我々は学校や職場など、様々な組織に属して日々活動している。

こと職場においては、同僚や上司など社内での関係、また組織の一員としての取引先とのやり取りが存在し、それらはビジネスパーソンとして悩みの火種であると言えるだろう。上司との相性不一致、同僚との出世競争、ビジネス上の競合他社との個人的な友人関係など、企業は様々な人間関係を孕んでいる。

そんな企業内部に渦巻く複雑で多様な人間関係の中で日々揉まれているビジネスパーソンに、組織で生き抜くための示唆を与えてくれるのが本書である。

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組織の掟

佐藤優著

新潮社・2016年

著者の佐藤優氏は以前、外務省にてロシア外交を担当していた。

外務省というと一般企業とは違った特殊な組織ではないかと考えがちだが、組織を語る上での「理不尽さ」はトップクラスである。だからこそ掟が一般化しやすく、外務省で生き抜くコツはそのまま、いかなる組織においても通用する実践的な「組織の中で生き残るコツ」なのだ。

佐藤氏は豊富な体験談に基づき、ビジネス組織が孕む困難を乗り越えるための方法を述べている。そのテクニックは、あらゆる読者が個々の具体的なシチュエーションに応じて取り入れることができるものばかりだろう。

組織は基本的に上の味方であり、仕事は物理法則に基づいている

組織では、仕事の命令は上から振ってくる。特に嫌なことほど、上から下に降りてくるものだ。このことを佐藤氏は「仕事は物理法則に基づいている」と表現する。

物理法則に基づいて仕事は上司から若手へと降りかかってくるのに、組織では、時に部下の手柄が上司の手柄として認識されてしまうことがある。また逆に、ミスの責任が部下に押し付けられてしまうこともある。組織に属していれば、このような理不尽なことは多々起きる。特に新入社員など組織の末端の人たちから見れば、非常に理不尽に思えるだろう。

しかし佐藤氏によれば、組織の若手は、理不尽なことも甘んじて受け入れなくてはならない運命にあるのだそうだ。

組織には「上に引き上げてくれる」という側面もあるが、まず「基本的に上司の味方」であるという大前提も持ち合わせている。その前提のもとでは、若手は上司には逆らえないし、組織はその上司の味方をする。サッカー等で言うアウェイゲームのように、組織における若手は、そもそも不利な状況にあるというのだ。組織に属する以上、若手はこのことを当然で避けられないことなのだと理解しておくべきであり、この前提を踏まえずに組織や上司に対して文句を言っているだけでは、問題を改善することは難しい。

若手にとって不利な状況の中で少しでも理不尽な事態を改善するには、佐藤氏の挙げるテクニカルな対処法によって不利を切り抜ける必要がある。例えば、「上司の方から仕事を断らせる」、「より高い所の人間に訴える」、「外部の助言で評価を動かす」等によって、若手が理不尽な状況を生き抜く足掛かりとなる。

新入社員がすぐ辞めてしまうといったニュースが近年増えているが、組織に対して文句を言う前に、組織に属する覚悟を持っておくことが重要である。これは、若手を受け入れる組織にとっても同じことが言え、組織は新入社員に対しこうした心構えを持たせる教育をする必要があるのだ。

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組織との戦い方

そうは言いつつも、佐藤氏は「組織の言いなりになれ、流れに任せろ」と言っているわけではない。組織における危機への対処法にも具体的に言及している点は、多くの読者にとって興味深いのではないだろうか。

組織に属していると、個人としての振る舞いと組織人としての振る舞いとの間で、葛藤が生まれることがある。例えば、何らかの偽装を会社ぐるみでやっている際、組織はリスクを背負うことを嫌うため、時としてその責任を個人に押し付ける。組織の構成員は、法律やモラルとは別次元の、組織の論理と戦うことになるのだ。

このような危機を切り抜けるには、いかに事前に逃げ道を自分で確保しておくかが重要になる。具体的な方法としては、組織の情報通と親しくしておく、秘密を守れる人材を確保しておく、といったことが有効なのだそうだ。

他にも、接待などいわゆる酒の席での振舞い方や酒乱の扱い方、さらには社内恋愛や精神的疾患を抱えた人を組織としてどう対処するかといったことなどは、カジュアルな事柄であるからこそ注意がいきづらい点でもあり、参考にしやすいのではないだろうか。

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組織という荒波を泳ぐのは個人である

組織という大きな流れに身を投じてはいるものの、荒波に揉まれたままでは当然生き抜くことはできない。いくら若手であろうと、泳ぎきるのは自分の仕事である。

組織に属していると組織内部の閉じた観点からだけで物事を考えがちだが、佐藤氏は、組織という大波を泳ぎ切るには「組織外部の人脈を築いておくこと」が必要であるという。組織外部の人々は、組織内部の人にはない常識や観点を提供してくれることが多く、また組織から逃げ出すあるいは独立する時にも助けになる。この指摘は、読者にとって特に重要に映るに違いない。

そして、全ての項目について一貫しているのは、あらゆることに先回りして先手を打つべきだ、という点である。その具体的手法が本書には無数に散りばめられている。

近年特に日本においては、企業における過労死や自殺など残念なニュースを聞く機会が増えているが、組織に揉まれる多くの人にぜひ本書を活用して、ひとつひとつの課題を乗り越えていただきたい。