スキルアップのために勉強したことや、新しい仕事で教わったことなど、覚えたはずなのに思い出せない……、ということはありますか? ちょっとしたテクニックで、“思い出せる”暗記が可能ですよ。

「覚えたはずなのに出てこない」はなぜ起こる?

学んだことを思い出せないのは困りますよね。でも、それは仕方がないことです。それに、覚えたこと全てを容易に思い出せたら、逆に大変かもしれません。

記憶は人が生き延びるためにある

世界で数人しかいないというハイパーサイメシア(超記憶症候群)の人は、見たもの全てを記憶する能力があります。しかし、自身の意志とは無関係に過去の記憶が次々と思い出されてしまうので、それを生かすどころか翻弄されてばかりなのだとか。

一方、記憶障害がある人でも、自分の生命を脅かすことだけに関しては記憶・想起が可能です。これは100年ほど前に、フランスの心理学者エドゥアール・クラパレートが確認しています。

つまり記憶とは、必要なものに絞られてこそ有効活用できるもの。そして、人間の脳がどう情報を絞り込むかといえば「命にかかわる情報に限る」というわけです。そうでない限り、脳は情報を積極的に長期記憶へは保管してくれないのです。

しかし、薬学博士の池谷裕二氏や、精神科医・受験技術研究家の和田秀樹氏といった有識者は、命にかかわる情報ではなくても、こまめな復習で覚えられるようになるといいます。

定着した記憶を思い出せないのはなぜ?

では、復習に取り組んだにもかかわらず、なかなか思い出せないのはなぜでしょう?

五感を通してインプットされた情報は電気信号となって、脳のニューロン(神経細胞)ネットワークに伝えられます。ニューロン同士の接合部分はシナプスと呼ばれ、電気信号の伝達が頻繁に行われると、つながりが強固になり伝達効率が上がります。つまり、何度も思い出せば、より思い出しやすくなるということ。想起とは、情報のつながりをたぐり寄せることなのです。生理学者の久保田競氏は、「一度覚えたことは繰り返し思い出さないと、だんだん忘れていく」と述べています。

同様のインプットを重ねるだけではなく、何度も思い出そうとしなければ、情報のつながりが弱まり、思い出しにくくなってしまうということです。

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“思い出せる”暗記のテクニックとは?

脳科学者の柿木隆介氏は、「感情が大きく揺り動かされたり、何度も経験したりすると、印象深い出来事として側頭葉のわかりやすい場所に保管され、思い出しやすくなる」といいます。つまり、思い出しやすい記憶とは、

・印象深い記憶
・何度も経験した記憶

ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員の茂木健一郎氏は、見る・聞く・感じるなどの「感覚系学習の回路」でインプットした情報は、「運動系学習の回路」で実際に手足口などを動かして情報を出力するアウトプットにより記憶が意味づけされ、「経験」となって長期記憶に蓄えられていくといいます。

これまでをまとめると、暗記の際には印象深くなるよう工夫し、それを何度も思い出しながらアウトプットして意味づけし、「経験」として再インプットしていくことが有効です。そこでご紹介したいのが、カラダと五感をつかった“思い出せる”暗記のテクニックなのです。

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“思い出せる”暗記のテクニック1 スピーチ式

和田秀樹氏は、机に向かって黙々と勉強するのではなく、カラダも五感もフル活用して暗記することを提唱しています。例えば声に出して読んだり、手を動かして書いたり、部屋のなかを歩き回ったりしながらの暗記です。

そこで思い出してほしいのが、結婚式などでのスピーチ。もしも、あなたがスピーチを頼まれたらどうしますか? 話すことを考えて紙に書き、何度も読み返しては書き直すでしょう。そして立ち上がり、場を想定してリハーサルをしてみるのでは? そうしているうちに、だいたい内容を覚えてしまうはず。

それを暗記にも活用するわけです。発表がある前提で覚えたいことを手書きし、立ち上がり歩き回るなどして何度も読み返しましょう。家族や友人に覚えたことを話す機会を「発表の場」にしてもいいですね。

“思い出せる”暗記のテクニック2 芋づる式

もしも、あなたが誰かひとり旧友を思い出したら、その人が行っていた部活動や、履いていたシューズのメーカーなどを思い出すといった記憶の連鎖が起こりますよね。そのメカニズムを利用して、1つのことから芋づる式に記憶を呼び起こせるよう、関連する情報をまとめてしまいましょう。これは、資格スクール講師で司法書士の碓井孝介氏がすすめている方法。例えば「パナマ運河」について勉強しようとするならば、といえば……、と声に出しながら情報をつなげ書き出していきます

【パナマ運河】―「シェールガス」―「水のエレベーター」―「焼畑農業」―「森林伐採」―「水不足」―「拡張工事」―「スエズ運河」

といった具合です。これらをまとめて覚え、再び連鎖にまかせてマンダラチャートのように広げたり、ときには深く掘り下げてみたりして覚えるを繰り返し、記憶を強化します。

“思い出せる”暗記のテクニック3 チャート式

長い文章はチャート化して記憶することがおすすめ。こちらも碓井孝介氏が提唱している方法です。

例えば、「ブラジルの研究チームは、ブラックコーヒーが虫歯予防に効果があると発表した。研究チームは抜けた歯に細菌バイオフィルム(歯垢)を培養。そして コーヒーにその歯を浸けて観察したところ、細菌バイオフィルムを活発に分解し始めた。コーヒーに含まれる抗酸化物質ポリフェノールの効果と考えられているが、さらなるリサーチが必要だ」という文章ならば、

<ブラックコーヒーが虫歯予防に効果があると発表>

【リオデジャネイロ研究チームによる実験】

【歯に細菌バイオフィルムを培養】

【コーヒーにその歯を浸けて観察】

【細菌バイオフィルムを分解】

考察【抗酸化物質ポリフェノールの効果】

という概要にしてしまうのです。こうすることで図の形になるので、長い文章よりもずっと印象深くなりますよ

***
寝る前に暗記すると記憶に残りやすいといわれています。ご紹介した方法とあわせてご活用くださいね。

(参考)
ダ・ヴィンチニュース|「どうして忘れるの?」と自分を責める人へ、不完全な記憶力こそ優秀!?
旺文社|大学受験パスナビ|[暗記下手を完全克服!]和田式 受験暗記術
TEDxTokyo|キャサリン・ヤング|記憶はどのように作られ、失われるのか
アットホーム(株)大学教授対談シリーズ『こだわりアカデミー|記憶のしくみ 久保田競氏
東洋経済オンライン|仕事のできない人は「暗記」のコツを知らない リーダーシップ・教養・資格・スキル
Study Hacker|「一度にまとめて」よりも効果大! 記憶に有利な『細切れ学習』毎日続ける3つのコツ
柿木隆介著(2015),『どうでもいいことで悩まない技術』,文響社.
茂木健一郎著(2008),『脳を活かす仕事術』,PHP研究所.
田澤俊明著(2015),『脳は死ぬまで進化する―脳外科医がすすめる健脳生活』,主婦の友社.
ロケットニュース24|「ブラックコーヒーは虫歯予防に効果あり!」との研究結果