みなさん、こんにちは。英語職人・時吉秀弥です。

ここ何年もの間、ずっと高校生のエッセイライティングとスピーキングのトレーニングを行なっています。外国語というのは、読んだり聞いたりするだけなら「なんとなく意味がわかる」というレベルの理解でも済むのですが、話したり書いたりするとなると、かなり正確な理解が求められます。

なかでも日本人にとっては、英語の冠詞や複数形の感覚は本当にわかりにくいものです。ですから、例えば「犬を飼っている」と言うときに、I have a dog. や I have some dogs. ではなく、I have dog. というふうに言ったり書いたりする日本人の英語学習者は本当にたくさんいます。

そこで今回は、

1. 日本語がどのような「世界の捉え方」を持つせいで我々はこんなミスをしてしまうのか。
2. a dog でも some dogs でもなく、ただ dog と言ったときに、英語のネイティブはどういう奇妙さを感じてしまうのか。そして、なぜそういう奇妙さを感じてしまうのか。

を説明します。これらを実感できると、名詞の使い方にうまく注意が働くようになり、間違いを減らすことができますよ。では一緒に考えてみましょう。

日本語は、ものを「形」ではなく「性質」として見ている?

まずは1から考えます。「複数形がない」という日本語の世界の捉え方は、実は英語の「数えられない名詞は複数形にならない」というのと似たイメージがあると考えることができます。

英語の「数えられない名詞」は、前回の第14回コラム「数えられる、数えられないってどういうこと? 英語における「1個」の正体」でもお話しした通り、人間が「形」ではなく「性質」としてものを認識していることを表しています。一方で日本語話者は、実験や調査によって、西洋語の話者と比較して「ものの形(英語の数えられる名詞の世界)」よりも「ものの性質(英語の「数えられない名詞」の世界)」に多く注目する傾向があるという結果が出ています(1*)。日本語の名詞のほとんどに複数形がないのはこのことに関係しているかもしれません。

それでも、日本語話者でも例えばノコギリでバラバラに切り刻んだ机を「机」とは呼ばないでしょうから、「机」を形で認識し、「ガラス」をいくら砕いてもやはりガラスとは呼びますから、「ガラス」を性質で認識するわけです。つまり、同じ人間である以上、何語を話そうが、そこは変わりません。ただ、若干、ものを見るときの注意の払い方の傾向が違う、ということはあるようです。

このことがどうやら1の答えになりそうです。日本語(を含む東アジア諸言語)の話者はヨーロッパ語の話者に比べて、ものの持つ「形」「輪郭」にあまりこだわらないようです。西洋語の話者なら例えばそこに箱があったとき、箱という形が繰り返されていない(=1個しかない)のか、箱という形が複数回繰り返されているのか(=2個以上ある)のかにこだわり、a box と boxes の違いが生まれます。

しかし日本語話者はそこにこだわらないのです。「箱という性質を持ったもの」が存在している。輪郭や形はあまり気にしない。つまり箱が1個なのか、2個以上なのか(=形が繰り返されているのか、いないのか)は、西洋語の話者に比べたら、あまり気にしてはいないのです。

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ですから英語を使うときには常に頭の中で、「今話そうとしているのは、1つだけの『もの』の話なのか、それとも2つ以上の『もの』の話なのか」を気にして考えるようにしましょう。

では次に2を考えてみましょう。ここでは例として、a dog でも dogs でもない “dog” という表現の奇妙さを論じてみます。

英語で a dog とも言わず dogs とも言わず dog と言ってしまえば、文脈にもよりますが、それは基本的には「犬の肉」という意味になってしまいます。なぜなら前回 a fish と some fish の例でお話ししたように、我々が「犬」と認識するための1匹の犬の体の形が崩れて、「犬」という性質を持っただけの肉の塊になってしまうからです。「形」ではなくて「性質」でものを認識するのが英語の「数えられない名詞」の世界でした。

以下はちょっと気持ち悪い例文で申し訳ないのですが、ラネカーという有名な認知言語学者によって提示された有名な例文です。

例:After a cat got in the way of our SUV, there was cat all over the driveway.
「私たちのSUVの前に猫が飛び出してきて、道路には猫の肉が飛び散った。」

下線を引いた1つ目の a cat は生きている1匹の猫で、これは猫1匹丸ごとの体の形がありますが、2つ目の cat はその形がなくなって「猫という物質」と化し、不可算名詞扱いになったもの、つまり肉片です。

これで2で述べた「“dog” という表現の奇妙さ」もおわかりいただけたと思います。dog ならまだ「肉片」で済みますが、これが “pen” とか “car” だと、英語話者にはもう想像もつきません。ペンや車を肉片やジュースにするわけにはいきませんから。ペンや車なんて形があってなんぼです。

そうなんです。形。ここで a という冠詞と複数形の -s がもつ重要な機能が浮かび上がってきます。それは

本来何もつかなければ「性質」しか表さない英語の名詞に、「形」「輪郭」を与える。

という役割です。dog なら「犬という性質を持ったもの」で文脈上、肉片であることがよくあります。しかし a dog となると、「1匹の犬」という形、犬の輪郭が浮かび上がってくるのです。そして dogs なら「犬と呼べる形が目の前に複数回繰り返されている」、つまり複数匹犬がいる、ということを表すのです。

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逆に言えば、「数えられない名詞」になぜ a も複数形の -s もつかないのかもこれでわかります。要するに英語において辞書の項目のところに載っているような a も -s もつかない名詞の形というのは、どのような名詞でも「形」ではなく「性質」を表すのがデフォルトだと考えられるのです。

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よくわからなかったら、複数形にして!

最後に、複数形に関して、英語を話したり書いたりするうえで最初に必要となる知識でありながら、かつ従来の英語の授業(つまり読んで理解することをゴールとする授業)ではあまり深く意識されていない知識、要するに英語を書いたり話したりすると日本人が真っ先にミスする項目についてお話しします。それは「総称用法」です。

総称用法というのは、「犬」を例にとれば、とある1匹の犬や、とある何匹かの犬ではなく、また特定の犬でもない、「犬と呼ばれる種類の生き物全体」を表すときの名詞の使い方のことです。日本語で言えば「あの犬嫌い」とか「うちの犬がね」と言うようなときの「犬」ではなく、「というのは猫に比べて」とか「私はは嫌い」と言うときの「犬」です。

英語では総称用法は「 a + 単数名詞を主語に持ってきて、一般的な話を述べる」とか「 the + 単数名詞で一般的な話を述べる」という表し方もあるのですが、一番普通によく使われて、なおかつ最も簡単なのは、「 a も the も some も何もつけない複数形の名詞(ただし数えられない名詞なら単数形)」という表し方です。

いくつか例文を見てみましょう。下線を引いた名詞は総称用法で使われています。

Dogs are friendlier to humans than cats are. 「犬は猫に比べてより人懐こい。」

I don’t want to live in cities. 「私は都会には暮らしたくない。」

English teachers should teach how to speak and write English more. 「英語教師はもっと英語の話し方と書き方を教えるべきだ。」

英語に慣れていない人はついつい「よくわからないけど怖いから a や the をつけておく」ということをしがちです。そして辞書や単語帳では名詞の単語を単数形で目にするのがデフォルトなものですから、何も知らなければ単数形で使ってしまうのがまず普通です。

しかし数えられる名詞である限り、単数形より複数形で使われる確率のほうが圧倒的に高いのです。ですから少し乱暴なアドバイスかもしれませんが、よくわからなければ、まずは英語の名詞は複数形で使うのをデフォルトにしてみてください。そうすると間違える確率がグンと減ります。そしてその後学習と理解が進めば、a や the や some 、そして単数形の名詞の使い方の精度が向上する、という感じでよいのです。

(1*) 今井むつみ著 (2010) ,『ことばと思考』, 岩波新書. pp71~72に、実験結果として確認された日本語のこのような傾向が述べられています。