんは、仕事や課題は難しい方が好きですか。それとも、大変な仕事はできるだけ引き受けたくない、と思いますか。

同じ会社の同期でも、皆が同じ仕事をしているわけではありませんよね。自分は難しくて大変な仕事をしているのに、同期は単調で簡単な仕事ばかりしていて不満だと感じることもあるかもしれません。

例えば、自分はたくさんの取引先を抱えて、複数のプロジェクトのスケジュール管理に手一杯。それなのに同期のある人は、楽な顧客ばかり担当していて上司にも恵まれているようにみえる。それで同じ賃金をもらっているなんて不公平だ、自分は損をしている、感じてしまう人もいることでしょう。

しかし、難しくて大変な仕事ばかりしていることは、決して損なことだとは言えないのです。

今回は、仕事の難しさ・複雑さと「知的水準」についてのお話です。

知的水準を高く維持するには、複雑な仕事を引き受けるべき

アメリカで5,423人の労働者を対象に行われた調査によると、知的水準が高い人は複雑で難しい仕事を好む傾向が見られました。仕事に対する意識が高く、充実感や達成感を求める人たちにとっては複雑な仕事を行う方が職務満足度が高いのです。

その一方で、変化のない単調で楽な仕事は、知的水準の「低下」をもたらす可能性があります。芝浦工業大学大学院客員教授である西村克己氏によると、ワンパターンで限られた仕事の繰り返しだけでは、一部の脳しか使わないため、脳の他の部分が退化してしまうのだそう。脳は、同じ作業を繰り返す仕事を「苦痛だ」と感じると、新しい情報や変化を受け入れる能力が低下してしまうのです。

ですから、知的水準を高めるため、または高いままの状態に保つためには、複雑な仕事に積極的に取り組む方が良いでしょう。

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複雑な仕事とは、複雑で自主的な判断が求められる仕事

では、「複雑な」仕事とは一体どのようなものなのでしょうか。京都大学文学研究科准教授の太郎丸博氏らの研究チームは、仕事の複雑さとは「職務の遂行にどれほど複雑で自主的な判断が要求されるか」によるものだと定義しています。例えば、様々な情報を収集、分析、そして統合することによって問題解決のための判断を導き出したり、新しい方法を見つけ出したりするようなことです。

ここで、メルボルンに本社を置くオーストラリア・ニュージーランド銀行における人材育成の例を挙げましょう。同社では、潜在能力が高いと見込まれた社員を昇格させる時、予算などがより大きいポストではなく、スタッフ業務やライン業務、海外への転勤など、全く新しい挑戦が求められる仕事を経験させるのだそう。単にいまの仕事をスケールアップさせるのではなく、まったく違う業務にアサインすることによって様々な問題に対応する能力を養うという狙いがあるのです。

複雑に見える仕事でも、同じことの繰り返しなら自主的な判断を下す余地は少なくなってきます。前例に従って仕事をしていればいいだけなので簡単ではありますが、仕事から学び取れることは限られてしまいます。

仕事によって自分を成長させようという気持ちがあるのなら、複雑な仕事、つまり、未知の業務にもどんどんチャレンジして、多様な経験と視点を得ることが必要なのです。

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複雑な仕事も、効率化すれば取り組みやすい

複雑な仕事、新しい仕事に挑むことには大変そうなイメージがありますから、聞いただけでひるんでしまう人もいるでしょう。ですが、複雑な仕事も、その複雑性を分解してシンプルな仕事に変えることができれば、きちんとこなしていくことがでます。

トレーニング・コンサルティング会社ブライアン・トレーシー・インターナショナルの会長であるブライアン・トレーシー氏によると、仕事には「複雑性の法則」というものが働いているのだそう。複雑性の法則とは、どのような仕事も、その手順の数の2乗に比例して複雑になるというものです。

ごく簡単な例ですが、商品を箱に詰めるという仕事は、「商品を詰める」「自分で箱に詰める」という2つの作業の組み合わせなので2の2乗=レベル4になります。実際の仕事は、これよりもっと業務プロセスが多いと思いますので、レベルはどんどん上がり、複雑さはさらに増していくでしょう。複雑さの度合いが大きくなれば、ミスをしてしまったり挫折してしまったりする可能性も当然高まります。

しかし、その複雑なプロセスをシンプルにすることができれば、ミスをする可能性を減らすことができるのです。複雑な仕事も細かなプロセスに分解すれば、分解されたそれぞれのプロセスはシンプルなものになりますね。

例えば、新人スタッフに、顧客対応業務のしかたを教えるというとき。

顧客対応で発生し得るあらゆるシーンをまとめて想定してしまうと、業務全体がとても複雑に見えてしまうでしょう。しかし、顧客との初回コンタクト時の対応、2回目以降のコンタクト時の対応、○○について問い合わせを受けたときの対応、××というクレームを受けたときの対応……というように細かく分けていけば、それぞれの対応方法については簡単に教えられそうな気がしますよね。

このように、分解されたシンプルなプロセスをいかに効率よく進められるかが、全体として複雑な仕事をうまくこなすための鍵となるのです。

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仕事を「複雑だから」「大変そうだから」といって敬遠していては、いつまでたってもビジネスパーソンとして有用な能力を身に付けることはできません。

仕事を通して成長したいのなら、ぜひ積極的に、複雑な仕事、新しい仕事を選んでみてください。

(参考)
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|リーダーの能力は仕事の「大きさ」より「複雑さ」で磨かれる
長松奈美江・阪口祐介・太郎丸博(2009),「仕事の複雑性スコアの構成―職務内容を反映した職業指標の提案―」,理論と方法,Vol.24,No.1,pp.77-93.
金井壽宏著,高橋潔著(2004),『組織行動の考え方―ひとを活かし組織力を高める9つのキーコンセプト』,東洋経済新報社.
ブライアン・トレーシー著,本田直之監訳,片山奈緒美訳(2009),『フォーカル・ポイント』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
西村克己著(2015),『即効 「ハーマンモデル」理論が教える 職場の苦手な人ともうまく付き合う技術』,Panda Publishing.