誘惑に負けない強い心。『意志の強さ』を身につけるには、たった10分あれば良い。

誘惑に負けない強い心を持ちたい……これは誰もが望んでいることではないでしょうか。

勉強をしなければいけないのに、マンガを開いてしまう。 ダイエットをすると決めたのに、ついついチョコレートを食べてしまう。

そんな誘惑に負けがちな皆さんに向けて、意志に関する最新の知見を踏まえながら、「なぜ誘惑に負けてしまうのか」「どうしたら誘惑に打ち克つ強さを身につけられるのか」についてお伝えします。

誘惑に負けてしまう原因

誘惑に打ち克つことができるようになるために、私たちが誘惑に負けてしまうのはそもそもなぜなのか、その理由を知るところから始めましょう。

人は、すぐに手に入る目先の快楽のために、本当に達成したいと望んでいるはずの目標を放棄してしまうことがあります。「資格試験に合格するために勉強すると決めたのに、つい勉強を怠けてしまう」といったようなことに、心当たりのある人は多いのではないでしょうか。その背景を説明したいと思います。

・目先の快楽を優先させてしまうのは、人にもともと備わった性質。

カルガリー大学のスティール・ピアーズ教授によれば、人は先延ばしする生き物なのだそうです。

人は進化の過程で、前頭前野の発達によって長期的な目標を掲げるようになりました。しかし、長い歴史の中で見ればつい最近まで、人にとっては生き延びるための衝動的ですばやい判断が重要でした。その性質が現在まで引き継がれ、衝動的な判断を司る大脳辺縁系が感情をハイジャックすることで、「私たちがつい目先の誘惑に負けてしまう」という現象が起きているのだといいます。

このように、自分にとって好ましくない結果を招くと知りながらも目先の快楽を選んでしまうために、目標が先延ばしになってしまうというわけなのです。

・今の自分より将来の自分を過大評価してしまう。

また、人はなぜか未来の自分を過大評価してしまいます。それは、「明日はちゃんと勉強するはずだ」と未来の自分に自信を持ち、誘惑に打ち克つのは次でいい、と言い訳してしまうということ。未来を想像する能力がある人間だからこそ、将来の自分を過大評価し先延ばししてしまうのです。

このことは、研究においても明らかになっています。プリンストン大学の心理学者エミリー・プローニン氏は、実験の中で、ケチャップと醤油を混ぜ合わせたいかにも美味しくなさそうな液体を用意し、学生たちに科学の発展のためになるべく多く飲んでもらうよう頼みました。その際、一部の学生には「数分後に飲んでください」と指示し、その他の学生には「次の学期に飲んでもらう予定です」と伝えたのだそう。すると、数分後に飲んでくださいと言われた学生たちは「スプーン2杯ならなんとか飲める」と答えた一方、次の学期に飲んでくださいと言われた学生たちは「スプーン4杯以上飲める」と答えたのです。人がいかに未来の自分を過大評価しているかわかりますね。

また、目先の誘惑に目が眩んでしまう要因として「遅延による価値割引」というものも挙げられます。これは、報酬を得るために長く待たなければならないほど、その報酬の価値は下がってしまうということ。ダイエットすると決めてもチョコレートを食べてしまうのは、「痩せてきれいになる」という長期的な目標が目先の「おいしいものが食べたい」という快楽に負けてしまう典型的な例です。

たった10分待つだけで、誘惑に打ち克つことができる

では、具体的にどうすれば誘惑に打ち克つことができるのでしょうか。

スタンフォード大学の心理学者ケリー・マクゴニガル氏によるベストセラー『スタンフォードの自分を変える教室』(2015年、大和書房)の中で紹介されているのが、「たった10分待つだけ」というとても簡単な方法。

例えば、勉強しなくてはならないのにマンガが読みたくなってしまったら、10分経ったら勉強を止めてマンガを読んでもいいことにしましょう。やる気がなくても、とりあえず10分頑張ってみるのです。そうすると不思議なことに、10分後には勉強を続ける力が出てきます。

また、ダイエット中にチョコレートを食べたくなったら、10分待ってから食べると決めます。10分待てば食べてもいいと思えば、我慢するのもそんなに難しくはありませんよね。そして10分待ってみてください。10分前にあれほど食べたいと思っていたのに、その欲求が収まっている自分に気づくはずです。

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どうして誘惑に打ち克てるのか

なぜ10分待つだけで誘惑に打ち克つことができるのか、疑問に思うかもしれませんね。この仕組みに関しては、報酬に対する脳の受け止め方が大きく変わる、ということが明らかになってきています。

人は、理性的に物事を考えることができるときは、衝動を抑える力に長けています。大脳辺縁系による一時的な感情のハイジャックによって前頭前野の働きが抑えられてしまっても、実は大脳辺縁系の働きは瞬間的なもの。少し待って時間がたてば、本人でさえもどうしてそんなに誘惑にとらわれていたのかわからなくなります。

また、10分待たなければならない場合、脳はそれを先の報酬と解釈します。すると、遅延による価値割引によって報酬への期待がそれほど起こらなくなるため、目先の快楽に飛びつくといった原始的な生物学的反応が起こらなくなるのです。そのため、脳は「10分待たなければいけない快楽」と「長期的な報酬」の優先順位を間違えなくなり、目先の快楽に目が眩むことがなくなります。

脳を落ち着かせて賢明な判断を下すために、どんな誘惑に対しても必ず10分待つようにすれば、10分待っている間に魅力は下がってきます。それでも負けてしまいそうな場合は、誘惑に打ち克った時に待っている長期的な報酬を思い描いて、長期的な目標の価値を高めましょう。あるいは、誘惑を物理的に遠ざけて、快楽との距離をとることも有効ですよ。

*** 自分は意志が弱いと悩んでいるあなたに、「10分待つだけ」という、簡単に誘惑に打ち克つことができる方法を紹介しました。

筆者もこの方法で、勉強を上回る誘惑に打ち克つことができています。とりあえず10分我慢しようと思っていると、気が付いたらあっという間に10分経ってしまうのです。10分待つだけで、誘惑に負けそうになっていた時より冷静になることができ、あんなに魅力的だったはずの誘惑がそれほど魅力的なものに感じなくなります。

今すぐ簡単に始められ、効果も絶大です。ぜひ皆さんもやってみてください。自分の意志に自信が持てるようになりますよ。

(参考) ケリー・マクゴニガル著,神崎朗子訳(2015),『スタンフォードの自分を変える教室』,大和書房. ピアーズ・スティール著,池村千秋訳(2012),『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』,CCCメディアハウス. ダニエル・ゴールマン著,土屋京子訳(1998),『EQ こころの知能指数』,講談社.

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