皆さんは、村上春樹の作品を読んだことがあるでしょうか?

例年、ノーベル文学賞候補に名前が挙がり、新刊が発売される度に世間を賑わせている人気作家、村上春樹氏。「普段小説は読まないけど、村上春樹の作品は読む!」という人も多いでしょう。

しかし、名前は聞いたことがあるけど実際には読んだことがないという人もいるのではないでしょうか?

そこで今回は、村上春樹の大ファンでほぼ全ての作品を読んでいる筆者が彼の作品の魅力を紹介しようと思います。読書が苦手な人でも読みやすい作品もあるので、これから読書を始めるきっかけの参考にしてみてください。

村上文学をどう読むか?

村上春樹作品の多くは、ミステリー小説のように殺人事件が起こるといったエキサイティングな展開がありません。その点で退屈だと感じてしまう人もいるでしょう。

しかし、そのようにある意味“地味”な村上春樹の世界には、他の作品にはない魅力が宿っています。その魅力を理解し、実際に触れることで、村上文学の面白さが何倍にも伝わってくるはずです。

・散りばめられたハイセンスな趣味とユーモア
各所にハイセンスなものが散りばめられているのが特徴でセンスに溢れています。

そのひとつが音楽。何万枚ものレコードを所有するコレクターの村上氏は、ジャズ名鑑のシリーズを発行するほどの音楽好きとあって、物語の各所にたくさんの音楽が登場します。

ジャズやクラシック、オールドロックなど、音楽通なら「おっ」と思わされるような細かい知識が盛り込まれているのも特徴です。登場する音楽を聴きながら作品を読めば、物語に厚みが出て、味わい深くなるでしょう。

また、ウィスキーにもこだわりがあり、頻繁に作中に登場します。オシャレなバーでウィスキーを片手にゆっくりと本のページをめくりたくなるような空間を演出してくれるのです。

・日常の中に「生きる実感」
派手な物語が少ない代わりに、ごくありふれた日常をしっかりと描写します。

例えば、料理や食事をするシーン。文学者の内田樹氏は著書「村上文学における『朝ご飯』の物語論的機能」の中で、「村上春樹はその小説の中で登場人物が食事をする場面が異常に多い作家である」と述べています。それらのシーンは独特の味わい深さと空腹を与えてくれるのです。

しかも、作品の中での料理の役割はそれだけではありません。

僕は長葱と梅肉のあえものを作ってかつおぶしをかけ、わかめと海老の酢のものを作り、わさび漬けと大根おろしに細かく切ったはんぺんをからめ、オリーブ・オイルとにんにくと少量のサラミを使ってせん切りにしたじゃが芋を炒めた。

(引用元:村上春樹(1988),『ダンス・ダンス・ダンス』, 講談社)

このように調理の過程が描かれることも少なくありません。この描写により、生活感に親しみを覚え、思わず作品の中に引き込まれるような性質があるのです。

物語の主人公も僕たちと同じように何気ない日常を送っている、と思わされます。そうすると「これは僕のために書かれた物語かもしれない」という感覚になり、「かけがえのない作品に出会えた」という実感を味わうことができるのです。

・哀しみとの向き合い方
しばしば人の死や失踪などといった“消失”が描かれます。それらとどう向き合っていくのか、というのが村上文学にとって最大のテーマのひとつといえるでしょう。

生きていれば、哀しいことや理不尽なことは訪れます。目をそらしたり、逃げ出したりするのではなく、それを受け入れて、そこから何かの意味や価値をすくい上げていく。

このように、地に足をつけて日常を生きることの大切さを私たちに教えてくれるのです。

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読書が苦手なら短編から

非常に多くの作品を書いていますが、まず手に取ってみるのならば短編集をオススメします。読書が苦手な人や慣れていない人でも読みやすいですよ。

『カンガルー日和』
何気ない日常のスケッチのような穏やかな作品。僕と彼女が平日の昼に、赤ちゃんの生まれたカンガルーを見に行くというだけの話ですが、不思議と心が温まります。

そして、そこにも村上春樹節が効いていて、独特のユーモアや散りばめられたセンスなども存分に味わうことができます。
他にも、不思議な形で恋を描いた「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」や、ミステリー仕立ての「鏡」など、短いけれど読み応えのある作品が多数収録されています。

1冊目として手に取るには最適といえる作品です。

おすすめの長編2本

“村上春樹”と言えば、やはり長編小説でしょう。

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
主人公の多崎つくるが、自分の過去と向き合っていく物語。多崎つくるは、学生時代に仲の良かった友人4人から突然に絶縁されてしまいます。それから孤独な人生を送るようになった彼ですが、ある日、自分が絶縁された原因を探るために、かつての友人たちの元を“巡礼”することに決めるのです。

「なぜ絶縁されたのか?」を読み解いていくという物語の展開が面白い一方で、最大の読みどころは自分の過去や成長したかつての友人たちと向き合うことで、主人公が自分の人生を捉え直していくところです。

大人になっていくということがどういうことなのか、その実感がぎゅっと詰まっています。

『ノルウェイの森』
映画化され、タイトルだけでも聞いたことがあるという人は多いのではないでしょうか?
高校時代に親友の自殺を経験した主人公が、大学で上京してから偶然にも親友の恋人であった直子と再会し、親交を深めていく物語です。そこから、直子や個性豊かなキャラクターとの関わりを通して、主人公は悩み、ときに傷つきながら、少しずつ大人になっていきます。

この作品の最大の魅力は、主人公を取り巻く個性豊かなキャラクター。1人1人が独特の人生観や哲学を持ち、それらに感心させられるだけでなく、「そういう生き方もありなのか」と、思わされます。

また、“失うこと”について丁寧に描き出されているのも魅力のひとつ。多くの死が描かれていますが、その度に受け入れていく、という繰り返しの中に、残された者として“生きていく”実感が強く込められています。

この作品を読み終えたときの「出会いと別れを繰り返しながら、それらを抱えて生きていくのだ」という実感の強さは、一読する価値があるといえるでしょう。

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小説を読むというのは、ビジネス書や新書に比べて役立たないと思われがちです。しかし、実際は小説から学べることは本当にたくさんあり、それは生きていく上で大きな支えになってくれるものでもあります。

ちょっとした気分転換に、村上春樹作品の世界に触れてみるのはいかがでしょうか?

(参考)
日経ビジネスOnline|【9】村上春樹の「卵と壁とシステム」
内田樹(2007),『村上春樹にご用心』, アルテスパブリッシング
村上春樹(1988),『ダンス・ダンス・ダンス』, 講談社
内田樹(2014),『もういちど 村上春樹にご用心』, 文春文庫
BuzzFeed|【受賞スピーチ全文】村上春樹さん「影と生きる」アンデルセン文学賞