忘れられる権利とは

・ 忘れられる権利とは、過去の犯罪歴や写真など、知られたくない自分の情報をインターネット上から削除するよう要請できる権利。これまで、人間の記憶は時間の経過とともに薄まるため、知られたくない自分の過去は自然と忘れられるようになっていた。しかし、インターネットの検索技術が発達したことにより、個人の名前を検索した際、本人が知られたくないと思っている過去の情報が現れるため、いつまでも世間から忘れてもらえないことで悩む人が増えはじめた。このような状況で、「忘れられる権利」という言葉が提唱されはじめ、この権利の妥当性について国際的に議論が行われている。

・ 欧州では、忘れられる権利が法的に認められている。2016年、欧州議会で「一般データ保護規則」が可決され、そのなかに「削除権(忘れられる権利)」が明記された。検索エンジンの最大手であるGoogleは、検索結果の削除請求を受けつけるフォームを設けて弁護士に請求を精査させており、請求のおよそ4割が削除に至っているという。

忘れられる権利に関する訴訟

・ 忘れられる権利に関しては欧州が先進的だが、日本でも近年、訴訟事例があった。児童買春・ポルノ禁止法違反罪によって罰金刑を課せられた男性が、自身の名前と居住する都道府県名をGoogleで検索すると逮捕歴が表示されるとして、Googleに対し検索結果の削除を求める仮処分を、さいたま地方裁判所に申し立てていた。これについて、事件から3年が経過していることから「過去の犯罪事実について社会から忘れられる権利」があるとして、さいたま地裁は2014年に男性の訴えを認めた。

・ しかし、Googleが抗告をしたところ、東京高等裁判所は2016年にさいたま地裁の決定を取り消した。理由のひとつには、罰金を納付してから5年未満という期間を考えれば、事件の公共性はまだ失われていないという判断がある。もうひとつには、検索結果の削除請求に関しては、名誉権やプライバシー権といった既存の権利において議論すればよいのであって、忘れられる権利の有無で判断する必要はないということが挙げられた。

・ 男性はさらに抗告し、2017年1月に最高裁判所の決定が下された。それによれば、男性の逮捕歴は公共の利害に関するものであることから、検索結果の削除請求は認められないという。また、今回の決定では、忘れられる権利という言葉は使われなかった。そのため、忘れられる権利という概念は、日本においてはまだ法的に認められていないといえる。

kanekon-930
3ヶ月でTOEIC615点から930点に! 商社マンがトレーナーと二人三脚でつかんだ900点の大台。
人気記事

忘れられる権利に関する問題

・ 忘れられる権利を主張する人にとって、削除してほしい情報は多岐にわたる。たとえば、いたずらで撮った恥ずかしい写真や、住所などの個人情報、過去の犯罪・不祥事などである。このうち特に、過去の犯罪・不祥事を検索結果から削除するべきかどうかが問題となっている。

・ 過去に犯罪・不祥事を起こした当事者にとっては、そのことがいつまでも検索結果に残ることによって、精神的苦痛を感じたり就職・結婚が困難になったりする。しかし、当事者の忘れられる権利が認められて、犯罪・不祥事に関する記述が検索結果から削除されれば、ほかの人の「知る権利」や「表現の自由」が侵害されることになる。そのため、忘れられる権利がすでに認められた欧州でも、表現の自由や公共の利害が考慮され、削除請求が認められないことがある。

・ このように、忘れられる権利を認めることは、他者の知る権利や表現の自由を侵害することにつながる。そのため、今後も社会的関心が高まっていくと考えられる、忘れられる権利の是非については、一層の議論が求められていくだろう。

(参考)
株式会社WEB広報|忘れられる権利
ネット誹謗中傷 弁護士相談Cafe|日本における「忘れられる権利」vs「知る権利」の最新情報と問題点
Itpro|「忘れられる権利」を問わなかった最高裁決定の意味と、グーグルの安堵
日本経済新聞 電子版|「忘れられる権利」触れず EUで確立、米は否定的
日本経済新聞 電子版|ネットで「忘れられる権利」 個人情報削除、EUで確立
コトバンク|忘れられる権利
ハフィントンポスト|欧州「忘れられる権利」判決の行方
弁護士法人 デイライト法律事務所|ネット上の逮捕歴の検索結果について削除を認めなかった最高裁判例~平成29年1月31日付決定