あなたは日頃、どれだけストレスを感じているでしょうか。特に大きな問題がない日でも、家に帰るとどっと疲れていることはないでしょうか。
ストレスは、大きな責任やトラブルなど、わかりやすい原因によってのみ生じるものではありません。私たちは日常的に人と関わるなかで、自分では気がつきづらい小さなストレス=「マイクロストレス」にさらされています。放っておくとストレスがたまりにたまって、いつしか心身が重大な危機に陥る可能性も……。
そんな、あなたの日常にも潜んでいるかもしれないマイクロストレスとはいったいなんなのか、そしてどう対処すればよいのかをお伝えします。
ストレスによる悪影響の数々
マイクロストレスとは、バブソン大学教授のロブ・クロス氏らが日常的で些細な出来事によるストレスに対してつけた呼び名です。クロス氏らは、気づかないうちに積み重なるマイクロストレスの影響について警鐘を鳴らしています。
そもそも、ストレスを放っておくとどうなるのでしょう。まず生じるのが、自律神経の乱れです。新宿ストレスクリニックによれば、ストレスを感じると、人の体内では自律神経のうち交感神経を活性化させるホルモンが分泌され、副交感神経とのバランスが崩れるのだそう。この自律神経の乱れは、軽度のうちは胃もたれ、頭の重さ、目の疲れ、肩こり、背中や腰の痛みなどを生じさせます。そしてストレスが慢性化すると、判断力や集中力が低下したり、食欲や睡眠欲が不安定になったりするそうです。
さらには、燃え尽き症候群を引き起こす可能性もあるとクロス氏らは言います。燃え尽き症候群になると表れるのが、朝起きられない、仕事に行きたくなくなる、アルコールの量が増えるといった症状。進行すると、何事にも無関心になったり、突然仕事を辞めたりし、最悪の場合は命にも関わります。
こうした数々の悪影響は、さほど大きくはない “小さな” ストレスが積み重なることによっても生じうるもの。私たちは、どんなに些細であってもマイクロストレスを気づかぬままに放置しておいてはいけないのです。
自分のマイクロストレスを12項目でチェック
マイクロストレスをためないようにするには、まず、何が自分にとってマイクロストレスになっているのかを自覚することが重要です。自分では気がつきづらいマイクロストレスの原因を知るために、次の表をご覧ください。これは、クロス氏らが10年間にわたって行なった企業数十社に対する調査に基づき、対人関係に潜むマイクロストレスを12項目に分類したものです。
それぞれのマイクロストレスが生じる状況の例は次のとおりです。
(1)能力を低下させるマイクロストレス
- 役割や優先順位がずれる
例)得意なことを任せてもらえない。自分の考えとは違う段取りでチームが動いている。 - やるべきことをしっかりやらない人がいる
例)頼んでおいた作業を後輩がやっていなかった。 - 目上の人が予測不能な行動をする
例)部長の思いつきで企画内容が急に変わった。 - コミュニケーションが成り立たない
例)後輩が仕事内容の説明をなかなか理解してくれない。 - 職場や家庭での責任が急に増える
例)初めてチームのリーダーを任された。
(2)感情をすり減らすマイクロストレス
- 人を管理して成功や幸福に導くことに義務を感じる
例)チームのリーダーとして、メンバーをきちんとまとめてプロジェクトを成功させなければいけない。 - 言い争う
例)チーム内で意見が対立している。 - 交友関係において不信感がある
例)仲がよいと思っていた同僚に、最近避けられているようだ。 - 周りの人からのストレスの伝染がある
例)隣のデスクの同僚がよくネガティブなことを口に出す。
(3)価値観と対立するマイクロストレス
- やりたくないことをやるよう強いられる
例)自分は納得していない内容でプロジェクトを進めることになった。 - 自信や自尊心、自制心が傷つけられる
例)自分ではよくやったつもりだったが、上司の反応が思わしくない。 - 交友関係に妨害が入る
例)ふたりでじっくり話してみたい相手がいるのに、その人を誘うと決まってついてくる人がいる。
思い当たるものはいくつありましたか? 自分でも気づかないうちに、対人関係の端々でイライラしたり嫌な気持ちになったりしていることがわかったでしょうか。
クロス氏らは、12項目のうち自分に当てはまるものを2~3項目見つけるとよいと言います。マイクロストレスはあまりに多いため、すべてを取り除くことは困難です。特にどうにかしたいものを絞ると、対処がしやすくなるそうですよ。
見つけたマイクロストレスに対処するには
では、自分に当てはまるマイクロストレスにはどう対処すればよいのでしょうか。ひとつの方法としてクロス氏らは、ストレスの原因となる人や関係から距離が置けるのなら、できるだけ置くようすすめています。しかし仕事となると、距離を置きたくても立場上どうしてもそうすることができない場合もあるでしょう。そのようなときに有効な、マイクロストレスへの対処法を3つ紹介します。
対処法1. リフレーミング
リフレーミングとは、ビジネスにも活用されるNLPという心理学の用語で、ある物事を別の視点からとらえ直すというものです。「コップの水が『半分しか入っていない』と思うか、『半分も入っている』と思うか」という考え方は有名ですよね。
嫌な気持ちになったとき、いったん冷静になって、プラスにとらえられないか考えてみてください。「苦手なことを任されたが、新しいことに挑戦して成長するチャンスだ」「初めてリーダーになったが、ひとりで責任をすべて背負えというわけではないはず。メンバーを信じて頼ることも大事だ」というように、ストレスになる対人関係をプラスにとらえ直してみてはどうでしょう。
対処法2. 職場で「仲良くなろう」と思わない
多くの著書がある精神科医の樺沢紫苑氏は、「『職場の人間関係はよくない』のがスタンダード」だと言います。深くよい関係を築こうとするから疲弊するのであって、職場の人間関係はもっとドライでいいとのこと。仕事に必要なコミュニケーションがとれればそれで良しと考えるべきだ、と樺沢氏は述べます。
職場の人たちと仲良くなろうと思わなくていい。本当に深い関係を築くのは家族や気の合う友人でいい。このように、仕事上の対人関係をもっと楽なものにとらえ直してみてください。人間関係による疲弊は解消されるはずです。
対処法3. 人に話す
ストレスに感じていることを抱え込まずに、友人や家族に聞いてもらうのも有効です。日本医師会認定産業医で一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事の武神健之氏は、抱えているストレスをただ話すだけで、気持ちが整理・発散され、楽になると言います。
そのためには、いざとなったときに自分の気持ちを話せる相手をあらかじめ決めておくといいそうです。ストレスを抱えてしまってからだと、そういう人を見つけるのも大変になってしまうのだとか。相手として適切なのは、ただ「うん、うん」と話を聞いてくれる人だとのこと。ストレスに押し潰される前に、そのような相手をぜひ見つけてください。
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自分では気づきにくい日頃のマイクロストレスを見つけ、それに対処する方法をご紹介しました。いつもなんとなく疲れている、何かがあったわけではないけど気分が重いという方が、少しでも楽になれば幸いです。
(参考)
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|マイクロストレスで知らぬ間に燃え尽きることを回避する
Harvard Business Review|Don’t Let Micro-Stresses Burn You Out
新宿ストレスクリニック|ストレスからくる症状・体調不良でお悩みの方
Wikipedia|燃え尽き症候群
Life and Mind+|【保存版】人間関係のストレスを解消したい!心と体が軽くなる2ステップの解消法6選
日本NLP協会|リフレーミング
ダイヤモンド・オンライン|精神科医が「職場の人間関係は悪くて当然」と断言するワケ
マイナビニュース|悩みを話せる人がいることの大切さ
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。