その指示 "完全に" メモしてる? 「大事なことだけメモ」が危険な科学的な理由

講演会やセミナーで、下を向いてメモをバリバリ書いている人。学校の授業で、先生の細かい話までノートに写す人。こんな人を見たとき、どう思いますか?

「そんなにきっちり写していたら、話に集中できないじゃないか」「詳細までメモしても、どうせ覚えられないし……」と、全部写したって意味がないと考える方は少なくないと思います。

しかし、その考えは本当に正しいのでしょうか? 今回は、話を「完全にメモる」ことのメリットをお伝えしましょう。

「完全にメモ」しなければ人間は覚えられない

一見非効率に見えるかもしれませんが、人間は「完全にメモ」しなければ記憶できません。

「ワーキングメモリ」という言葉を聞いたことがありますか? これは日本語で「作業記憶」と呼ばれる、言ってしまえば「超・短期記憶」のことです。

あなたが板書をノートに写すことを考えてみましょう。黒板やホワイトボードに書いてある内容を一時的に記憶し、手元のメモに視線を落としてそれを書き写しますよね。まさに、一時的に板書を記憶した時、「ワーキングメモリ」が働いているのです。

しかし、そのメモリには限界があります。板書が大量だったら、一度にノートに写すのは難しいですよね。何度かに分けて写すはずです。そう、このワーキングメモリ、「同時に4つ程度のことしか記憶できない」という弱点があるのです。これは「マジカルナンバー4±1」とも呼ばれる人間の脳の限界です。

(※長らく「マジカルナンバー7±2」が一般的とされていましたが、実際には「4±1」が正確なのではないか、という説が2001年に提唱されています。参考:mcラボ|マジックナンバー7±2の間違いと真実

例えば電話番号を覚える時には、「08012345678」と見るより「080-1234-5678」と見た方が覚えやすいはずです。これは数字が3~4の塊が3~4個あり、見事にマジカルナンバーに収まっているからなんだとか。

講義やセミナーを受ける時、メモを怠ると、何が起こるでしょうか。そう、人間のワーキングメモリは3~4個が限界ですから、どうしても「抜け漏れ」が生まれてしまうわけです。

全部大事に覚えておきたい……! というのなら、全部メモしてしまうことをおすすめします。

「大事なことだけメモ」では意味がない理由

でも、本当に大事なことだけメモすればいいじゃないか。 それ以外の情報は「抜け漏れ」が生じてもいいじゃないか。

そう考える人がいるかもしれません。しかし、「大切な情報」とは一体何なのでしょうか。結局「自分が楽しいと思ったもの」や、講師や先生が「強調したもの」、自分が「覚えているもの」をメモすることになります。

先ほどは「ワーキングメモリ=超・短期記憶」について説明しましたが、長期記憶も完全とは言えません。人間の長期記憶は本来、生存のために必要な情報を残しておこうとするものです(猛獣がよく出る場所、木の実が豊富に取れる木の位置など)。

では、歴史の年号など、およそ生存には関係のない情報を、どうして私たちは覚えていられるのでしょうか。脳科学者の池谷裕二氏は「何度もインプットされた情報だからだ」と語ります。

海馬(注:長期記憶を司る脳の部位)に必要だと認めてもらうためには(中略)ひたすら誠実に何度も何度も繰り返し情報を送り続けるしかないのです。すると海馬は、「そんなにしつこくやって来るのだから必要な情報に違いない」と勘違いして、ついに大脳皮質に情報を通過させるのです。

(引用元:池谷裕二著(2011),『受験脳の作り方―脳科学で考える効率的学習法』,新潮社.)

しかし、何度もインプットされる情報だけが、自分にとって重要な情報であるとは言い切れません。高校の授業なら、先生が繰り返し強調したこと、その結果よく記憶されていることが「重要」と言えるでしょう。しかし、たとえば取引先からの依頼や、上司からの指示はなんども言ってくれる訳ではありません。

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「完全にメモ」した後で必要なこと

情報の抜け漏れを防ぐため、本当に重要な情報を漏らさないため、そのために「完全にメモ」することをおすすめしましたが、もちろん、この方法にも注意点があります。

それは、あとで「振り返り」の時間を確保しなくてはならないということ。

先日Study Hackerでは、「暗記が苦手」はもう終わり! 東大生が実践する『その場で覚える』テクニックという記事の中で、「その場で覚えるメモの技術」をご紹介しました。これは、講師の話や板書の内容を一度反芻し、「その場で」記憶してしまうつもりでメモを取る、という方法。この方法は「インプット(じっくり話を聞いて内容を頭に入れる)とアウトプット(メモを取る)」を同時にできますから、後で振り返りの時間を取らずにすみます。

しかし「完全メモ法」では、一度反芻してからアウトプットするための時間を確保できません。メモする情報量を多くするのが目的ですから、どうしても「講師の話を丸写し」「板書を丸写し」になります。ですから、あとで振り返りの時間が必要なのです。

「完全メモ」したノートを見ながら、情報を階層化したり、重要度別に分類したり。「完全メモ」が情報を全てインプットする段階なら、今度はそれを使えるように整理する段階が必要なのです。

大切な情報を一つ残さず記憶するための「完全メモ」。 効率を意識し時間の節約につながる「その場で覚えるメモ」。

自分の時間の使い方や、重要度に合わせて使い分けてみてください。

(参考) mcラボ|マジックナンバー7±2の間違いと真実 池谷裕二著(2011),『受験脳の作り方―脳科学で考える効率的学習法』,新潮社. Study Hacker|「暗記が苦手」はもう終わり! 東大生が実践する『その場で覚える』テクニック

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