キリスト教の伝統校として知られる関東学院は、1884年に創設された横浜バプテスト神学校を源流とし、その歴史は130年以上。現在は認定こども園から大学院までを擁する一貫校で、あの小泉進次郎さんの出身校としても知られています。

今回は、人間環境学部人間環境デザイン学科(2016年4月より、人間共生学部共生デザイン学科に改組)が取り組んでいるユニークな試み、「KGU空き家プロジェクト」についてお話を伺いました。
このプロジェクトは、単に「空いている家を再生する」という範囲を超え、空き家問題の課題に真剣に取り組むため、地域の方々とも頻繁に交流を持って色々な声を反映させるなど、徐々に活気を失いつつある街に明るさを取り戻すことにも一役買っています。

現地を案内して下さったのはこの活動の責任者でもある、人間共生学部共生デザイン学科准教授 兼子朋也先生です。

編集部:日本各地で空き家が問題になり、リノベーションやシェアハウスなど様々な活用がなされていると聞きます。地方だけではなく山手線の内側でもかなり問題になっているようですが、今回空き家プロジェクトを始めたというのは、兼子先生のご専門だからなのでしょうか?

プロの方の指示のもと、かなり危険な作業も行う

プロの方の指示のもと、かなり危険な作業も行う

兼子先生:いえ。私の専門だからということではなく、2年前に学生からの提案があったことがきっかけでした。
その背景には、関東学院大学がある横浜市金沢区のすぐ隣、横須賀市の人口流出問題があります。2013年、横須賀市では転出者が転入者を上回る「転出超過」が、全国市町村でワースト1位となってしまいました。ここ横須賀市追浜地域には100軒を越す空き家があり、若い人の流出も進んでいます。
そのような背景から、学生から「空き家をどうにかできないだろうか」という発案がありました。

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編集部:横須賀は、緑豊かな場所である上に都内までの通勤圏内でもあるので、そんなに人が流出しているというのはとても意外です。

兼子先生:横須賀市は、平地が少なく山がすぐ迫る場所が多いのが特徴です。高度経済成長期にたくさんの家が建てられましたが、土地が足りずに平地だけではなく山沿いにも多くの家が建てられたのです。

谷状の地形で階段が多い「谷戸地域」では、住んでいる人が高齢化しているため、階段の上り下りなど日々の生活が厳しいのです。空き家が増えることは治安の悪化も招きますし、2015年10月には空き家対策措置法に基づいて、全国初の行政代執行による「特定空き屋」の解体も行われたほど、日本の中でも特に空き家問題が深刻な場所です。実は今やっている空き家再生は第二弾で、第一弾は既に昨年改修を終え、現在は学生のシェアハウスとして活用しているんですよ。

編集部:もう既に、一軒の空き家の改修が終わってシェアハウスに生まれ変わっているのですね。こちらの「KGU空き家プロジェクト」には何名くらいが参加しているのでしょうか。

まさに本物の工事現場のような作業風景

まさに本物の工事現場のような作業風景

兼子先生:現在は人間環境学部 人間環境デザイン学科を中心とする学生約25名が参加しています。男女比は半々で1年生から4年生まででわいわいやっていますよ。活動は基本的に水曜土曜です。学生が行うリフォーム作業と言っても、専門的な工具を使って壁や床を打ち壊しジャッキアップして歪みを直し、その上にしっかりと土台を築いて一から床を作るなど、完全にプロと同じ工事になります。

私も含め家の改築、リフォームなどの具体的な知識はほとんどないので、プロの工務店さんに協力を頂いています。経験に裏打ちされた大工さんの熟練の技術は、もう芸術ですからね。それを間近に見られるというのは、本当に素晴らしい経験だと思います。少しずつですが様々な工具を揃えていき、今では学生もいろいろな工具を扱えるようになっています。

編集部:こちらの学部で学ばれている学生さんは将来、設計やデザインに進む方も多いと思うので、学生のうちにプロと一緒に現場の作業に携わることができるのはとても貴重ですね。工務店や現地にお住まいの方々など、地域を巻き込んだ活動なのですね。

兼子先生:そうですね。どうせ活動するなら、少しでも地域の方々の役に立ちたいと思っています。町は高齢化が進んでいる一方、私たちの活動は皆大学生と若いですから、ここで交流が持てればお互いにとって良いのではないか、と。そのため、単に意見を聞くための会合を開くだけではなく、町内会とも連携して、「若い力が足りない」と聞けばお祭りの時に御神輿をかついだり、お祭りの時に提灯をつける作業を手伝ったり、と、地域の活動を支えることにも色々と貢献しているんですよ。

地元を離れて一人暮らしをしている学生にとっては、地域の活動に参加することも楽しいようです。せっかくこういった活動をするなら、ぜひとも地域を元気にしたいですよね。

さまざまな工具の使い方を真剣に学ぶ

さまざまな工具の使い方を真剣に学ぶ

編集部:単に空き家を修復するだけでなく、若い人がどんどん町内会などに参加するというのは、町おこしという意味でもとても歓迎されているのではないでしょうか。それでは本日お越し頂いている二人の学生さんにこの活動に参加されたきっかけや、そもそもなぜこの学部を選んだのか、お話をお伺いしたいと思います。3年生の高杯知美(たかつきともみ)さん、2年生の小池悠介(こいけゆうすけ)さんともに、人間環境学部デザイン学科の学生さんです。(※2016年4月より、人間共生学部共生デザイン学科に改組)

3年生の高杯知美(たかつきともみ)さん

3年生の高杯知美(たかつきともみ)さん

高杯さん:私は小学生の頃から、デザイン関係の仕事、特に家の設計やインテリアデザインに憧れを抱いていました。その目標は高校生になっても変わらず、この学科に入学して現在3年生です。この活動に参加した理由は、自分が将来進みたい業界、仕事とそのまま直結すると考えたから。「実際に家をつくるってどうやるのだろう。その現場を見てみたい」という想いがありましたが、そんなことはなかなか実現できなくて。

こちらの活動では大工さんに一から教えてもらいながら一緒に作業ができて、とても恵まれていると思います。今は私たちも黙々と作業をすることが多いのですが、最初の頃は「解体方法はどのように行うのか」「この場所をこう変えるにはどうしたら良いか」と、話し合う機会も多かったのです。

そんな時でも皆さんとても優しくて、実際に地道な作業を続けていくと一つ一つ形になっていくので、とても達成感があります。ここでの経験を将来に活かしていきたいと思います。

2年生の小池悠介(こいけゆうすけ)さん

2年生の小池悠介(こいけゆうすけ)さん

小池さん:小さな頃から生物や自然など、人間をとりまく環境に非常に興味がありました。環境も、単なる周囲の自然というよりも環境保全に関心があります。大学に入学して色々なことを学んだ中で、今現在興味を持っているのは、「住まい」「デザイン」「環境」の3つです。一年生の間はこれをまんべんなく学んできたので、2年生以降で自分が本格的に学びたいことを見極めていきたいと考えています。

入学してすぐに「KGU空き家プロジェクト」に参加していますが、最も驚いたのは大工さんの仕事です。大工さんといえば力仕事のイメージでしたが、ミリ単位のことにこだわり、それも今までの経験に裏打ちされた「勘」のようなものが重要で、繊細でクリエイティブな仕事です。また、木の切り方一つとってもほんの少しのズレが命取りになりますから、緻密な計算が必要とされるのです。

将来、設計や建築に関わるとしたら、大工さんと一緒に仕事をする機会が絶対にあります。学生のうちに勝手なイメージを壊せたことはとても良かったと思います。また、工務店の方々に道具の使い方から「こうしたい時には、こんな設計方法があるよ」など様々なことを教えて頂き、社会人の方と接した経験がほとんどなかった僕にとっては、社会勉強としてもとても良い場でした。

編集部:設計やインテリアなどの仕事に携わりたい学生さんにとっては、この「KGU空き家プロジェクト」での活動は、仕事に直結しますね。働きだす前に具体的な作業を知っているというのは、とても大きな武器になると思います。最後に兼子先生に、このプロジェクトの将来の夢を教えて頂きます。

兼子先生:今は、目の前の問題である「空き家再生」に取り組んでいますが、これをきっかけに地域にしっかり根ざしたり、収益を得られるようになったりしていければ良いと思っています。具体的には、修復を終えた空き家で学生が年配の方に向けてスマホやインターネット講座などを開くことや、「あの学生たち、こんなリフォームができるんだ」と知ってもらえれば仕事としてリフォームを受注することだってできますよね。

学生同士も助け合って作業を行う

学生同士も助け合って作業を行う

さらに、この地域の方々が困っているちょっとしたこと、たとえば庭の手入れや草刈りや力仕事など、学生にとっては何でもないけど年配の方には助かることってたくさんあると思うのです。学生たちにはこの経験を元に起業してもらいたいし、長年関東学院大学がお世話になっているこの地域に元気を取り戻すお手伝いをしたい。そう考えています。

編集部:実際に、谷戸地域と呼ばれる場所の空き家再生の現場を見せて頂き、まさに山に家がそびえ立っていて年配の方にとっては買い物一つも大変なご苦労だろうな、と思いました。すぐ近くに1万人以上もの学生を擁する大学があるのですから、足腰が強い学生がこの場所を活用していくことは、単なる空き家の修復を超えてコミュニティの活性化にとっても大きな貢献ですね。

修復現場はまさに施行中の工事現場のよう。そこで、大学生とは思えない見事な工具さばきを見せて頂きました。

兼子先生、高杯さん、小池さん、貴重なお話をありがとうございました。

右から兼子先生、小池さん、高杯さん

右から兼子先生、小池さん、高杯さん

<関東学院大学>
・所在地:236−8501 横浜市金沢区六浦東1−50−1(横浜・金沢八景キャンパス)
※他に、湘南・小田原キャンパス、横浜・金沢文庫キャンパスあり
・沿革:1884年にアメリカ北部バプテストの宣教師であったアルバート・アーノルド・ベネットにより横浜山手に設立された、「横浜バプテスト神学校」が起源。プロテスタントのミッション系大学
・学部:国際文化学部/社会学部/経済学部/法学部/理工学部/建築・環境学部/人間共生学部/教育学部/栄養学部/看護学部
・系列校:関東学院中学校高等学校/関東学院六浦中学校・高等学校/関東学院小学校/関東学院六浦小学校/関東学院のびのびのば園/関東学院六浦こども園