理不尽は教材である──消耗しない人が身につけている3つの作法

晴れの日になぜか自分だけに雨雲がかかっている理不尽な状況な人

「またこんな理不尽な目に……」と感じる場面が、仕事をしていると一日に何度かあるはずです。

けれど、少し立ち止まってみてください。それは本当に「理不尽」なのでしょうか。それとも、いまの自分にとって “理不尽に見えている” だけ、なのでしょうか。

同じ依頼を受けても、平然とさばく人もいれば、消耗する人もいます。同じ場面に出会っても、何が起きているかを冷静に読み取る人もいれば、感情だけが先に反応してしまう人もいる。同じ状況でも、受け手側の段取りやとらえ方で大きな差が生まれます

もちろん、世の中には本物の理不尽もあります。そしてそれを “いますぐ” 変えることはできません。相手も、状況も、過去のいきさつも、自分の手の届くところにはないからです。

では、消耗を減らすために自分にできることは何か。自分の行動を変えるか、状況に対処する力を身につけるか――自分で扱える部分に目を向け、それを実行するしかありません。理不尽を恨んでも、誰かを責めても、結局は何の得にもならないのです。

それなら、自分が “うまくできるようになったほうがいい” はずです。

本記事では、「理不尽だ」と感じた場面を、消耗の理由ではなく自分が一段うまくなる入口に変えるための、3つの実践策を紹介します。

消耗しない反応1:即応せず、いったん間を置く

理不尽だと感じた瞬間は、誰でも反射的に何かを言いたくなります。反論、弁解、あるいは過剰な謝罪――。けれど、その場で出てくる言葉は、ほぼ例外なく感情が選んだ言葉です。冷静な自分なら絶対に選ばない一手を、感情は平気で打たせます。

だから第一の技術は、逃げることではなく、即応しないこと。判断のタイミングを、感情から自分の手に取り戻すことです。たとえば――

  • 「一度内容を整理させてください」
  • 「いまの話、要点を確認してから返事させてください」

こう返すだけで、自分の判断と発言の間に “間” が入ります。この一拍が、感情で動く自分と、頭で動く自分を切り替える時間になるのです。

2011年の研究では、対象から物理的に距離を置く「身体的距離」が「心理的距離」を生むきっかけになることが示されました。距離をとることで、タスクの難易度や不安からくる主観的な「難しさ」が軽減される可能性が示唆されたのです。*1 これは逃避の効能ではなく、判断の解像度を上げるための準備運動と考えてください。

その場を離れにくいときも同じです。「そうなんですね」「承知しました、確認します」と短く受け、即答を保留する。それだけで、感情に乗ったまま「はい」と引き受けて後で困る、という最悪の手は避けられます。

反射で返した一言が、あとからの自分の動きを縛る――これは、消耗を雪だるま式に増やす最大の入口です。即応しない。判断を取り戻してから動く。たったこれだけのことが、自分の段取りを守る最初の技術になります。

一拍おいて落ち着いた場所でコーヒー片手に頭を整理する人

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消耗しない反応2:背景を聞き返す

理不尽な依頼で消耗してしまうのは、たいていの場合「相手の事情がわからないまま、要求だけが落ちてくる」からです。

裏には、上司なりの上からの圧、クライアントの方針転換、別案件のトラブルなど、何かしらの事情があるはず。けれど、その背景を知らないまま「今日中に?」「全部?」と要求の表面だけを浴びると、こちらは “理不尽” としか感じられず、感情だけが消耗していきます。

そこで効果的なのが、反射的に「はい」も「できません」も言わず、まず “事情を聞き返す” こと。相手の依頼を「対立する要求」ではなく「一緒に解く課題」として捉え直すための一手間です。

背景が見えれば、「全部は無理だけど、本当に急ぐ◇◇だけなら今日中に出せます」「明日朝イチに、別案件と並走させながらなら」といった、お互いに納得できる落としどころが見えてきます。これは、相手の「心理的リアクタンス(反発心)」*2 を避けつつ、交渉術でいう「アンカリング」*3 のように、こちらから判断材料をひとつ提示するイメージにも近いでしょう。

たとえば、こんなふうに聞き返してみるのです。

  • 相手:「こんな時間に急で悪いけど、今日中に完成できる?」
    あなた:「もちろん事情があってのことだと思うので、優先したいポイントを教えていただけますか。全体は厳しくても、◇◇だけなら今日中に出せます」

  • 相手:「金曜の夕方で悪いんだけど、週明け早々にすべて確認できるかな?」
    あなた:「承知しました。月曜の何時までに、どの粒度で必要かを伺ってもよいでしょうか。優先順位がわかれば、休日を挟んでも間に合わせ方を考えられます」

  • 相手:「とりあえず、何でもいいからかたちにしてほしいんだよね」
    あなた:「お任せいただきありがとうございます。手戻りを防ぎたいので、最終的に誰にどう見せるものなのかだけ、先に共有いただけますか」

  • 相手:「ごめん、急なんだけど、これ、いますぐ見てもらえる?」
    あなた:「いま◇◇の途中なのですが、急ぎの背景を教えていただけますか。緊急度によっては、こちらを止めて先に対応します」

ポイントは、「できる/できない」の二択で答えず、判断に必要な情報を相手から引き出すこと。多くの場合、相手も「とりあえず全部」と言いながら、本当に必要な部分は限られています。背景を聞くだけで、依頼の輪郭がぐっとクリアになり、両者にとって現実的な着地点が見つかります。

そして、これは結果的に依頼者からの信頼にもつながります。条件で線を引いて拒否する人より、事情を汲んで一緒に最適解を探してくれる人のほうが、次もまた頼みたくなるはずです。

真面目な人ほど、「依頼は全部こなすもの」と引き受けがちです。しかし、関与レベルは相手が決めるのではなく、対話で設計するもの。「聞き返す」というひと呼吸が、消耗も誤解も大きく減らしてくれます。

相手がぶちまけてくる黒いペンキを青いペンキで上から塗りつぶしていく人

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消耗しない反応3:自分の整理のために書き出す

理不尽は起こります。たしかに、起こる。

これは「我慢しろ」という話ではありません。逆です。理不尽が起こることを前提として受け止めたうえで、次に同じ波が来たときに自分がどう “うまく乗りこなすか” かを考えるための準備として、書き出すのです。

注意したいのは、書き出すのは “相手を責めるための証拠集め” ではないということ。「あの人がひどい」「自分は被害者だ」と紙の上で何度なぞっても、その被害者ポジションが固まるだけで、自分は少しもうまくなりません。むしろ反芻するたびに消耗していきます。

書き出すのは、あくまで自分の認識を整理するため。何が起きて、自分はそれをどう受け取り、どう動いたのか――。それを紙の上で見つめ直すことで、感情と事実が分離し、「次はここを変えられそうだ」という、自分側の打ち手が見えてきます。

キャリアコンサルタントの畠山千春氏も、“事実の記録があれば根拠に基づいた対処が可能となる” という視点で、「指示や依頼、そして業務にまつわることはすべて記録に残しておくこと」をすすめています。*4 ここでも記録の目的は告発ではなく、あくまで次の判断の精度を上げることに置かれています。

そこで、筆者も過去に経験した「理不尽だと感じた出来事」を振り返りながら書いてみました。(日時や内容の一部は脚色してあります)

筆者が書いた問題の記録

実際に書き出してみると、「何が起きたのか」「自分はどう解釈し、どう動いたのか」「そのときどう感じたのか」が、ひとつずつ浮かび上がってきます。すると、事実・対応・思考・感情を切り分けやすくなるのです。

そして大切なのは、そこから「自分にできたこと/次にできること」だけを取り出すこと。たとえばこの場合なら、

  • 他部署とのやりとりは、メールやチャットなど「あとから経緯が辿れる手段」を一本通しておく
  • 判断を仰いだ事実と、その判断者・日時を業務メモに残し、自分の動きの根拠を自分で説明できる状態にしておく

といった具合です。相手を変えることはできなくても、自分の備え方は変えられます。

書き出すことで、理不尽は「誰かを責めるための物語」ではなく、「次にうまくやるための教材」に変わります。それが、同じ波を二度目に受けたとき、あなたの揺れを小さくしてくれるはずです。

▸ もっと読みたい「感情日記」を書いてみたら、常に頭の片隅にあった心配事がどんどん浄化されていった話出来事と感情を書き出すと、客観視できて解決策も見えてくる。エクスプレッシブ・ライティングの実践レポート。

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理不尽な状況を完全になくすことはできませんが、反応の仕方を選ぶことはできます。即応せず間を置いたり、背景を聞き返したり、自分の整理のために書き出したり――。

感情に任せて反応しないようこの3つをうまく活用し、余計な消耗を防ぎましょう。

よくある質問

Q.その場ですぐ返事しないと、相手の印象が悪くなりませんか?

A.「内容を整理させてください」「要点を確認してから返事させてください」と一言添えれば、誠実な印象を損なうことはありません。むしろ感情に乗ったまま即答して後で矛盾が出るほうが、信頼を落とします。即応を保留するのは逃げではなく、判断のタイミングを感情から自分の手に取り戻すための技術です。

Q.無理そうな依頼が来たとき、どう応じればいいですか?

A.「はい」も「できません」も即答せず、まず相手の事情や優先順位を聞き返すのが有効です。「優先したいポイントを教えてください」「いつまでにどの粒度で必要ですか」と問い返すと、依頼の輪郭が見え、お互いに納得できる落としどころを探りやすくなります。拒否ではなく対話に持ち込むことで、結果的に信頼にもつながります。

Q.理不尽な出来事を書き出すのは、相手を責めるためですか?

A.いいえ、あくまで自分の認識を整理するためです。書き出す目的は、事実・対応・思考・感情を切り分け、「次に同じ波が来たときに自分がどううまく動けるか」を考えるための教材にすること。相手を責めるための証拠集めとして書くと、被害者意識が強まるだけで、自分の力は伸びません。「自分にできたこと、次にできること」だけを取り出すのがコツです。

Q.目の前のことが本物の理不尽なのか、自分の力量不足なのか、見分け方はありますか?

A.厳密に見分けるのは難しいですし、見分けることが目的でもありません。重要なのは、本物の理不尽であれ、力量不足からそう見えているだけであれ、消耗を減らすために自分にできるのは「自分の行動を変えるか、能力を上げるか」のどちらかしかない、ということです。「相手のせい」「状況のせい」と判定したくなる気持ちが強いときほど、その判定にエネルギーを使うより、自分の段取り・伝え方・備え方を一つ上げるほうが、結果的に消耗は減ります。

【ライタープロフィール】
澤田みのり

大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。