仕事には悩みが付き物だとよく言われます。書類が整理できない、どこから手をつけたらいいのかわからない、どうも進捗が感じられない等々……。そんな悩みを解消してくれる大きな手がかかりとなるようなヒントが豊富に紹介されているのがこの本。

著者である鎌田浩毅氏は、京都大学大学院人間・環境学研究科の教授。火山を主に研究する一方で、「科学の伝道師」を自負し、科学の啓発活動を盛んに行っています。そんな正真正銘「理系」の鎌田氏はこの本の中で、細部にこだわってしまう「文系的」発想を否定し、全体的なビジョンを見据える「理系的」な姿勢が、仕事をするうえでは有効であることを説いた上で、効率的な仕事術を詳しく紹介しています。

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ラクして成果が上がる理系的仕事術

鎌田 浩毅 著

PHP研究所・2006年

頭の中の準備のしかた

この本の第一部で解説されているのは、仕事にとりかかるための頭の中の準備方法。

著者は、企画書、論文、書籍の執筆などの作成を「知的生産」とし、一方で、将棋や麻雀といった、知的ではあるが生産されないものを「知的消費」と区分します。そして、その区分に基づいてすべての作業を分類することが必要だとしています。

知的生産に分類された作業は、あらかじめその完成形をイメージしてから枠組みを準備し、できるとこから進めていくのが効率的なのだそう。実際、著者は論文を執筆する際、結論のみならず後書きまでも最初に書いてしまうと言います。完成形をイメージして目標を定めておけば、これから調べなければならない事項があるとしても、何をどんな目的で調べるのかの見当が付きやすくなり、時間のロスを防ぐことができます。これが、頭の中で完成形を準備しておくことのメリットだと著者は説いています。

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とことんアイデアを練る!

この本の第二部では、必要な情報を見極め、そこからアイデアを作り出す段階について解説されています。

第二部での一貫した主張は、情報はいつでも引き出せるように整理しておき、脳のワーキングメモリの負担をできるだけ思考に振り分けるべきということです。その方法として、著者はすべての情報を「記号化」することを推奨しています。これは、物理現象を一つの式によって表現するといった、理系的な思考を活用しているそう。

情報を記号化するやり方の例として著者が挙げているのが、火山研究の際にサンプリングした岩石の分類の方法。まず、岩石を採取した順番に番号を振ります。そしてそれを分類せずに順番にトレイに入れて、そのトレイにはT1、T2……というように番号を振り次々に記号化していきます。そのあとで、T1のNo.15というように記号化されたサンプルについて、ノートに記録をするそう。その際も、サンプルを順番に並べてマトリックスを作り、岩石を構成する物質をア、イ等とさらに記号化します。そうすることで、何千、時には何万にも達する資料を、頭の容量を圧迫することなく整頓することができるようになるのだといいます。

このようにして整理した情報は、アイデアにまとめていきます。著者が独自に実践している方法は次のようなものです。まず20分程の時間で、鉛筆を使って思いつくことをなんでも紙に書き出し、ひと段落したら何色かのペンを用いて、キーワードをグルーピングします。こうすることによって、自分の思考を追うことが可能になるのだとか。大方のアイデアが出そろったら、次はそれをもとに文章を一気に書きます。アイデアがまとまる時間、著者曰く「神様が降臨する時間」はほんの1時間ほどしか無いため、それを逃すまいとする方法なのだそうです。

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いよいよ書き出す!

第三部では、アウトプットの方法を説明しています。

まず、全体像を作りやすくするための方法として、著者は「三脚法」を推奨しています。三脚法とは、アウトプットするために立てる全体の構成の大枠として、性格の異なる三つのキーコンセプトを設ける、という方法。そして、その三つのテーマが論理的につながるよう、文章を組み立てていくのです。この方法をとることで、論点が錯綜することなく、情報がきれいに整理されていくのだと言います。この本の執筆においても三脚法を採用したのだそう。

また、文章や書類などを書く際に陥りがちな、書き出しに迷うという状態についても解決策が提案されています。それは、文の書き出しはいったん棚に上げて、文章を途中から書き出すというもの。文章を途中から書き出せば、文章を書き進めつつ潜在意識によって文章全体にまで考えをめぐらすことができるのだと言います。村上春樹氏のベストセラー『ねじまき鳥クロニクル』にも、この方法が用いられたそうです。

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私がこの本を読み始めた時には、著者は文系に対し差別的な考えを持っているのでは、と感じましたが、読み進めていくと、文系の学問に用いられる思考法と、科学的研究に用いられる思考法はそもそも根本的に異なるものなのだということが分かりました。物事を極力要素分解し、単純化していくよう、絶えず頭を働かせ続けるという理系的な姿勢は、人生のあらゆる局面においても有効なのではないかと思います。

情報過多な世の中で、うまく頭を使えていないと感じるすべての人にとって、必読の一冊といえましょう。

(参考)
鎌田浩毅著(2006),『ラクして成果が上がる理系的仕事術』,PHP研究所.