「上を目指すなら『一段上』の仕事をやる」というお説教めいた定説は、具体的にはどうすれば実現できるのか

悩んでいる女性

成長したい、とは思っている。でも、何をすればいいのかがわからない。本を読む? 何の本を? 仕事を一生懸命やる? 頼まれたタスクは全部やっている。最近では、任された仕事もそつなく、速くこなせるようになってきた。でも、いや、だからこそかもしれないけれど、この先どうやって「成長」すればいいのかが、わからない。

こういうとき、決まって言われるのが「一段上の視点で見ろ」「言われる前に動け」というやつです。またその話か、と思ったかもしれません。ただ、「一段上の視点って、具体的には何をすること?」と聞かれて、すっと答えられる人は、じつは多くありません。概念はわかる。具体がわからない。わからないから、結局いつものタスクに戻る。

この記事が埋めたいのは、その「具体的には何?」の部分です。

定説の話をあえておさらい

「一段上の視点で見ろ」というお説教めいた定説が言っているのは、要するにこういうことです。

立場別「先取り」の視点

担当者なら 自分の担当の、ひとつ前とひとつ後の工程まで見る

リーダーを目指すなら まわりの進み具合と、詰まっているところを見る

マネジメントに近づきたいなら 自分のタスクではなく、チーム全体の成果を見る

企画をやりたいなら 「何をつくるべきか」から考える

ついでに言えば、この定説には研究の裏付けまであります。先回りして動く力は「プロアクティブ行動」という名前で研究されていて、中身は、問題を先に見つけて防ぐ、チャンスをつかむ、自分から変化を起こす、の3つ(Parker氏らの整理による)。*1

仕事を自分でつくり変えることにも「ジョブ・クラフティング」という名前がついていて、約35,000人分のデータをまとめた分析では、仕事をつくり変える人ほど熱意も満足度も高く、成果も出やすいことがわかっています(Rudolph氏らによる)。*2

定説のおさらいは、ここまで。ここからが本題、「で、具体的には何をするか」です。

先取りしようとしている男性

「タスクが終わったあと」の30分でできる3つのこと

大げさな準備は要りません。タスクが終わったあとの30分でできることを、具体的に3つ挙げます。

1. 「次に困るのは誰か」を考える

タスクがひとつ終わったら、「これを受け取った次の人は、何に困るだろう」と考えてみます。

例)「次の人」の考え方

資料をつくったら それを使う営業の人は、何を知りたいか

記事を書いたら 編集者は、どこを確認するか

データをまとめたら それを見て決める人は、何を判断したいか

見ているのは自分のタスクではなく、仕事の流れです。前と後ろが見えると、「次はこれが要りそうだ」が自然と浮かぶようになります。

2. 「これ、毎回やっているな」を探す

「そもそも、この作業は減らせないか」と眺めてみます。ひな型をつくる。自動化する。手順書に残す。工程をひとつ減らす。どれでも構いません。

1時間の作業を30分にするのもいいけれど、「そもそもやらなくて済む方法」が見つかったときのほうが、正直、気持ちいい。これも、仕事を自分でつくり変えるジョブ・クラフティングのひとつです。

マニュアル

3. 「一段上の人は何を見ているか」を観察する

「一段上の視点で見ろ」の、いちばん具体的なやり方がこれです。気の持ちようの話ではなく、見るものを変えるだけ。上司は何を質問しているか。どの数字を見ているか。何を問題だと考えているか。誰に話を聞いているか。観察対象として、上司はかなり面白いのです。眺めながら、「自分ならどうするか」を考えてみる。決める権限はなくても、考えることなら一段上を先取りできます。

ただしリモートの日は、「タスク=仕事」になりやすい

ここまでいかがでしょう。なんとなくできそうな気がしますよね。でも、それが機能しにくい環境があります。それは、リモートワークです。

想像してみてください。

リモートの日の午後3時、頼まれていたタスクが全部終わったとします。次の依頼はまだ来ない。誰かに見られているわけでもない。コーヒーを淹れて、スマホを少し眺めて、Slackの通知だけ気にしながら、なんとなく夕方まで過ごす。ソファで少し横になる日だって、正直、あるかもしれません。

責める気はまったくありません。むしろ、そうなるのが自然なのです。担当のタスクは終わっているのですからね。

でも、オフィスなら、タスクが終わっても「次」が勝手に目に入ってきます。隣の席の忙しさ。上司の電話。会議室の出入り。リモートには、それがありません。

オフィスの場合

自分宛てではない情報も、自然と目に入る。上司が誰と話しているか。同僚が何に困っているか。会議のあとに何が動き出したか。そこから「次はこれが要りそうだ」という予感が生まれる。

リモートの場合

情報は整理されて届く。Slackで依頼が来る。ツールで担当が決まる。必要な会議だけに出る。タスクが終われば、今日の仕事も終わった気になる。あとは通知を待つだけ。

この閉じたループのなかにいると、「今日のタスクがなくなった」が、そのまま「今日の仕事がなくなった」になります。でも本当は、仕事がなくなったのではなく、「自分に割り当てられた仕事」がなくなっただけなのです。

しかも、さきほどの3つの手がかりになるのは、たいてい人づての情報です。誰が困っているか。どこで何が動いているか。ところが、Microsoftの社員61,182人を調べた研究では、会社全体がリモートになると、やりとりする相手が固定され、部署やチームをまたぐつながりが減っていました(Yang氏らによる)。*3コーヒーをのんでぼーっとする女性

放っておくと、「いつもの相手」としか話さなくなり、担当外の情報が入ってくるルートは自然と細っていく。だから、リモートの日ほど意識的に動く価値があります。他部署のチャンネルをのぞく。出られる会議に出てみる。上司に判断の理由を聞いてみる。オフィスなら勝手に入ってきた「担当外の情報」を、自分から取りにいくわけです。

***

頼まれた仕事を全部終わらせて閉じるPCに、後ろめたさはいりません。あの静かな午後3時は、責められるような時間ではなく、じつはいちばん自由な時間です。誰の指示も入っていない、まっさらな30分。

明日、仕事が少し早く終わったら、PCを閉じる前に1分だけ。「いま、自分には割り当てられていないけれど、やったほうがいい仕事はなんだろう?」

誰かから渡されたタスクではなく、自分で見つけたその仕事こそが、次の役割への入り口になるかもしれません。

よくある質問(FAQ)

Q. プロアクティブ行動とはなんですか?
先回りして動くことです。問題を先に見つけて防ぐ、チャンスをつかむ、自分から変化を起こす、といった行動を指します。心理学の研究分野で、頼まれた仕事を正確にこなす力とは別の能力として扱われています。
Q. ジョブ・クラフティングとはなんですか?
与えられた仕事を、自分で少しずつつくり変えていくことです。多くの研究をまとめた分析では、仕事をつくり変える人ほど、仕事への熱意や満足度が高く、成果も出やすいことが示されています。
Q. リモートワークだと成長しにくいのですか?
そうとは限りません。ただ、オフィスなら自然に入ってきたまわりの情報が、リモートでは届きにくくなります。他部署の動きや、自分の仕事の前と後ろを、自分から見にいく工夫が必要になります。

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部

「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。