「仕事を効率化したい」「生産性をあげたい」
多くのビジネスパーソンは、そんなふうに考えるのではないでしょうか。
そこで生産性ハックの記事を読んだり、書籍をあたったりするものの、どうも自分の置かれている状況と、前提が違っていてしっくりこない、と感じることもあるかもしれません。
みなさんが求めているのは、「一般論」としての生産性向上ではなく、「あなた自身の仕事」の生産性向上のはず。
そんな「自分の仕事の生産性」をあげるために、とても有効な方法があります。それは「4M4E分析」と呼ばれる手法です。本来は、事故やトラブルの原因究明や、対策の立案のために行なうもの。大きな事象に対して使うようなイメージです。
でもこれ、トラブルを「自分の仕事の生産性の低さ」と置き換えることで、生産性アップの対策を考えるためにも役に立つ方法なのです。
私が実際に取り組んだ、「4M4E分析」を用いた生産性向上作戦をご紹介しましょう!
4M4E分析とは?
4M4E分析とは、さまざまな視点や角度から幅広くエラー要因を分析し、対策を考えるための方法。
もともとアメリカのNTSB(国家運輸安全委員会)が事故調査に用いていた手法で、次第に医療現場、航空・鉄道業界などで、広く利用されるようになった分析手法です。NASA(アメリカ国家航空宇宙局)でも採用されたといいます。*1 *2
4M4E分析のフレームワーク
詳しく見てみましょう。
デロイトトーマツの資料 *2 によると、4M4E分析のフォーマットは以下のとおり。
- 4つのM(Man・Machine・Media・Management)でミスやエラーの要因を探る
- 4つのE(Education・Engineering・Enforcement・Example)で対策を考えていく
具体例で見てみよう
たとえば、WEBサイトの更新で「デザイン崩れが起こりがち」というトラブルがあるとしましょう。その場合、4M4E分析のフレームワークに書き込むと、以下のようになります。
Man 人間 |
Machine 物・機械 |
Media 環境 |
Management 管理 |
|
---|---|---|---|---|
具体的要因 | ・CSSの適用ミス ・変更後のデザインチェックを怠った |
・ブラウザの互換性問題 ・エディタやテンプレートの影響 |
・キャッシュの影響 ・端末ごとの表示差異 |
・本番環境でのテスト不足 ・誤って古いCSSを適用 |
Education 教育・訓練 |
更新手順の研修強化 | CMS操作マニュアル整備 | ネットワーク接続の最適化 | テスト・レビューの徹底 |
Engineering 技術・工学 |
コーディング基準の統一 | ツール・CMSのアップデート | ブラウザ互換性テスト | バージョン管理の徹底 |
Enforcement 強化・徹底 |
ダブルチェック必須化 | 自動テスト導入 | 作業環境の最適化 | 更新フローの標準化 |
Examples 規範・事例 |
過去ミスの共有 | 成功パターンの蓄積 | 業界標準の適用 | PDCAサイクルの徹底 |
ブルーが「具体的要因」で、イエローが「対応策」です。
「人が起こす問題」「物や機械が起こす問題」「環境による問題」「管理の不備による問題」と、別々の視点でトラブルを分解。
問題を起こす「主体」が違うので、当然それぞれに対する対応策が変化するのがわかるでしょう。
「対策を立てる」とは、「課題を発見しその課題を解決する方法」と言い換えることができます。このフレームワークを用いることで、どの課題に対して何をしようとしているのかが、すっきりと整理されているのがおわかりになると思います。
4M4E分析で個人の「生産性の低さ」を分析!
はじめにお話ししたとおり、4M4E分析はもともとトラブル分析の手法。スケールが小さくなってもトラブルはトラブルなので、「あなた個人のトラブル」=「生産性が低い」要因を分析する際にも有用です。
ここで少し、そもそもなぜこのフレームワークが分析手法として優れているのか、解説しましょう。
物事が明確になる
さまざまな角度から情報を確認しつつ、重ならないように整理する。そのことで、感覚的な「なぜかこうなってしまう」「なんかうまくいかないんだよな…」のような、課題=要因の曖昧さをクリアにしてくれます。
要因を明らかにすることは、課題解決の第一歩ですね。
「自分の能力不足」以外の理由が見つかる
生産性が低下すると、「能力不足だ」「集中力が足りない」などと、属人的な原因の追求になってしまうことがあるのでは? だから、「頑張ればいいんだ」みたいな……。
実際に、頑張ればいいだけ、というような状況もあるかもしれませんが、そんなことばかりではないはずです。なんでもかんでも「自分の能力のせい」なんて思っていたら、気も滅入ってしまいます。
でも、4M4E分析は問題を「人」以外にも「物や機械」「環境」「管理の方法」など、あなたの問題以外から分析することを求めます。
「過剰な自責思考」から逃れ、より本質的で効率的な問題解決が可能となります。
4M4E分析で生産性向上を目指してみた
まず、課題・トラブルを「生産性がとても低い状態」だと位置づけてしまいます。実際に「私の生産性の低さ」というトラブルを、私なりに分析してみました。
シンプルに行なうために、今回は以下のルールを設けています。
- 1マス1フレーズに限定
- 深く考えず直感で書く
- あとで現実的な観点で絞り込む
できあがったのがこちら。
Man 人間 |
Machine 物・機械 |
Media 環境 |
Management 管理 |
|
---|---|---|---|---|
具体的要因 | 簡単なタスクを優先している |
PCの動作が遅い |
作業スペースが狭い |
休憩を取るタイミングが悪い |
Education 教育・訓練 |
タスクの優先順位づけを学ぶ | PCの適切なメンテナンス方法を学ぶ | 作業スペースの整理術を学ぶ | エネルギーマネジメントを学ぶ |
Engineering 技術・工学 |
作業手順の標準化 | PCのスペックを向上させる | デスクまわりのレイアウトを最適化 | 休憩時間の最適なスケジューリング |
Enforcement 強化・徹底 |
重要タスクの先行実施を徹底 | PCの定期的なアップデート | 作業環境の定期的な見直し | 休憩ルールを決める |
Examples 規範・事例 |
効率的なタスク管理事例 | 高速PC活用の事例 | 快適な作業環境の効果 | 適切な休憩による効果 |
問題がしっかり切り分けられたことで、対策がザッとでてきました。ただ、16個も対策を実行していたら、むしろ生産性が落ちてしまいそうなので(笑)、取り組めそうなものに絞っていきます。
4つに絞ったものがこちら。これなら、まずはやってみて効果を確認することができそうです!
4M4E分析で生産性向上を目指してみた感想
課題発見の精度があがった!
4Mという明確な区分けがあらかじめ設定されていることで、考えがとても自然に整理されていきます。そのことで、「適当に原因を突き止める」というような非効率極まりない行動から卒業できます。
課題分析の正確性が増せば、自ずから対策の妥当性もあがっていきます。改善しやすくなりますね。
実際に、この4つを中心に対策を実行したところ、いつもより1.5倍くらいのスピードで仕事をこなすことができました。もっと早く知りたかった!
加えて今回、適度に簡略化したことで、かなり素早く実践することができたと思います。どんなに効果がある分析でも、複雑すぎるとやらなくなりますから……!
***
実際にやってみると、4M4E分析は決して複雑なものではなく、個人でも取り入れやすいフレームワークであることがわかります。取り組みやすいように、工夫をして取り入れてみることをおすすめします!
*1: JR東日本|JR東日本版4M4E分析手法の開発と導入・展開
*2: デロイト トーマツ グループ |ヒューマンエラーの観点からの事務過誤対策
*3: 株式会社インソース|リスクマネジメント研修~再発防止のための真因追究と対策の徹底編(1日間)
STUDY HACKER 編集部
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