説明文を目で熟読して覚えるのは得意、だけど耳で話を聞いて記憶するのは凄く苦手……。そんな人はいませんか。

バイト先で先輩からの指示を覚える、上司から新しい企画案について口頭で説明してもらう……。大学に入ったり、社会に出たりすると、そんな機会はたくさんあります。それなのに、耳で覚えるのが苦手なままでは苦労してしまいますよね。

この記事では、「どのようにして耳で記憶するか」に焦点をあてて、その具体的な方法を考えていきましょう。

そもそもどうして「耳で覚えられない」のか

耳で覚えるのが苦手である場合、主に2つの理由があると考えられます。

1つ目は、耳で覚えた経験が少ないから。小学校・中学校の時に授業を良く聞く習慣がなかった人や、参考書を目で見て覚えていた人に多いパターンです。今までの人生の中で耳で覚える習慣がなかったことが、聞いて記憶することができないことの大きな要因となっています。

2つ目は、脳の思考パターンがそもそも聴覚優位でないから。

室内設計家で空間認知に関する専門的知見のある岡南氏は、『天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル』という著書の中で、人間は視覚優位の思考をするタイプと、聴覚優位の思考をするタイプの2通りに分かれると示しています。前者の例がサグラダ・ファミリアを設計したアントニオ・ガウディ、後者の例が『不思議の国のアリス』の作者で知られるルイス・キャロルなのだそう。

聴覚優位でない思考をする人、つまり、視覚優位の思考をする人は、テスト前に莫大な量の知識を頭に詰め込まないといけないような、視覚をフルに働かせて記憶する時には力を発揮するため学業成績が良いことが多いのですが、目で見て覚えるための文章が用意されていない場合、例えば、職場で先輩から口頭で指示を受ける場合などには、指示がなかなか覚えられず困ってしまいます。「学業成績による周りの人からの期待」と「人から聞いた指示を適切に覚えられない」というギャップに苦しむ可能性があるのです。

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「耳で覚えること」は人間にとって重要な記憶法

ここで、人間の記憶にとって聴覚が大事な存在であることをあらわすエピソードを紹介しましょう。

「伊藤塾」という、司法試験の短期合格者を多数輩出している司法試験予備校があります。その塾長である伊藤真氏は、著書『記憶する技術』の中で、彼が出会った全盲の受験生について記しています。その受験生は、音声化された膨大な量の伊藤塾の教材を全てパソコンに読み込ませて、耳だけで全部記憶し、司法試験を突破しました。今では弁護士として立派に活躍しているそうです。このことについて、伊藤氏は次のように記しています。

聴覚は記憶しやすい感覚で、やればやるほど鍛えられる。彼に出会って、その思いを強くした。
(中略)
考えてみれば、文字がなかった時代、人間にとって記憶する手段は聴覚しかなかった。さまざまな文化や伝承は口づたえで伝えられ、継承されてきた。今でも文字をもたない地域の人たちは、文化や伝統や歴史を歌や口で伝えて、耳で覚えている。
人間の記憶にとって、耳からの記憶はもっとも思い出しやすく、記憶しやすいものなのかもしれない。

(引用元:伊藤真(2012),『記憶する技術』,サンマーク出版.)

このように、古来から、人間の記憶は耳から耳へと伝わってきました。聴覚による記憶力は、人類が形作ってきた歴史において視覚と同じくらいに大事な役割を果たしていると言えるのです。

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「耳での記憶力」を鍛えるには?

今まで視覚優位の形で物事を記憶してきた人も、社会人としては聴覚から記憶する力を鍛えていく必要があります。覚えるべきことがらは、すべて目に見える形で用意されているとは限らないからです。では、耳での記憶力を鍛えるにはどのようにしたらよいのでしょうか?

有効な方法の一つが、人の話をよく聞き、頭の中で整理する訓練を積むことです。例えば、授業や講演などを聞く時に、講師の話をできるだけ頭の中でまとめてからメモを取る様に工夫するのも大切でしょう。

耳による記憶力強化の方法として私がお勧めしたいのは、上に紹介した伊藤氏の提唱する「セルフレクチャー」という方法です。

セルフレクチャーとは、講義を聞く際、講師の先生の文章表現や説明の仕方をあとでそのまま再現するつもりで聞きとり、講義が終わってからの帰り道や帰宅後などに、声を出して再現してみるという勉強法です。

この方法をとると、自分の声を自分の耳で聞くという点で、聴覚の記憶の向上に大きく繋がります。また自分に向かって説明する際に、必要な情報を取捨選択して話すことで、頭の中の記憶を整理することもできます。

また、講義を受けるような機会ではない場合でも、テレビで観たニュースの内容や、芸人さんの面白いネタを話すことでも、耳からの記憶力が鍛えられます。

とにかく耳から聞いたことを声に出す。それを根気よくくり返すことが効果的である。

(引用元:同上)

伊藤氏はこのように綴っています。

***
セルフレクチャーを用いて聴覚を鍛えれば、聞いた言葉を頭の中で再構築できるようになるので、仕事場での指示を覚えられるようになる、授業で聞いた内容を覚えられるようになる、人と話した内容を忘れなくなる……など多くのメリットを得られます。この画期的な方法を、是非今から始めてみましょう。

(参考)
伊藤真(2012),『記憶する技術』,サンマーク出版.
茂木健一郎(2010),『脳を活かす勉強法』,PHP研究所.
岡南(2010),『天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル』,講談社.
池谷裕二(2001),『記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方』,講談社.