
「管理職は大変そうだから、なりたくない」。パーソル総合研究所の調査では、「管理職になりたい」と回答した正社員は約17%と、2018年の集計開始以降で最低を更新しました。判断も相談もトラブルも管理職という一点に集中し、そこにAI活用やハラスメント対応といった「未知の仕事」まで積み上がっているのですから、無理もありません。
しかし、そのしんどさは精神論ではなく、構造と仕組みで小さくできると語るのは、『定時で成果 残業ゼロでも目標を達成するチームづくりの教科書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓した、あまねキャリアの沢渡あまねさん。管理職のしんどさはどこから来るのか、そしてどうすれば小さくできるのかを教えてもらいました。
【プロフィール】
沢渡あまね(さわたり・あまね)
作家/企業顧問(組織開発&ワークスタイル変革)。あまねキャリア株式会社代表取締役/一般社団法人ダム際ワーキング協会代表。プロティアン・キャリア協会アンバサダー。磐田市政策アドバイザー。磐田市"学び×共創"アンバサダー。『越境学習の聖地・浜松』『あいしずHR』『読書ワーケーション』主宰。大手自動車会社、NTTデータなどを経て現職。500以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。主な著書は『ブリリアント・ジャーク 静かにチームを壊す人たち』(三笠書房)、『組織の体質を現場から変える100の方法』(ダイヤモンド社)、『新時代を生き抜く越境思考』『EXジャーニー』『バリューサイクル・マネジメント』『職場の問題地図』(いずれも技術評論社)、『「推される部署」になろう』(インプレス)など。趣味はダムめぐり。#ダム際ワーキング 推進者。
そもそも、なぜ管理職に「なりたい人」がいたのか
管理職が大変な役割であること自体は、いまに始まった話ではありません。それでも、かつては管理職を目指す人が大勢いました。管理職でなければ得られないものが、たしかにあるからです。
それは、大きな仕事を動かせること、そして社会に何かしらのインパクトをもたらせることに尽きると、私は考えています。管理職は、会社のリソース、つまり予算やお金、人、知識といった資産を動かして、より大きな、より良い仕事をし、自分のやりたいことを実現できます。担当者ひとりの手には届かない規模の仕事を、動かすことができるのです。
私はよく、車の運転に例えます。運転席に座ってハンドルを握り、自分で車を走らせる経験や体験は、お金では買えないものです。会社という車をうまく活用して、自分自身のキャリアの資産を増やしていくと考えれば、キャリアの幅も広がっていくでしょう。
もちろん、価値観は人それぞれです。権限を使ってまでやりたいことは別にない、と言われれば、これは魅力になりません。また、部長なのに一円のお金も自分の判断で使えないというように、運転席に座らせてくれない組織があるのもたしかです。ただしそれは、経営が向き合う領域における設計上の課題です。少なくとも、大きな仕事を動かせるという報酬は、昔もいまも変わらずにあります。

報酬は変わらないのに、「しんどさ」だけが膨らんだ
報酬が変わっていないのに敬遠されるようになったのは、天秤の反対側でしんどさのほうが膨らみ、報酬より大きく見えるようになったからです。
しんどさの正体は、一言でいえば一極集中です。まさに「中央道、小仏トンネルを先頭に35キロ渋滞」のような状態が常態化しています。判断も、相談も、トラブルも、新しい取り組みも、すべてが管理職という一点に流れ込んでくるのです。
そこに追い打ちをかけているのが、未知のテーマや未知の仕事の増加です。たとえば「AIを使って新しいことをやりなさい」と言われても、そもそもAIとは何者なのか、見当もつかないという人も多いでしょう。
また、かつて当たり前だった行動が、いまではハラスメントと言われます。メンバーのウェルビーイングを大切にしながら成果を出し、しかも規律は守らなければなりません。年上のメンバーを部下に持つ人も増えました。未知のパラメーターが増えるなかで、今までと同じどころか、今まで以上の答えを出さなければならないのですから、しんどくて当然です。
では、誰が悪いのかというと、組織の問題というものは、みんなが悪くて、みんなが悪くないのです。それぞれの階層で一人ずつ抱え込み、お互いを責めているだけであって、誰のせいでもなく、構造がそうなってしまっています。
そして、構造の問題なら、構造をいじれば小さくできます。裏を返せば、気合と根性でカバーしつづけるから、一極集中がいつまでも終わらないのです。本書で示したのは、仕事の入口で「未知か既知か」をまず分け、既知の仕事は悩まず素早く処理し、未知の仕事には時間のかけ方をあらかじめ決めておく、という設計です。
管理職とて一人の人間で、スーパーマンでも聖人君子でもありません。あれもこれも期待されたらつらいさ、にんげんだもの、という話です。
しんどさが報酬より小さくなれば、管理職は再び「割に合う」役割に戻ります。では、どうすれば小さくできるのでしょうか。考え方がガラッと変わる例をひとつご紹介しましょう。

高速道路にUFOが降りてきたら、どうしますか
高速道路を運転していて、あなたの車の目の前に、謎のUFOが降りてきたとします。さて、あなたならどうするでしょうか。
UFOがどくように一生懸命説得しても、クラクションを鳴らして動かそうとしても、あるいはいつもの渋滞と同じようにハザードランプを焚いてじっと待っても、おそらく太刀打ちできません。
それよりも、「謎の飛行物体が降りてきたので、何とかしてください」と発信してしまったほうが早いのです。意外な解決策や、意外な味方が現れるかもしれません。後ろの車も、「前の車が遅い」と苛立って煽るのをやめて、一緒に悩んでくれるかもしれません。
未知の事象に、普段と同じ行動で向き合おうとするから、解決が遅くなり、しんどくなるのです。UFOはさすがに極端ですが、管理職の日常は、これに近い場面の連続です。経験したことのない問題を前に、いつものやり方のまま、ひとりで悩みつづけてしまうのです。
コツはふたつあります。ひとつは、自分にとって未知でも、誰かにとっては既知かもしれない、と考えることです。同じチームのメンバーから、「実は過去に似た経験があります」という声が上がることもあります。未知のかたまりに見える事象も、分解すれば既知の部分が見つかります。
もうひとつは、一人で悩む時間に上限を決めておくことです。たとえば10分悩んで判断がつかなければ、誰かに相談すると決めておくのです。メンバーやマネージャーを頼ってもいいですし、外注してもかまいません。そのときは「いま、こんなことで困っています」と、困りごとに名前をつけて発信しましょう。
これだけでも、抱え込みはずいぶん軽くなるはずです。後編では、決定を溜めない方法、「にげる」「ぼうぎょ」という選択肢、そして困りごとの発信がチームの財産に変わる仕組みまで、しんどさを小さくする具体的な行動をお話しします。

管理職のしんどさを「構造」で小さくする——本記事で語られた、仕事を「未知」と「既知」に分ける考え方は、沢渡あまねさんが2026年8月9日に特別ゲストとして登壇したStudyHacker Squareのオンラインイベント「ボトムアップで職場を変えていく——『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』出版記念イベント」でも、「残業コントロールの極意」として語られています。
『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』の著者・安斎勇樹さん、水野祐さんとのクロストークを含む90分を、無料でご覧いただけます。
▶ アーカイブ視聴はこちら
視聴期限:2026年10月3日まで
【沢渡あまねさん ほかのインタビュー記事はこちら】
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社 代表取締役/株式会社スタディーハッカー創業者。1977年生まれ、福岡出身。2014年、メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ。以後運営に携わる。
X→@oka_kgs / Instagram→@oka_ken2010
/ 著書(amazon)

