職場に新入社員が配属された、はじめて仕事の後輩を持つことになった、新人の教育係に任命された――。このようなとき、多くの人が気にするのが「後輩社員の育て方」ではないでしょうか。

先輩としていいところを見せたいけれど、後輩指導って、いったい何をどう気を付ければいいのだろう? 新人の育成って難しそう……。これまでは先輩の指導を受ける側だった人が、いざ後輩を指導する側になると、何をどうすればよいのか戸惑ってしまうことでしょう。

良き先輩、理想の上司に近づくための、後輩指導の心構えや実践のポイントをご紹介します

後輩たちがイメージする「理想の先輩」とは?

良い先輩になることを目指すために、「理想の先輩像」とはどのようなものなのかを知るところから始めましょう。それを探るために今回ヒントにするのは、後輩社員たちが理想の先輩像をどう思い描いているのか、ということ。

日本能率協会が発表した、2018年入社の新入社員に対する意識調査の結果によると、新入社員たちが思い描く理想的な上司・先輩像として上位3位にランクインしたのは、次のようなものでした。

1位:部下の意見・要望を傾聴する上司・先輩(33.5%)
2位:仕事について丁寧な指導をする上司・先輩(33.2%)
3位:部下の意見・要望に対し、動いてくれる上司・先輩(29.0%)

前々回(2012年)、前回(2014年)調査から今回(2018年)に至るまでの推移も見ておくと、2位の「丁寧な指導をする先輩」は1位→1位→2位とほぼ変わらぬ結果となりましたが、今回1位の「傾聴する先輩」の順位推移は、5位→3位→1位。「部下の意見・要望に対し動いてくれる先輩」については、11位→9位→3位。いずれも大きく順位を上げています。

2018年の調査で上位3位にランクインした理想の先輩像の特徴に共通して言えるのは、後輩たちは先輩に対し、丁寧に対応してくれることを望んでいる、ということ。これから後輩を指導する立場に立つ人は、このことをしっかりおさえておく必要がありそうです。

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理想の上司・先輩像は変化している

同時に見逃せないのは、新入社員たちが理想とする先輩像が年々変化していることです。2018年には上位にランクインしなかった「仕事の結果に対する情熱を持っている上司・先輩」の順位は3位→4位→9位と推移し、「場合によっては叱ってくれる上司・先輩」は4位→5位→10位と順位を下げていました。

これに関連して、行動科学マネジメントの第一人者・石田淳氏が興味深いことを語っています。石田氏によれば、現在のマネジャー層の多くは「仕事は盗んで覚えろ」と育てられてきた世代。ですが、今の若い世代にもそれを当てはめることはできないと言います。なぜなら彼らは次のような特徴をもっているから。

彼らは子どものころからさまざまな習い事をし、何でも手取り足取り教わって育ってきた世代だ。教えられるということに抵抗はないが、「教えてもらえない」などということはあり得ないと思っている。つまり今の若い世代は教えられ好きなのだ。また彼らは叱られて育ってきていないため、ストレスに弱い。そのため、旧式の教え方を続けた結果、若い世代の社員たちはパワハラと認識し、混乱し、精神を患う人もいる。

(引用元:jin-Jour|Point of view 第77回 石田 淳 今の時代に合った「教え方」をしているか?

こうした今の新入社員世代の特徴ゆえに、先輩側が後輩を指導する際に丁寧さが求められているというわけなのです。

では、上司・先輩側は部下・後輩を指導する際に、具体的にどのようなことを気を付ければいいのでしょうか。上位に挙がった3点に沿って、見ていきましょう。

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傾聴:後輩の話に耳を傾ける

傾聴とは、相手の話をじっくり丁寧に聞くこと。カウンセリングや、コーチング(自発的な行動を促す人材開発の技法)においてよく用いられるものです。

傾聴は、話し手の話す言葉だけでなく、表情や仕草、声のトーンなどにも注目し、相手の気持ちに寄り添うことを重視するコミュニケーションの方法。聞き手には、話し手のことをよく観察し、理解しようとする姿勢が求められます。傾聴がうまく行われると、話し手は「自分を理解してもらえた、尊重された」という実感を持つことができ、聞き手に対し安心感を抱きます。これが両者間の信頼関係の構築につながるのです。

後輩指導における傾聴の大切さについて、人材教育コンサルタントの田中淳子氏は、次のように説明しています。

まずは傾聴と共感が大切です。『そんなこと言ってないで、がんばれ』『気持ちは分かるが、仕方ない』『時間が解決するよ』などという言葉は、実は共感してくれていないと感じさせてしまいます
(中略)
ひたすら後輩の意見を聞き、『なるほど、◯◯と思ったのね』などと、言葉を繰り返してみます。その上で、自分も似た経験があれば、それを語ってあげる。『私も新人のころ、○○をしたことがあって、そのときは……』と語りかければ、後輩も『立派に見える先輩でも、同じ苦労をした日々があったのか』と、気持ちが楽になるでしょう

(引用元:20代の”はたらき”データベース『キャリアコンパス』- by DODA –|後輩から信頼される“理想の先輩”の条件とは? ケース別新入社員への接し方

後輩と話をするときは、後輩の目をよく見て、相槌を打ったりうなずいたりしながら、後輩の意見をしっかり理解しようと努めましょう。時間のかかることかもしれませんが、信頼関係を構築することで、良き先輩のあるべき姿に近づきますよ。

丁寧な指導:一方通行ではなく対話を交えた指導

後輩が求める「丁寧な指導」とはいったいどういうことでしょうか。1から10まで手取り足取り教えなくてはいけないのか? 朝から夕方までつきっきりで指導するの? などと考えると、先輩は自分の仕事ができなくなります。気が滅入ってしまう人もいるかもしれません。

ここでは、丁寧な指導とは「一方通行ではなく対話を交えながら指導すること」である、と捉えます。

例えば、人材開発を手掛けるダイナミックヒューマンキャピタル代表取締役の中村文子氏は、「『一度しか言わないからよく聞いて』は間違いだ」と言います。「一度しか言わないよ」と前置きをすれば、後輩はより注意して聞いてくれるはず、と期待しますよね。しかし、知識も経験も浅い後輩にたった一回教えるだけで、果たして十分でしょうか。人の記憶は、情報を繰り返し何度もインプットすることで、長期記憶として定着するもの。もしかしたらミスをしてしまうかもしれませんし、一回教わっただけでは忘れてしまう可能性もあります。

また、例えば業務の手順を教えるのも、ただやり方さえ伝えればいいのではありません。なぜその手順なのか、その業務の目的は何なのか、締切はどうしてその日時に設定されているのか、といった「Why」の部分まで説明してあげることが必要なのです。

中村氏は次のように述べています。

「これから大切なことを説明するので、よく聞いていてください。そして分かりにくい点があったら、いつでも質問してください」と安心感を高める方がよいのです。さらに、一度説明するだけではなく、理解できているかどうかの確認の質問を投げかけたり、理解したことを自分の言葉で表現してもらうなどして、情報を繰り返すことで、長期記憶への定着を図ります。

(引用元:ヒューマンキャピタルOnline|人材開発のフロントラインから学ぼう 第23回 部下・後輩指導に当たってのよくある思い込み

マニュアルを渡し、「読んでおいて」と言っておしまい。一回説明し、「あとは自分でやってみて」と突き放す。そんなやり方では、とても丁寧な指導とは言えません。後輩指導においては、同じことを何度も伝えたり、業務の目的や背景を説明したり、後輩の理解度をヒアリングしたりしましょう。口で直接指導した後は、改めて紙で渡したりメールを送ったりすると、後輩も復習がしやすくなり、先輩に質問する際に役立つはず。一方通行に終わらせずに対話を引き出すことが、丁寧な指導だと言えるのです。

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後輩の意見や要望を聞き入れ、動く

上で紹介した調査結果で3位にランクインした「部下の意見・要望に対し、動いてくれる上司・先輩」とは、いったいどういう人物なのでしょうか。これに関連して注目したいのが、同調査で「仕事を任せて見守る上司・先輩」が前回の11位から4位に上昇したこと。

近年売り手市場の就職活動。新入社員たちは、丁寧に指導をしてもらいたいのと同時に、自主性も発揮したいし自分の意見も尊重してほしい、と思っているようです。新入社員たちは紛れもない新人であり知識や経験が浅いのは間違いありませんが、新人であるがゆえに新たな視点やユニークな意見を持っているもの。それをうまく引き出しながら指導することが大切だと言えますね。

ここで参考になるのが、「サーバントリーダーシップ」という考え方です。

サーバントリーダーシップは、一方的な指示による権力的なリーダーシップとは異なり、部下の意見を尊重し、部下のモチベーションを高め、主体的な行動を促します。自分の頭で考えさせることによって部下・後輩を育成するのです。

上司の圧力が強い組織では後輩の自主性を引き出すことはできません。サーバントリーダーシップでは、誰でも意見を言いやすいフラットな組織づくりが大切。日本サーバント・リーダーシップ協会理事長の真田茂人氏が監修した資料では、次のように説明されています。

フラットな組織をつくるには、上司が率先して話しかけやすい雰囲気づくりに努めることが望ましい。部下に指示を出しすぎないように意識し、経験の浅い部下の意見にも傾聴する姿勢を示すこと。部下から上司へ意見がいいやすくなり、それがチーム全体にも波及して誰もが対等な関係で話せる雰囲気が醸成され、会議も活性化するだろう。

(引用元:Adecco|主体的に動く部下を育てるマネジメント術とは

ここでも大切なのは、やはり傾聴です。後輩から意見や疑問を引き出し、真摯に答えましょう。必要に応じ、意見を取り入れたアクションを起こします。そうすることで、後輩は自主性が尊重されたと感じ、仕事へのやる気や成長意欲を高めることができるのです。

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新人の育成、後輩の指導がうまくいくカギは、相手を尊重すること、自主性を引き出すことにあります。コミュニケーションを上手に取りながら、信頼される先輩になることを目指しましょう。

(参考)
一般社団法人日本能率協会|新入社員の“今”をデータで読み解く 2018 年度 新入社員意識調査 <速報>
時事ドットコム|理想は「意見聞く」上司=新入社員意識調査-能率協会
jin-Jour|Point of view 第77回 石田 淳 今の時代に合った「教え方」をしているか?
ビジネス心理学|現役コーチ直伝! コーチングの傾聴の技法とスキルアップ法
20代の”はたらき”データベース『キャリアコンパス』- by DODA –|後輩から信頼される“理想の先輩”の条件とは? ケース別新入社員への接し方
ヒューマンキャピタルOnline|人材開発のフロントラインから学ぼう 第23回 部下・後輩指導に当たってのよくある思い込み
ヒューマンキャピタルOnline|石田淳の部下の成長を促すちょっとしたきっかけ 第123回 新入社員に対する「教え方」の再チェックを!
Adecco|主体的に動く部下を育てるマネジメント術とは