年収がそれなりにあると、老後のお金の話はどこか他人事になりがちです。「老後2,000万円問題」という言葉は知っていても、自分がいくら必要で、今のペースで足りるのかを計算したことはない。そんな人のほうが、むしろ多いのかもしれません。
「意外と考えていないのが、年収600万〜1,000万円くらいの方々です。こういう方は、そもそもマネーセミナーにも参加されないことが多いんです」と言い切るのは、年間500組以上の個別相談を受けるファイナンシャルプランナーの申田旭人さん。
収入がある人ほど、なぜ危ないのか。その理由と、申田さんが相談の場で実際に使っている「老後の計算式」を聞きました。
構成・取材/STUDY HACKER編集部
【プロフィール】
申田旭人(さるた・あきと)
株式会社BlueFlame所属のファイナンシャルプランナー。陸上自衛隊に6年間勤務後、外資系保険会社を経て現職12年目。IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)として、保険にとどまらず資産運用や住宅ローンを含めた資金プランニング全般の相談を年間500組以上受ける。私生活では2014年に住宅を購入し、2人の娘を育てる父親でもある。
「俺は大丈夫」がいちばん危ない
申田さんのもとには、家計や資産形成の相談者が年間500組以上訪れます。数多くの相談を重ねるなかで見えてきたのは、収入と危機感は比例しないという事実でした。
「年収があるがゆえに『俺は大丈夫だ』となっている方が多いんです。どんどん使ったり、高い買い物をしがちだったり。収入があるからこそ、支出も大きくなっている」
では、どのくらいの収入があれば安心なのでしょうか。申田さんの答えは厳しいものでした。
「1,000万円、1,500万円あっても、今の日本の物価では安心とは言えません。税金で取られていく部分も大きいですから」
世帯年収1,500万円といえば、一般には十分に余裕のある水準に見えます。しかし都市部で暮らし、住宅費や教育費を払いながらとなると、足元の生活すら実はそれほど楽ではない。それでも本人には自覚がない、と申田さんは言います。
「無自覚だと思います。余裕だと思っている方がほとんどです」

老後2,000万円では足りない。プロの計算式
なぜ、それなりの収入があっても安心できないのか。申田さんが相談の場で示している計算を、順を追って見てみましょう。
まず、ゆとりある老後の生活費は月35万円ほどといわれます。一方、現在の夫婦2人世帯が受け取る年金は、モデルケースで月22万円ほど。差し引くと、毎月13万円が足りません。
この不足分を、65歳から平均寿命までの22年間分積み上げると、3,432万円。かつて騒がれた「老後2,000万円」を、はっきり上回る数字です。
「2,000万円という数字は、低いと思いますね。3,000万円は必要です」
物価が上がり続けている今、老後に必要な額も静かに膨らんでいます。数年前の常識で「2,000万円あればなんとかなる」と考えているなら、その前提から見直す必要があるということです。
銀行に貯めるだけなら「月14.7万円」という現実
では、この3,400万円あまりをどう用意するか。仮に30年間、銀行の積み立てだけでつくろうとすると、毎月9万5,000円が必要になります。
しかも、必要なお金は老後資金だけではありません。申田さんが相談で必ず確認するのは、教育・住宅・老後という「三大資金」です。子どもを大学に行かせたいなら教育費はおよそ1,000万円、月々の積み立てにして3万8,000円。住宅ローンの繰り上げ返済に備えるなら、さらに月1万4,000円。
合計すると、月14万7,000円。これを、毎月の住宅ローン返済とは別に積み立てていく計算になります。
「月9万5,000円を、30歳の方が積み立てられるかというと、なかなか難しいですよね」
普通に働き、普通に暮らしながら、月14万7,000円を積み立てる。ほとんどの家庭にとって現実的とはいえません。真面目に計算すればするほど、手の打ちようがないように見えてきます。

ただし、これは「全部を銀行でやった場合」の話
ここで申田さんは、重要な前提をつけ加えます。
「これは、全部を銀行だけでやった場合の話です。運用商品を使えば、月9万5,000円も3万8,000円も必要なくなります」
同じゴールを目指すのでも、銀行預金だけで積み上げるのか、時間と金利を味方につけるのかで、毎月の負担はまったく違ってくる。魔法のような商品は存在しないけれど、時間をかければ複利が効いてくる、と申田さんは言います。
「60代で相談に来られた方は、皆さん『もっと早くやっておけばよかった』とおっしゃいます。しっかり増やすためには、時間をかけないと意味がないんです」
つまり、この計算式を知るのが早ければ早いほど、月々の負担は軽くできるということです。
では、自分は今の時点でどのくらい危ないのか。それを判定するために申田さんが相談の場で最初に見るのは、通帳の残高ではなく「貯蓄率」というひとつの数字です。累計の収入に対して、今の資産が何%あるか。合格ラインは20%。この診断方法は、次回の記事で詳しく紹介します。
※申田さんが登壇するオンラインセミナーを9月29日(火)20時より開催予定です。詳細は追ってご案内します。
【申田旭人さん ほかのインタビュー記事はこちら】
- あなたの「貯蓄率」は何%ですか。年間500組を見るFPの合格ラインは20%(※近日公開)
- NISA、なんとなくやっていませんか。プロが指摘する「目的なき積立」の落とし穴(※近日公開)
STUDY HACKER 編集部
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