職場の人ともっと仲良くなりたいのにいまいち近づけない……。人とコミュニケーションをとるのが苦手……。そう悩んではいませんか?

私たちが人との交流に最も使っているのが「会話」。しかし、テンポよく反応しなければいけませんし、会話に苦手意識を持っている方も多いはず。人間関係の第一歩は会話。私たちは基本的に会話をすることで相手との関係を形成していきます。その会話での言葉遣いと人間関係の理論として、ポライトネス理論というものがあります。

「ポライトネス理論」とは?

ポライトネス理論とは、言葉遣いと人間関係の理論です。1987年にイギリスの言語学者であったブラウンとレビンソンが提唱したもので、現代では日本語や外国語の比較、医療現場での患者と医師の関係の研究など、様々な分野で用いられています。

「ポライトネス」は「ていねいさ」のことを指すため、日本語においては「ポライトネス=敬語」とされがちなのですが、ブラウンとレビンソンは、ポライトネスを以下のように説明しています。

実際の「言語使用場面」における「対人関係調節機能」、すなわち、「そういう話し方をされて心地よいかどうか」という「実際の人の気持ち」を重視した概念

(引用元:国際交流基金|ポライトネス理論と対人コミュニケーション研究

ポライトネス理論は、言葉が対人関係にどういう影響を及ぼすのか、「言われた相手がどう感じるのか」に着目した理論です。そのため、敬語であっても相手に不快な思いをさせたらポライトネスではないし、敬語を使わずとも相手に敬意を表明できればポライトネスといえる、ということなのです。

これをうまく活用できると、上司や社外の相手との距離を縮めやすくなり、人間関係をより密なものにしやすくなるのです。

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2つの「フェイス」に着目する

ポライトネス理論の活用方法を見る前に、まずはポライトネス理論の中核である「フェイス」という概念についてご説明します。フェイスとは、会話における人の欲求をしめしており、以下の2つに分類できるのです。

1. ポジティブ・フェイス:個人から承認された望ましい自己像を維持することへの欲求
2. ネガティブ・フェイス:個人の領域を維持し行動の自由を保つことへの欲求

ポジティブ・フェイスは「褒められたり認められたりすると嬉しい」という承認欲求を示していて、ネガティブ・フェイスは「踏み込まれたくない」という思いを表しています。ポライトネス理論では、相手の2つのフェイスを保てるように受け答えすることで、相手にいい印象を与えられると考えられているのです。

例えば、「その服かわいいね」というのは相手のポジティブ・フェイスを保つ言葉です。また、「部長はどうせビールでしょ」というのは、部長の行動の自由を奪っているととれるため、ネガティブ・フェイスを侵食するおそれがあります。どれだけていねいな言い方であっても、言われた相手はあまりいい気持ちはしないでしょうし、信頼関係を築くことも難しくなるでしょう。

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ポライトネス理論における「敬語」

ポライトネス理論をうまく活用すれば、敬語を使わなくとも相手にいい印象を与えられるようになります。

そもそも敬語というのは、相手を敬う時に使う言葉ですから、当然ポジティブ・フェイスを満たす性質を持っています。しかし、実は敬語にはネガティブ・フェイスを満たす性質もあるのです。つまり、敬語を使ったからといって必ずしも相手が好意的に受け取ってくれるわけではない、ということですね。

例えば、普段から仲の良い人から突然敬語を使われたらどう感じるでしょうか。多くの方が、「怒っているのではないか」「不快なことをしてしまっただろうか」と考えると思います。敬語には、そういった「相手と精神的に距離を置こうとする」要素も含まれているのです。

初対面の人に対して敬語を用いる際も、もちろん相手を敬う気持ちはありますが、「少し距離を置く」という意志を相手に示す意味合いもあります。一般的には「距離を置かれる」というのは好ましいことではありませんが、日本人は、いきなり馴れ馴れしくされるのを嫌がる傾向があります。そのため、距離を置くというネガティブ・フェイスを満たす行為が、初対面の人とうまく付き合うには必要なのです。

敬語は、必要以上に相手を近づかせない意味合いはあるものの、決して相手を突き放すことはない言葉遣いであるため、人間関係を構築する上では非常に使いやすい言葉であるといえます。しかし、例えばあなたが同僚や部下に対して必要以上に敬語を使っているのであれば、相手との信頼関係を築くためにはもう一歩踏み込まなければいけないかもしれません。敬語を使っていると、相手が「この人は自分とは距離を置きたいのだな」と感じてしまうおそれがあるためです。

とはいえいきなり敬語をやめると、相手がネガティブ・フェイスを侵されたと必要以上に身構えてしまう可能性も。そのため、会話が盛り上がった時に少しだけ辞めてみる、仕事中は敬語なまま挨拶や休憩中の会話は敬語を使わないようにしてみるなど、段階的に外していくと良いでしょう。

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同僚や上司とより親密になれれば、精神的にも楽になりますし、仕事もやりやすくなるはず。ポライトネス理論をうまく活用し、良い人間関係を築いてくださいね。

(参考)
国際交流基金|ポライトネス理論と対人コミュニケーション研究
銅直信子(2001),日本語におけるポライトネスの現れ方, 国際敬愛研究, Vol.8, pp.53-79.
川口義一・蒲谷宏・坂本恵(2002),「敬語表現」と「ポライトネス」,社会言語化学,Vol.5,No.1,pp.21-27.
「日本語の敬語表現とポライトネス」, 文明21, 33, pp.93-102.