みなさんこんにちは。英語職人・時吉秀弥です。

今回は第25回目です。半年に渡るこの連載、実は今回でいったん最終回です。たくさんの方に読んでいただき、また、たくさんの温かい反響をいただき、読者のみなさまには本当に感謝しています。最終回の最終回答は、any という言葉のお話で締めくくりたいと思います。

any はもともと何だったのか:「1」が生み出した様々な言葉

私だけの個人的な体験かもしれませんが、any がわかりにくくなる原因は、中学で「some も any も『いくつかの』という意味だよ」と習うことにあるのかもしれません。これが any の正体をわかりにくくしています。any には色々な意味や用法があるので、正体がわからないとかなり使いにくくなります。

any は an とか one と同じ語源を持ちます。数字の one と冠詞の an は音が似てますよね。もとは「1」を意味する同じ単語から別れたものだからです。後に an から n が取れて使われるようになったのが a です。実は an のほうが、a よりも古い形なのです。

そしてこの one と an の共通の先祖の言葉に y がついて、 “one-y” の意味を持っていた言葉が現在の any の祖先です。まだ英語が英語になる前からあったとても古い言葉です。

「-y は何だったの?」という質問もよくいただくのでお話しておくと、Online Etymology Dictionary では、any の -y は「指小辞の力を持っていたのかもしれない」と推測しています。指小辞(ししょうじ)って何なのか、説明しておきます。使い方は色々ありますが、主に小さいことから起こる「かわいさ、親しみ」、時には「軽蔑」という心情を表すための飾りです。

日本語ではどんなのがあるかといえば、井上ひさしが「馬を『馬』牛を『牛(ベコ)』と言う」と指摘しています(『吉里吉里人』より)。また、例えばトモミという女の子があだ名で「ともっち」と呼ばれるときの「っち」も一種の指小辞のようなものです。英語で例を出せば、cigar と言えば大ぶりな葉巻が出てきますが、cigarette となれば小ぶりな紙巻タバコが出てきます。この cigarette の -ette が指小辞です。ただ小型というだけでなく、かわいい、という感じもくっついてくることがあります。

また一方で指小辞には、「何かを指し示すのに適当な名称が見当たらない場合、類似のものを指す名詞に指小辞を添えて『……のようなもの』という意味で用いる」(wikipedia「指小辞」より)場合もありますから、「one-y」は「one ぽい」とか「one 的な」という感覚だったのかな、と私は推測しています。

小うるさい話が長くなりましが、any の語源的な感覚は「ひとつっぽい」とか「ひとつ的な」ということです

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an:「同じ種類のものの中から適当に取り出した、ひとつ」

any は an から派生した言葉ですので、any の意味を知るには an の意味を知っておくことが必要です。a と an は「抽選箱」をイメージすることが大事です。

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抽選箱の中に、同じ種類のものがたくさん入っています。仮にペンだとしましょう。そこから適当に、どれでもいいから取り出した1本のペンが a pen のイメージです。鍵となるイメージとして、この「ランダムにひとつ取り出す」感覚を覚えておいてください。これが any の意味にも影響を与えています。anyの根っこの意味は、

「どのひとつでもいいんだけど」「仮にどのひとつを選んでも大丈夫だよ」という選択のランダムな可能性

です。「でも、a / an も any もランダムにひとつ取り出す、選ぶということなら、a / an と any の違いは何なの?」という気持ちになった方もいらっしゃるかもしれません。この二者には「実際に取り出す」と「取り出す可能性」という違いがあります。例えば、

I picked up a ball from the box.
「私は箱からひとつボールを取り出した。」

は自然な表現ですが、

(?)I picked up any ball from the box.

というのは不自然です。なぜなら a は「実際にひとつ、適当に取り出す」ことを表しますが、any は「仮にどれを選んでもいいんだよ(=可能なんだよ)」という感じだからです。実際にはまだ取り出していないということなのです。ですから、「実際にやった」という文には使えません。一方で、

I can pick up any ball from the box.
「私は箱からどのボールを(ひとつ)取り出してもいいんだ。」

という文なら any が自然になります。それは can という「可能性」(=やろうと思えばできるが、思っているだけでまだやっていないこと)を表す助動詞があるからです(助動詞が「思っているだけで、現実ではない」ことを表すということは、第11回コラム「must と have to は同じじゃない! アメリカ人が have to を5倍も多く使うワケ。」に詳しく書かれています)。

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any+単数形の場合と、any+複数形の場合

anyには2通りの使い方があります。any+単数形の場合と、any+複数形の場合です。どちらも「選択のランダムな可能性」を表すことには違いないのですが、「何の選択なのか」が違ってきます。

1. any+単数形

「あれ? 中学校では肯定文では some を使うって習ったのに、なんでこの any は肯定文で使うんだろう」とつまづいた経験がある人もいるであろう、any のパターンです。

any+単数形は「個物の選択」のランダムな可能性を表します。個物などと難しい言い方をしていますが、要するに「どの(ひとつの)ペンを使ってもいいよ(例:You can use any pen.)」とか、「どの(ひとつの)色を選んでもいいよ(例:You can choose any color.)」「どの席に座ってもいいよ(例:You can take any seat.)」ということです。これらの場合は、文字どおり「どのひとつでも」ということなので、any の後ろには単数形の名詞が来ます。

2. any+複数形(ただし、不可算名詞は単数形)

「個数の選択」のランダムな可能性を表します。つまり、「1個選んでも、2個選んでも、何個選んでもいいよ」ということです。「どの個数の数字でもいいよ」という感じですね。

Do you have any pens?
「ペン(いくつか、つまり1本でも2本でも何本でもいいんだけど)持ってる?」

2個でも3個でもいいわけですから、any の後ろには複数形が来るわけです。「何個でもいいよ、適当に数を選んで」という感覚は「適当な数を取り出す」という some と似ています。そうです。中学校で習う「肯定文では some 、否定文と疑問文では any」というのは、この「any+複数形」のパターンなのです。このパターンは have を使う文や there is 構文など、存在を表す文で出てきます。

There are some cats in the cage.
「ケージの中には何匹かの猫がいる。」

She doesn’t have any friends in this town.
「彼女はこの街には友達がひとりもいない。」

前回の第24回コラム「『いくつかの』はもう卒業! これが some の極意!」で述べた通り、some は「取り出してそこにある」感があるので、「存在を肯定する」ことになり、したがって、ただ単に肯定文に使われるというよりは、「存在を肯定する文」に使われるのでした。

any+複数形は「存在しているかどうか尋ねる疑問文」と、「存在がひとつもないことを意味する否定文」に使われます。疑問文と否定文に使われる理由としては、any が「実際にランダムに取り出している」のではなくて、「ランダムに取り出される可能性」の話をしていることと関係あると思われます。可能性というのは「取り出されて、存在することになる可能性がある」という話、つまり「実際にはまだ存在していない」ことを表します。

だから実際に存在していることは some が表し、「存在しているのかしていないのかが、まだわからないから尋ねる文(疑問文)」と「存在を否定する文(否定文)」にはany+複数形が使われるのだろうと考えられるのです。

そして、any+複数形の否定文は「ゼロ」を表します。なぜなら、「1個だろうが、2個だろうが、3個だろうが、not」、つまりあらゆる個数を否定することになるので、「ゼロ」になるのです。

***
今回をもちまして、英文法最終回答はいったん最終回です。文法がルールではなく、人間の心の反映であり、文法を通して、言葉を使う人間の心の風景が見えることをお伝えしたくて書いてきました。

改めて振り返ると、もっとうまく伝えられただろうと歯がゆい思いをしたところもあります。でも、この連載を通して、もしみなさまが少しでも英文法をしっくりと捉えられるようになったのなら、大げさでなく「ああ、生きててよかった」と思います。

実は、またこの場所で、新連載を行うことが決まっています。詳しい内容はまだお伝えできませんが、とにかく「実践編」です。そして、キーワードは「人を説得する英語」です。実際に何人かの人に参加してもらいます。体験してもらったその人たちがどうなるのか、読者のみなさんにも追体験してもらう、そういう計画を立てています。ワクワクしています。待っていてくださいね。

それではみなさま、ありがとうございました!