昨今、人工知能に関するニュースがメディアに頻繁に取り上げられています。それだけでなく、実用的なAIを搭載した物がさまざまな分野で急速に活用され始めてきています。たとえば投資のロボアドバイザー、音声アシスタントAmazon Alexa、googleやTESLAやUBERが開発を進めている自動運転……。
こうした技術は、人類に大きな進歩をもたらす可能性を秘めています。しかし一方では、かつて人間が担っていた仕事をAIが代わりにやるようになり、失業する人が増える、という面もあるのです。
自動化が進み、人間の労働力が機械に置き換えられるということは、歴史上繰り返し起きています。しかしこれまでは、組み立て作業など比較的単純で労働集約的な分野でそれは起こってきました。しかし、高度な判断能力と思考能力を用いた分野でもその代替は確実に進んでいるのです。シンギュラリティ(技術的特異点)といった言葉で語られるように、今後人間は完全にロボットに仕事を奪われてしまうのでしょうか?
「東ロボくん」の挫折
AIに関する試みとして有名なもののひとつに、日本の国立情報学研究所(大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構)が中心となり2011年から2016年にかけて行われた「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトがあります。これは「東ロボくん」というプログラムを、ビッグデータと深層学習を通じて強化することによって、東京大学の入試突破を目指すというものです。
このビッグデータと深層学習という手法は、現在のAIの根幹をなすものです。プロジェクトの発端以来、順調な進化を遂げた東ロボくんは、全国規模のマーク模試で偏差値58を記録しました。しかしながら、偏差値は頭打ちを迎え、東京大学の入学に必要な学力を身につけることは既存の手法によるAIには不可能であるという結論が出ました。
読解力こそが、人間にあってAIには無いもの
「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトの頓挫によって、AIの限界が明らかになります。それは、読解力はどんなに統計的学習を行っても身につかないということです。
一問一答で答えられる問題に対しては、データベースに蓄積された問題を通じて極めて正確な回答を導き出します。しかしながら、文章のつながりを読み取り、問題を解釈するということは人間にしかできないのです。そのため、問題を解釈し、求められる回答を推理し、正確な回答を記述するというプロセスのある東京大学の入試は突破できないのです。
すなわち、この先進化を続けるAIに仕事を奪われず、人間としてのバリューを持ち続けるためには、コミュニケーションや読解力といったものがカギとなるのです。
あなたは本当に読解力がありますか?
RSTと呼ばれる文章を正確に理解する能力を測るテストがあります。下に記載するのはその問題のひとつです。
次の文を読みなさい。 アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。 この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。 セルロースは( )と形が違う。 (1)デンプン (2)アミラーゼ (3)グルコース (4)酵素
(引用:Yahoo!ニュース|大事なのは「読む」力だ!~4万人の読解力テストで判明した問題を新井紀子・国立情報学研究所教授に聞く )
答えは(1)のデンプンです。RSTを社会人に解かせると、多くの人が(3)のグルコースと答えたそうです。誤答をした人の中には、経産省の官僚や新聞の論説委員の人もいたようです。このように、ホワイトカラーの労働者といえども、正確な読解力があるとは必ずしも言えないのです。言葉の正確な理解に基づいた対話を可能とする能力を鍛えるにはどうしたらいいのでしょうか。
読解力を鍛える方法
単発の知識を問われるような場合においては、もはや人間はAIに勝ち目はないのかもしれません。だからこそ、今後は読解力、すなわち、相手の言葉を正しく理解する能力を鍛える必要があるのです。
読解力を鍛えるには、読書量を増やす、読書会を開く、新聞を読む、本を要約する、人の話をよく聞く……と数多くの方法がありますが、筆者自身が効果を感じた方法を齋藤孝氏の著書『読書力』より紹介します。
1. 音読をする 文章を誤読する原因として多いのが、飛ばし読みする癖です。この癖を矯正する方法として音読をおすすめします。音読をしていれば、必然的に読むべき文章を目で追わなければなりません。さらに、文字を音声化することで内容頭に入りやすく、正確な理解にもつながります。
2. ラインを引きながら読む 本の趣旨や文脈から大切だと思えるところと、個人的におもしろいと思ったところを色を分けて線引きします。すると、あとで記憶を呼び起こしやすくなるだけではなく、意識的に前後のつながりや趣旨を考えながら読むこととなります。線を引くという読み方をする人は多いと思いますが、目的別に色分けをすることが重要です。
3. 緩急をつける 本のすべてを丁寧にじっくり読む必要はありません。重要な本はあまりにも多く、その一方で私たちの時間は限られています。具体例を述べている部分や、本の全体の趣旨から考えてそれほど重要でない章はさらっと読みましょう。そして、重要な箇所や筆者の主張が述べられている部分はじっくりと慎重に読みましょう。これもまた、文脈を丁寧に読み取り、文意を把握するうえで重要な技術です。
*** センセーショナルな文脈で語られることの多い人工知能という分野ですが、私たちにはまだ優位性があるというのが現在の主流な考え方だそうです。そのなかでもキーワードとなる読解力をこれからも鍛えていきましょう。
(参考) 齋藤孝(2012),『子どもの学力は「読解力」で決まる! 小学生のうちに親がゼッタイしておきたいこと』,朝日新聞出版. 齋藤孝(2002),『読書力』,岩波文庫. 新井紀子(2018)『AI VS. 教科書が読めない子供たち』,東洋経済新報社 YAHOO!ニュース|大事なのは「読む」力だ!~4万人の読解力テストで判明した問題を新井紀子・国立情報学研究所教授に聞く