つながらない権利とは

・ つながらない権利とは、2016年春現在フランスの国会で議論されている労働法改正の中に、新たに盛り込まれることが検討されている権利。労働者に、勤務時間外や休日に仕事上のメールなどのやりとりをしない権利を認めるというもの。労働法改正案はフランス国会の下院を通過し、上院で審議されている(2016年6月時点の情報)。日本でもつながらない権利について議論すべきではないか、と話題になっている。

・ 技術の進展により、労働者はオンラインでいつでもどこでも仕事ができるようになり、それがプライベートの時間までをも侵食している。つながらない権利は、そうしたオンラインでの仕事のし過ぎによる悪影響を減らすことを目的に、法改正案に盛り込まれることになった。

法案では、従業員50人以上の企業で、雇用主や従業員が、勤務時間外に電子メールなどのデジタルコミュニケーションを制限する方法について協議し、やり方を定めることなどを求めている。海外メディアは「つながらない権利(The right to disconnect)」などと報じている。

(引用元:弁護士ドットコム|勤務外の仕事メール制限「つながらない権利」を日本で実現すべき?…フランスで議論に

・ 労働法改正が可決され、つながらない権利が法的に認められるようになると、企業は時間外にメール等による業務をしない環境を作る対策をとる必要がある。なお、つながらない権利は、企業に勤務時間外のメールを強制的に禁止するものではなく、労働者の生活を尊重するためにメール等の時間制限を奨励するもの。これに従うかどうかは企業次第である。

・ つながらない権利について、フランス国内では賛否両論が見られている。好意的な意見は、息抜きをするきっかけになり、ワークライフバランスを維持することができるといった意見。否定的な意見は、国が労働時間に干渉することを嫌う意見や、特にグローバルに仕事をしている労働者には時間に関係なく世界の人々と情報交換する必要があるため、勤務時間外だからと言って完全に連絡を遮断することはできないといった意見が出ている。

日本で考える、つながらない権利

・ 日本の労働環境でも、フランスと似たような問題が存在する。ただでさえ日本は、長時間労働や持ち帰り残業をするケースが多くみられる。それに加え、スマートフォンさえあれば、ネットワークに接続し、いつでもどこでも仕事のメールを確認することができる時代である。携帯電話が普及しておらず自宅の固定電話しかなかった頃に比べると、勤務時間外に連絡するのは非常識だという感覚は薄れつつあると言われている。これに関連して、以下のような調査結果がある。

独立行政法人労働政策研究・研修機構が2013年に実施した「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査」によれば、始業・就業時間が決まっている通常の雇用者でも勤務時間外の連絡が「よくある」「ときどきある」とする回答が3割を超える。就業時間を自分で決められる裁量労働制ではその比率は4~5割に上る。

(引用元:日本経済新聞|「つながらない」権利ある? 勤務時間外に仕事メール受信

・ 日本でつながらない権利について考えるにあたって、現状、法的には以下のように解釈されている。明確なルールがないために、勤務時間外に労働者が受け取るメールやLINEでの業務指示は、長時間労働や不払い残業の温床になっている。

労働問題に詳しい前嶋義大弁護士は「たとえ会社支給のスマートフォンであっても、就業規則などのルールや個別の業務命令で勤務時間外での対応を求められていなければ、時間外に対応しなくても構わない。もし勤務時間外での対応を求められ、実際に対応に時間を費やしたならその分の残業代も発生する。ただルール付けしている企業は少数派だ」と説明する。

(引用元:同上)

・ 日本ではつながらない権利を定めた法律はないが、企業が独自につながらない権利を認めている例はある。例えば、ジョンソン・エンド・ジョンソンは2015年7月、グループ4社で午後10時以降と休日の社内メールのやり取りを原則禁止とした。また、三菱ふそうトラック・バスは2014年12月、親会社のダイムラー社(ドイツ)にならうかたちで、長期休暇中の電子メールを受信拒否・自動削除できるシステムを導入した。

・ ICT技術を活用した在宅勤務を導入する企業が増える中、日本でも、フランスのつながらない権利を大いに参考すべきだという意見はある。しかし、フランスと日本では、労働に対する意識が異なるため、簡単に真似することはできないと見る識者もいる。情報社会学研究者の塚越健司氏は次のように解説している。

筆者がこのニュースを知って最初に思ったことを素直に表明すれば、「いいことだけど日本では無理だな」というものだ。日本の労働文化では、仕事とプライベートを分けることは難しいからだ。
(中略)
一般にフランスは労働運動が盛んで、デモやストライキの多い国として知られている。また日本に比べてバカンスなど休みを多くとることから、労働に対する意識も日本とは大きく異なる。フランスであれば、仕事とプライベートを分けることも可能かもしれない。だからこそこうした法案が現実味を帯びているとも解釈できる。

日本であればどうだろう。誰もが休むからこそ、自分だけは仕事をすることで他者よりも成績を上げたい。あるいは、客が待っているなら休みも関係ない、という(奉仕の?)精神からか、いずれにせよ技術インフラとして文字通り通信を切断しないかぎり、仕事を続ける労働者は多いだろう。

(引用元:BLOGOS|勤務時間以外の仕事メールは禁止 フランスが投げかける「切断する権利」は労働意識を変革させるか – 塚越健司

(参考)
日本経済新聞|「つながらない」権利ある? 勤務時間外に仕事メール受信
NIKKEI STYLE|つながらない権利、ある? 私生活に仕事のメール侵入
THE HUFFINGTON POST|勤務時間外の仕事メール、やめましょう。フランスで議論中の法案とは
弁護士ドットコム|勤務外の仕事メール制限「つながらない権利」を日本で実現すべき?…フランスで議論に
BLOGOS|勤務時間以外の仕事メールは禁止 フランスが投げかける「切断する権利」は労働意識を変革させるか – 塚越健司