2013年の発売以来大きな支持を得て、6か月連続でビジネス書1位を記録し(※1)史上初3年連続でビジネス書のトップテン入りを果たした(※2)『伝え方が9割』。2015年4月には新たな伝え方の技術や実況中継型のワークショップを加えた続編も発売し、さらなる反響を呼んでいます。国内外の様々な広告賞を受賞しているコピーライターでもある著者の佐々木圭一氏に、若手社会人が押さえておくべき「伝え方」についてお話を伺いました。コミュニケーション力は決して先天的なものではなく、学習可能な「技術」だそうですよ。
※1 日販調べ  ※2 トーハン調べ

編集部:まずは、最近伝達手段として見直されている手紙についてお聞きします。なぜ今あえて「手紙」なのでしょうか。

佐々木さん:デジタル全盛でLINEやメールが当たり前だからこそ、手紙は非日常です。特に2,30代の人にとって、便箋や封筒を選び手書きでメッセージを書くことは、とても労力がかかるので、メールと同じ内容を書いたとしてもずっと伝わるのだと思います。
私自身も最近手紙を受け取る機会が増えていると感じていますが、学生さんからのお礼の手紙だったりすると「この子、がんばっているな」とずっと記憶に残りますよね。メールは毎日大量に届くので、記憶には残りにくい。手紙をもらって嬉しく感じるのは、「自分は大切にされている」と感じるからだと思います。

編集部:佐々木さんご自身は手紙を書く機会はありますか?

佐々木さん:本を書いたときには必ず直筆の手紙を添えて送ることにしています。私自身にも多くの献本が届きますが、メッセージがコピーされているものより短くても直筆で書かれている方を手に取りますよね。手紙には、「手書き」にしかできない力があると思うんです。

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同じお礼やお願いの文面であっても手書きの方がずっと心が伝わるし、万年筆一つとっても力の入れ方や向きで字の印象が全く変わります。そんな面白さがあるのも、手書きならでは。どうしても印刷しなくてはならないときには、なるべく手書き風のフォントにこだわっています。

編集部:そう聞くと、手紙は単に情報を伝えるというよりも、心や想いが伝わるツールと言えますね。

佐々木さん:そうですね。日本人は「自分は伝え下手」と思っている人が7割強もいます。同じお礼やお願いでも手紙のインパクトは圧倒的ですから、自分が伝え下手と思っている人にこそ良いツールだと思います。以前行った調査では、切手はたった82円なのに、手紙を受け取った人はその価値を3,000円以上と感じていることが分かりました。嬉しい手紙はいつまでも保存できるし、持ち運ぶこともできます。これだけ価値があると見なされるのですから、使わない手はありませんよね。

編集部:言葉のプロでいらっしゃる佐々木さんならではの手紙の使い方はありますか?

佐々木さん:本のサインは必ず直筆のメッセージを添えますが、そのときに大切にしているのは、毛筆で書くということ。手紙はコミュニケーションですから、ただきれいに書くというより、味があって僕らしさが伝わるものが良い。毛筆で書くと驚かれますが、驚きって嬉しさにもつながりますよね。年賀状も同じで、一枚一枚毛筆で書いています。年賀状もサインも、もらった相手が嬉しいと思ってくれるかということが一番大切なので、サイン一つにしてもいつも受け手の気持ちを考えて書いています。

編集部:手紙文化に全くなじみがない若い世代にとって、手紙はやはりハードルが高いようですが、どのようなことに心がければ良いでしょう。

佐々木さん:手紙は気持ちを伝えるものなので、正しい書き方にこだわる必要はない、と僕は思っています。形式にこだわりすぎると書けなくなってしまいますよね。正しいかどうかよりも、伝えること、伝わることが大切なので、もっと自由にとらえて良いのではないでしょうか。長い必要は全くありません。たとえば先生に近況を報告する場合、「先生に教えてもらったことをいかしています」だけで十分。それで受け手が喜んでくれれば、それが「正解」なんですよ。

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手書きで手紙を書くのは、コピーで済ませたりメールを送ったりするのに比べて労力がかかります。しかし手間以上に気持ちが伝わるものです。ぼくも、ここぞという依頼のときには長文でも手紙をしっかりと書き、その威力を実感しています。仕事で一歩抜きんでるためにも十分役に立つので、若い人にこそぜひ気軽に手紙を利用してほしいですね。

編集部:佐々木さんからご覧になって、若手社会人の伝え方で「もったいない」と思うのはどんなところですか。

佐々木さん:一番もったいないと感じるのは自分が感じたまま、考えたままをそのまま話してしまっていること。自分の思いをただぶつけても、相手は受け取れません。相手に受け取ってもらうためにはちょっとしたコツが必要なんです。たとえば企画書を作ったときに、ストレートに「面白い企画書なので採用してください!」「頑張ったので見てください!」と自分本位の伝え方をしてもダメ。ぼくも新人の頃、そういったアプローチで何十回と失敗しました。

編集部:つい、自分の熱い思いを訴えたくなりますが、それでは効果が出ないのですね。それではどうしたら良いのでしょう。

佐々木さん:企画書を見せるとき、頭に一言「○○さんに教えてもらったことを参考に、この企画書を作ってみました」と加えるだけで良いのです。これで相手の反応は驚くほど変わりますよ。これは、人間誰もが持つ「認められたい欲求」を満たしているから。上司といえども人間ですから、人に認められるのは嬉しいのです。こういった、ちょっとした「伝え方のレシピ」を知るだけで、コミュニケーション力はまるで変わります。

編集部:著書にもたくさん紹介されているこのレシピこそが、コミュニケーションの「技術」なのですね。

佐々木さん:そうです。最近は「コミュ障」という便利な言葉があるので、「自分はコミュ障だから」と自分のコミュニケーション能力の低さを正当化して、最初から殻に閉じこもってあきらめている人がたくさんいます。これはあまりにもったいない。コミュニケーション力は技術なので、誰にでも高められるのです。コミュニケーション下手を自認する人が7割を超える日本人から見ると、アメリカ人はみんな朗らかで誰とでも陽気に接しているように見えますよね。でもそれは、アメリカでは、小中学生のときに「コミュニケーション」をしっかり学んでいるから。

編集部:佐々木さんの著書「伝え方が9割」にもそのあたりのことが詳しく書かれていましたが、佐々木さんご自身も最初は気づいていなかったとか。

佐々木さん:ええ。新卒でコピーライターになって、企画書や色々な案がずっと突っぱねられる状態が長らく続いていました。その間は、コピーライターなんだから感性を磨かなくてはならないんだ、と思ってたくさん映画を観たり美術館に通ったり本を読んだりしていましたが、全くダメでしたね。ところが、5年ほど経って人間誰もが持つ「承認欲求」に気づき、伝え方を変えたところ劇的に効果があったのです。提案も通りやすくなり、ぼくの言葉に耳を傾けてくれる人が圧倒的に増えた。提案の中身はほとんど変わっていないにも関わらず、です。

編集部:「上司」というと部下から見ると完成された存在のように感じるので、部下に対しても承認欲求を持っているとはなかなか気が付きませんね。

佐々木さん:そう。「上司でも」というところがポイントですよね。そうやって段々提案が通るようになると、今度は「言葉の持つ力」が見えてきたんです。たとえばオリンピックのメダリストたちが残した名言、「最高でも金、最低でも金」「記録よりも記憶に残る」など、正反対の言葉をあえて使うことで言葉がうんと強くなる。私たちの記憶に残っているのは、金メダルを取った人よりも強い言葉なんです。伝わるか伝わらないかは、このような言葉のレシピを知っているか知らないか、ただそれだけの違いです。知っていればずっとスムーズに企画や意見が通るようになるんですよ。

編集部:著書にも色々なレシピがありますが、若手社会人が今日からでも使える、最も簡単かつ効果的なレシピを教えてください。

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伝え方が9割

佐々木圭一

ダイアモンド社・2013年

佐々木さん:若手の方にお教えしたい効果的なレシピは、二つあります。「ギャップ法」と「クライマックス法」です。「ギャップ法」はさきほどお伝えした、言葉のコントラストを利用した方法です。これで言葉の力がぐっと強くなります。たとえば、単に「字がきれいですね」と褒めるよりも「自分の字が小学生の字に思えるほど、あなたの字はきれいですね」と言った方がずっと言葉が際立って相手はぐっときませんか? これは企画書にも使える方法で、言いたいことをストレートに書くだけではなく、あえて「反対のことば」を入れることを意識してみてください。

「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きているんだ」(踊る大捜査線 青島俊作)

「お前のためにチームがあるんじゃねぇ チームのためにお前がいるんだ!!」(SLAM DUNK 安西先生)

引用元:「伝え方が9割」 佐々木圭一

もう一つは「クライマックス法」です。これは、ロケット打ち上げの前の「3、2、1」のカウントダウンのようなもので、「今から大切なことを言うよ!」と相手に心の準備をさせるもの。これによって、今まで聞いてもらえなかった提案や意見が急に聞いてもらえるようになります。「他では言わないのですが」「これだけは言わせてください」などは、相手の関心を一気に高めるマジックフレーズです。これらはすぐにでも使ってみてください。

事前にカウントダウンを伝えてあげることで、あなたの伝えたいことが的確に集中力をもって聞いてもらえるようになります。この他にもクライマックスを作るのには以下のような言葉があります。

「これだけは覚えてほしいのですが~」
「一言だけつけ加えますと」
「3つのコツがあります。一つ目は~」

(中略)などです。クライマックス法を作るのには2つのステップがあります。

1.いきなり「伝えたい話」をしない
2.クライマックスワードから始める

あとは、さきほどお伝えした「どんなに偉い人でも、承認欲求を持っている」ということも常に意識してください。最初に相手の承認欲求を満たす言葉をたった一つ加えるだけで、その後の受け取られ方がまるで変わってきますよ。わたし自身、この「伝え方の技術」に気が付いたことで、環境が一気に変わりました。徐々に、ではなくまさに激変。また、この「伝え方の技術」を身に着けると、性格までもが変わって見えます。

たとえば遅刻の多い部下を注意する時に「遅刻ばかりして、やる気あるのか!」というのと、「たかだか遅刻で君の評価を落としてはもったいない」と言うのでは、同じことを伝えているのに前者は横暴な上司、後者は暖かい良い上司とまるで違った印象を与えますよね。言葉の持つインパクトはそれだけ強いのです。「全然提案が通らない」「上司が話を聞いてくれない」と思っている人は、まずは「ギャップ法」「クライマックス法」から取り入れてみてください。それだけで、とりまく環境が一変することを実感できるはずですよ。

<編集後記>
「ここまで赤裸々に手の内を見せて良いのだろうか?」と思うほど、様々な言葉のレシピを載せた『伝え方が9割』。誰にでも分かりやすく、具体的に書かれているからこそ、これだけ多くの支持を得続けているのでしょう。「手書きを大切にしている」というお話から厚かましくもサインをお願いしたところ、私の名前を入れてこんなに力強いメッセージを書いてくださいました。これは嬉しい! この味のある字で手紙をしたためられたら、受け取った人は快く応じたくなりますね。手紙や直筆の力、そして言葉の力を実感したインタビューでした。教えて頂いたいくつかのレシピ、早速試してみましょう。
佐々木さん、ありがとうございました!