誰よりも勉強し、知識も十分なはずなのに、物事がうまく運ばないことが多く、満足感も足りない。そう感じることがあるならば、足りないのはクリティカルな考え方かもしれません。
クリティカル・シンキングとは?
クリティカル・シンキングは日本語で言うと「批判的思考」ですが、単に批判するだけではなく、最適解を導き出すために “問い続ける思考法” です。客観的な思考を土台に問い続けながら、集めた情報や状況を分析して吟味し、より正確に理解したうえで最適な選択をすることです。
そして、より良い人生を歩むためには、IQの高さよりも、この「クリティカルな考え方」が重要だというのです。
クリティカル・シンキングは知的能力に勝る?
一般的には、知性が高いほど有利な条件で職を得られる傾向にあります。また、犯罪者になる確率も低いのだとか。レクター博士で有名な映画『羊たちの沈黙(1991)』などの影響で、サイコパスは知能指数が高いと思われがちですが、ミズーリ州セントルイス大学の犯罪学研究者、ブライアン ・バウトウェル博士らの研究により、精神病質的な傾向が高い犯罪者は、IQのスコアが低い傾向だと分かったそうです。
ところが、たとえIQが高くても、人生を通しての豊かさや満足感は「クリティカルな考え方ができる人」には敵わないのだとか。
カナダ・ウォータールー大学の心理学者イゴール・グロスマン博士らの研究チームは、「ほとんどの知能検査は実社会での判断能力や、人間関係の構築能力には関係がない」と発表しています。
そして、カリフォルニア州立大学ドミンゲスヒルズ校で心理学部門の助教授をつとめるヘザーA・バトラー博士が、「クリティカルな考え方ができる人」と「知的能力の高い人」のどちらが、人生をより良く歩んでいるかについて調査したところ、双方とも大きな問題を抱えずに生活を送る傾向にあったそうですが、クリティカルな考え方を持つ人のほうが、よりその度合いが高かったそうです。
バトラー博士は、「クリティカルな考え方はトレーニングで身につけることが可能で、そのメリットは長いあいだ持続する」と述べています。
クリティカル・シンキングの4段階
発達心理学の世界的権威であるキャシー・ハーシュ=パセック氏と、ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ氏共著の『科学が教える、子育て成功への道』には、子供たちが深く考え、自ら創造し、行動できる人になるために必要なスキルとして、「コラボレーション」「コミュニケーション」「コンテンツ」「クリティカル・シンキング」「クリエイティブ・イノベーション」「コンフィデンス」の6つが挙げられ、それぞれに4つの習熟段階があると紹介されています。
クリティカル・シンキングの習熟度レベル4段階は以下のとおり
レベル1. 見かけをそのまま信じる
例えば、丸いパンを測った重さが示され、そのパンをつぶして平べったくしてから、さっきと(空気以外の)重量が変わったかどうか質問された際、「形が変わったから、重さも変わったはず」と答えてしまうレベルのことです。もちろん、重さは変わっていません。
レベル2. これまでの“当たり前”で現実をとらえる
地球温暖化などの問題に例えると、自分たちの目に見える明らかな変化がない限り、早々に大きな影響はないだろうと考えてしまうレベルです。「今はまだ大丈夫と考えるのは間違いではないか?」と、自分が立てた前提をいったん疑うことが必要です。
レベル3. 人の意見を真に受ける
確証がないのに、第三者が発信した言葉を正しいと思い込んでしまうことです。「個人的な意見」を「真実」ととらえてしまう危うさは、いまのネット社会では起こりがちですよね。
ここから、レベル4に引き上げるには、他者の意見を問いなおし、多面的に問題をとらえて情報を集め、なおかつ自分の考えについても、問いを深めなければなりません。
レベル4. 根拠づけて上手に疑う
ひとつの分野の知識に限らず、多方面から証拠にもとづいた情報を集めてつなぎ、健全に疑いながら、賢く選択するレベルです。批判的精神という姿勢を身につけ、根拠づけたうえで上手に疑うわけです。
では次に、クリティカル・シンキングの基本姿勢を説明します。
クリティカル・シンキングの基本姿勢
グロービス経営大学院では、クリティカル・シンキングの土台となる3つの基本姿勢を、以下のとおり伝えています。
1. 目的は何かを常に意識する ――「何のために考えるのか」を明確にし、「そもそも、いま、このことについて考える意味はあるのか」「本当の目的は違うところにあるのではないか」と考える習慣をつけ、正しく考える。
2. 自他に思考のクセがあることを前提に考える ――人は誰しも「個人的価値観や過去の経験からの教訓」に影響されてしまうものなので、「自分や相手の判断に、影響を与えている価値観や好き嫌い、思い込みはないだろうか?」と考える習慣をつける。
3. 問い続ける ――常に「Why?」と問うことは原因の発見や前提の確認につながり、常に「True?」と問うことは誤解がないかの確認につながる。
何かを考える際、常にこの姿勢を保ち、思考の懐を深くしておけば、徐々にクリティカル・シンキングが身についていくはずです。
シャーロック・ホームズはクリティカル・シンカー?
もうひとつ、クリティカル・シンキングを楽しく学ぶ方法があります。それは、推理小説を読んだりドラマを観たりすること。なかでもおすすめは『シャーロック・ホームズ』です。
イギリスの作家アーサー・コナン・ドイルがホームズを生み出してから長い年月が経った今でも、『どのようにしたらシャーロック・ホームズのように考えられるか?』という本が出版されているのだそう。そして、シャーロック・ホームズがクリティカル・シンカーだという見方もあります。シャーロック・ホームズを主役にした現代版ドラマなどもあるので、ぜひ楽しく推理しながらクリティカル・シンキングを学んでくださいね。
*** クリティカル・シンカーになって、より良い人生を歩みましょう!
(参考) カラパイア|実はサイコパスの知能指数は平均より低いことが最近の研究で明らかに(米研究) GLOBIS 知見録|クリティカル・シンキングの3つの基本姿勢: テクニック以前に必要なこと Future Edu Tokyo|クリティカルシンキングの身につけ方:前編 習熟度4つのレベル編 キャシー・ハーシュ=パセック著,ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ著,今井 むつみ訳,市川力訳(2017),『科学が教える、子育て成功への道 単行本』,扶桑社. 牧本 清子編さん(2014),『よくわかる看護研究論文のクリティーク―研究手法別のチェックシートで学ぶ』,日本看護協会出版会.