大人の学びは子どもとは違う。大人らしい学びをつくる「アンドラゴジー」という考え方。

大都市を背景に、階段を上っていくビジネスパーソン

「キャリアアップしたい。でも、時間がない。何から手をつけていいのかもわからない」――そんな思いを抱えたまま、忙しい日々に流されていくビジネスパーソンは少なくありません。

たとえば、資格取得のテキストを買ったものの、気づけば本棚の肥やしに。「これ、本当に必要なんだっけ?」という迷いのまま、学びが進まずにいることもあるのではないでしょうか。

大人の学びには、子ども時代のような「教えてもらう」スタイルはもう通用しません。いまの自分に必要なことを、自分で見つけ、自分のペースで進める力が求められます。

そんな、大人らしい学びのヒントになるのが、「アンドラゴジー」という考え方。これは、大人のための学習理論であり、忙しくても、遠回りせずに自分にフィットした学び方を見つけるための道しるべでもあります。

今回はこのアンドラゴジーを活用し、筆者自身が「自己概念」「経験」「方向付け」という3つの観点で実践してみた方法と、その気づきをご紹介します。

「いますぐ学び始めるための第一歩」が見つかるかもしれません。

アンドラゴジーとは何か?

私たちは子どものころ、先生の指導に従い、決められたカリキュラムを受け身で学ぶことに、なんの疑問ももたずに過ごしてきました。

しかし、大人になってからの学びは、それとはまったく異なります。目的も手段も、自分で選び、設計していく必要があるのです。そんな大人の学びにフィットする考え方が、アンドラゴジーです。

アンドラゴジー、成人学習理論と書く手

アンドラゴジー(andragogy)とは、アメリカの教育学者マルカム・ノールズ氏が体系化した成人学習理論のこと。子ども向けの学び(ペダゴジー・pedagogy)とは異なり、経験豊富な大人が、自分の意思で自律的に学ぶことを前提としています。*1

大人の学習には、以下の特徴があるといいます。*2

実利的
・動機を必要とする
・自律的である
・関連性を必要とする
・目的志向性が高い
・豊富な人生経験がある

そうしたことからアンドゴラジーは、以下5つの観点で構成されています。*3

  1. 自己概念:自己概念とは、「自分はどんな人間か」という自己認識のこと。大人は成長とともに、自分で自分を管理しようとする意識が高まるため、受け身ではなく、自ら学びを選び取るスタイルが求められる。

  2. 経験:大人は豊かな人生経験を持ち、それ自体が学びの資源になる。過去の成功や失敗から得た知識やノウハウを活かすことで、ゼロからの学習よりも効果的に理解を深められる。

  3. レディネス:レディネスとは、学ぶための心理的・環境的な準備が整った状態のこと。成人教育では「仕事や役割に関連した学ぶ必然性」に応じて学習課題をとらえることが重要。

  4. 方向付け:方向付けとは、「この学びを何に活かすか」という目的意識を重視する考え方。大人の学びでは、課題解決やキャリア向上などの目的から逆算して、必要な学びを行なうことが重要。

  5. 動機付け:アンドラゴジーでは、報酬や評価ではなく、「知りたい」「成長したい」といった内発的な動機こそが、効果的な学びを生むと考えられている。つまり、大人の学びは、自分の内側から湧く関心や目的意識によって支えられている。

これらに基づき、学びの輪郭をハッキリさせることで、大人は本当に役立つ学びを手に入れられるはず。

また、「忙しくても学びたい」と感じている方にこそ、フィットする考え方ではないでしょうか。

アンドゴラジーの観点をどう活かす?

このように、アンドラゴジーの5つの観点は、大人が主体的に学ぶためのヒントにあふれています。

株式会社アンド・リスペクト代表取締役で人事コンサルタントの岡本光敬氏による言葉が、その理解をさらに深めてくれるかもしれません。以下は、岡本氏が大人の学習の特徴について、言いまとめたものです。*2

つまり、大人は自ら学習する意思を持った時に学習をします。
実利的な内容や日々の課題と関連性が高い内容が動機づけになりやすいということです。

では、このヒントを、私たち大人はどうやって学びに活かしていけばいいのでしょう?

筆者の場合は、まず自分を知り、自分の経験を振り返り、目的を見つけるという3つのステップが、学びの起点として重要だと考えました。

つまり、5つの観点のなかから、以下に絞ってノートに書き出すことにしたのです。

  • 「自己概念」:自分はどんな人間か?
  • 「経験」:どんな経験をしてきたか?
  • 「方向付け」:何のために学ぶ?

「3つの観点」をノートに書き出してみた

いざ書こうと思うと、なかなか書き出せなかったので、「自分で自分にインタビューする感覚」で、頭に浮かんだことをノートにどんどん書いていくことにしました。

1.「自己概念」を書き出してみる

Q:「自分はどんな人間?」(学びの視点で)

この問いに対する筆者の答えがこちらです。書く手が止まらないよう、「何を書くべきか」など深く考えずに書き出してみました。

「自分がどんな人間か?」を書き出したもの。

ここで得たポイントは、筆者は知的好奇心が強く、新しいことを学ぶのが好きだということです。

2.「経験」を書き出してみる

Q:「いままでどんな経験をした?」(仕事の視点で)

この問いに対する筆者の答えがこちらです。こちらも同じく、思いつくまま書き出しました。

筆者の仕事の経験について書き出したもの

失敗体験のほうが頭に浮かびやすかったのですが、過去の業務体験でやりがいを感じたことを書いてみたら、それが大事な気づきになりました。

ここで得たポイントは、筆者が過去にレファレンス業務を経験し、利用者のニーズに応えられたことです。

3.「方向付け」を書き出してみる

Q:「何のために学ぶ?」

この問いに対する筆者の答えがこちらです。

筆者が書いた「方向付け」。何のために学ぶか?

最初は内容がフラフラと固まらない感じでしたが、書くうちに前段の工程が影響し、以下のように方向付けを行なうことができました。

  • 専門性の高い基礎知識を学ぶ(→執筆の幅を広げるため)
  • 取材・インタビュースキルを学ぶ(→活躍の場を広げるため)

前者は自己概念(知的好奇心が強く、新しいことを学ぶのが好き)が影響し、後者は経験(過去のレファレンス業務で、利用者のニーズに応えることができた)が影響した印象です。

「3つの観点」をノートに書き出してみた

アンドラゴジーで学びを具体化してみた今回、これまであまり意識してこなかった自己や経験に気づくことができました。そうして、キャリアアップのために必要な学びが明確になったと感じています。

また、この試みは、就職活動用の履歴書や面接での自己アピールを考えるために、自分自身と向き合うときにも似ていると感じました。

大人になると未経験のことにいきなり飛び込むのは難しいもの……。でも、自分自身と向き合い、「これまでやってきたことを活かしながら、まだまだ成長できる」と気づければ、学びを始めるハードルもグッと低くなるはずです。

***
キャリアアップのために自分を磨きたいけれど、その一歩が踏み出せない。そんなときには、アンドラゴジーという概念があなたの背中を押してくれるかもしれません。

今回筆者は「自己概念」「経験」「方向付け」の観点に的を絞りましたが、「レディネス」や「動機付け」に目を向けてみるのもいいでしょう。

「ちょっとやってみようかな」と、一歩を踏み出したくなりますよ。ぜひ一度お試しください。

【ライタープロフィール】
上川万葉

法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。

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