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気づけば、生成AIに頼らなければ仕事が回らない日々。
たしかに業務は効率化されたものの、ふと「そういえば、自分で考えることが減ったかも……」と不安になったことはないでしょうか。
じつは、AIで思考停止する人と、むしろ考えが深まる人がいます。その違いはたった3つ。AIの回答への「向き合い方」、問いの「立て方」、そして「対話の重ね方」です。
本記事では、思考力を鈍らせないAIとの付き合い方を、専門家の知見とともに解説します。
1. AIの回答を「鵜呑みにするか・確かめるか」
AIの進化は目覚ましく、以前のように回答が大きくブレることは少なくなりました。しかし、だからといって生成AIの回答に依存してしまうのは適切ではありません。
LLM(大規模言語モデル)の信頼性研究で知られるサヒル・ケール氏の研究(2025)によると、最新情報を必要とする質問でAIは頻繁に検索を実行しますが、精度は70%を下回ると報告されています。*1
原因は、AIが投げる検索クエリ(検索語)の質。人間なら「〇〇 2025年 最新」と工夫するところを、AIはうまく検索語を組み立てられないことがあるのです。
つまり、AIが「調べました」と言っても、正しい情報を拾えていない可能性があるということ。
だからこそ、生成AIで思考を深める人は、AIの回答を「結論」ではなく「仮の材料」として扱います。正しさを委ねるのではなく、確かめ直す前提で受け取り、自分の判断を重ねていくのです。
ファクトチェックの練習法
「ファクトチェックって、具体的にどうやるの?」という方におすすめなのが、数字や年号など「正解がはっきりしている情報」で練習する方法です。
生成AI教育の専門家・田中康平氏(文部科学省「生成AIパイロット校」外部講師)は、リコーの教育メディアへの寄稿で、次のような練習法を紹介しています。*2
たとえば、生成AIに「〇〇市の人口を教えて」と聞いてみます。
するとAIは、回答とともに情報源のURLを表示することが多いので、そのURLをクリックして確認します。
📋 AIの回答をチェックする4つの視点
情報源の信頼性:そのWebサイトは本当に信頼できるか?
情報の新しさ:いつ時点のデータか?(5年前の国勢調査かもしれない)
運営主体:公的機関か、民間か?
ドメイン:go.jp(政府)、lg.jp(自治体)、ac.jp(大学)など
田中氏によれば、AIは「最新の人口」を聞いても古い情報を返すことがあるそうです。また、自治体の公式サイトではなく、5年に1度の国勢調査データを参照していたり、別の団体のサイトを引用していたりすることも。*2
こうした「あれ?」に気づく経験を重ねることで、AIの回答を鵜呑みにしない姿勢が自然と身についていきます。
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2. AIへの問いは「そのまま聞くか・仮説を立てるか」
生成AIで思考を深める人には「起点力」があります。前提を疑い、AIに仮説を投げる姿勢です。
『物語思考』(幻冬舎,2023)の著者で実業家の古川健介(けんすう)氏は、ダイヤモンド・オンラインのインタビューで次のように語っています。*3
これからの時代に有利なのは——
- AIの思考プロセスや結論がおもしろくなるような起点力
→最初のプロンプトで「おもしろい起点=仮説」を立てる力 - 起点力は、常日頃から大量の「アイデアの種」をストックし、既存の前提を疑う姿勢から生まれる
もしかして、ただ「聞きたいことを聞くだけ」にAIを使ってはいませんか?
それは、とても「もったいない」こと。予定調和のやり取りだけでは思考が停止してしまいます。
仮説を立てて問うコツ
古川氏は、自身の実践例も明かし、以下のように指摘しています。*3
たとえば、「活版印刷の発明で記憶力の価値がなくなったのと同じように、AIで思考力の価値もなくなるのでは?」という仮説を立てて、AIに投げてみる。
そうすると、AIは活版印刷の変遷、計算機の普及、それによって姿を消した職業など、多角的な関連事例を次々と提示。
人が自力で調べれば何時間もかかる作業を、AIなら数分で検証し、掘り下げられる。
一方、「AIによる社会的影響にはどういうものがありますか?」とストレートに尋ねてしまうと、「人間の仕事が減るかもしれません」といったありきたりな答えしか得られない。
最初に「面白い仮説」を投げているからこそ、思考の過程も結論も面白いものになる――。*3
重要なのは、AIに何を聞くかではなく、どんな「起点」を作るかなのです。
💡 古川氏の言葉
「999個の駄作な起点を作れる人が、たった1つの輝く起点を作れる」
——問いや仮説は間違っていてもいい。むしろ、たくさん投げることが大切。
古川氏はあるゲームデザイナーの話も引き合いに出しています。
そのデザイナーは常時「頭の中に1000個くらいアイデアの“種”」をもっている人。「たとえば雲を見て『雲を集めて雨を降らせるゲームできないかな?』などと思いつけば、すべて頭に入れておくといいます。*3
日常のふとした瞬間に「もしかして……」と仮説を立てる習慣が、起点力を育てるのです。

3. AIを「答えの道具にするか・対話の相手にするか」
元スタンフォード大学フェローでForbes寄稿者のAI科学者、ランス・エリオット博士は、生成AIを「いつでも利用可能なソクラテス式の対話者」として活用することを提唱しています。*4
ソクラテス式問答法とは、古代ギリシャの哲学者ソクラテスが用いた対話の手法。相手に問いを投げかけ、答えを引き出し、その答えにまた問いを重ねることで、思考を深めていくものです(厳密に言えば矛盾を明らかにしていく)。
エリオット博士によれば、生成AIはこの対話相手として優れた特性をもっています。いつでも利用可能でスケジュール調整も不要、しかも、対話を通じてあなたの考えに問いを投げかけてくれるからです。*4
つまり、AIを「答えをもらう道具」ではなく「問いを重ねる相手」として使う。その姿勢の違いが、思考を深められるかどうかの分かれ目になるのです。
ただし、エリオット博士は注意点も指摘しています。
AIは誤った情報を自信満々に出力することがある(いわゆる「ハルシネーション」)ため、AIの回答を鵜呑みにせず、批判的に評価する姿勢が欠かせません。*4
AIと対話を深めるヒント
では、具体的にどうすれば「対話」になるのでしょうか。
ポイントは一問一答で終わらせないことです。
🔄 対話を深める3つの問いかけ
「なぜそう思う?」
→ AIの回答に対して、根拠や背景を掘り下げる
「別の視点はある?」
→ 反対意見や異なるアプローチを引き出す
「私の理解は正しい?」
→ 自分の解釈をAIにぶつけて検証する
こうしたやり取りを重ねることで、AIは単なる情報源から「思考を揺さぶる対話相手」へと変わります。
***
AIで思考が深まる人は、3つの姿勢を持っています。
回答を鵜呑みにせず確かめる。仮説を立てて問う。一問一答で終わらせず対話を重ねる。
どれも特別なスキルではありません。
AIを「答えの道具」ではなく「思考を深める相手」として使う——その意識をもつだけで、あなたの思考力は確実に伸びていきます。
もしも「AIに頼ってばかりで自分の思考は止まりっぱなしだな」と感じているなら、今日から試してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 生成AIを使うと思考力は低下しますか?
A. 使い方次第です。AIの回答をそのまま受け入れると思考停止につながりますが、「仮の材料」として扱い、自分で確かめ直す姿勢があれば、むしろ思考を深めるきっかけになります。
Q2. ファクトチェックは何から始めればいいですか?
A. 数字や年号など「正解がはっきりしている情報」で練習するのがおすすめです。AIに自治体の人口などを聞き、情報源のURLをクリックして、信頼性・新しさ・ドメインを確認する習慣をつけましょう。
Q3. 「起点力」とは何ですか?
A. AIに問いかける際、単に知りたいことを聞くのではなく、仮説や前提を投げかけて思考を広げる力のことです。「もし〇〇だったら?」と置き換えて考えることで、予想外の視点が得られます。
Q4. AIとの「対話」とは具体的にどうすればいいですか?
A. 一問一答で終わらせないことがポイントです。「なぜそう思う?」「別の視点はある?」「私の理解は正しい?」と問いを重ねることで、AIは単なる情報源から思考を揺さぶる対話相手へと変わります。
Q5. AIで思考が深まる人の共通点は何ですか?
A. AIの回答を鵜呑みにせず確かめる、仮説を立てて問う、一問一答で終わらせず対話を重ねる——この3つの姿勢を持っていることです。AIを「答えの道具」ではなく「思考を深める相手」として使っています。
*1: Cornell University|[2511.18931] Look It Up: Analysing Internal Web Search Capabilities of Modern LLMs (プレプリント, 査読前)
*2: 学びの共創室 powered by RICOH|Next GIGA→Beyond GIGA〜教育DXへ Vol.6 生成AI時代に求められる必須スキル「ファクトチェック」
*3: ダイヤモンド・オンライン|「知識や思考力の価値は下がると思います」――カリスマ起業家が語る「AI時代に伸ばすべき力」とは?
*4: Forbes|Aspire To Become A Deep Thinker Via Use Of Generative AI And The Legendary Socratic Method
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。