
「毎年秋が近づくと、ついAppleの発表会に心がざわつく」
「iPhoneの機能が他社に劣る場合でも『やっぱりAppleでしょ』と思ってしまう」
これは世間でいう “Apple信者あるある” です。世のなかの雰囲気を見るかぎり、心当たりがある方は多いはず。
でも、なぜ多くの人がAppleを選び続けてしまうのでしょう?
本コラムでは、その背景にある
- 「一貫性の原理」「認知的不協和」という心理
- Appleが巧みに仕掛ける「ブランディング戦略」
これらを探りながら、自分自身の意思決定に潜む信者心理を見つめ直していきます。
もしかしたら、あなたも気づかぬうちに「選ばされている」のかも……!?
1. 信者的行動の背景:一貫性の欲求
Appleの製品が発表されたら、何がどうあれ買いに行く――こうした行動の背景には、一貫性の欲求が存在しているかもしれません。
アリゾナ州立大学の名誉教授で、心理学とマーケティングに詳しいRobert Cialdini氏は「一貫性」ついてこう述べています。*1
一貫性とは、既存のコミットメントと一致していたい、また、他者からそう見られたいと願う原理のこと。
つまり、人は自分の過去の発言や約束と矛盾したくない、周囲からもブレない人物として認識されたいものなのです。
もちろん、「Appleのすべてが好き」という感情もあるでしょう。
しかし、「他ブランドをまったく検討しない」「製品の不満はすべて擁護する」といった行動の背景には、
- 自分の選択を正当化したい
- 一貫性を保ちたい
こういった心理があることも大いに考えられます。

2. 信者的行動の背景:認知的不協和
もうひとつ考えられるのが、「認知的不協和」という心理です。
世界中の心理学者や臨床家が寄稿する『Psychology Today』では、認知的不協和をこう説明しています。*2
認知的不協和とは、ふたつ以上の考えが互いに矛盾していると感じる不快感のこと。そうすると、人はその否定的な感情を何とか解消しようと、動機づけられることがある。(つまり、いずれかの考えや行動を変化させ、整合性を取り戻そうとする)
すなわち、人はこの不快感に対処するために、無意識のうちに心のなかで “つじつま” を合わせようとするのです。
たとえば、Appleの最新モデルに高額を支払ったあと、「本当にそれだけの価値があったのだろうか?」と不安になる瞬間があるかもしれません。このとき、
「なんだかんだ言っても信頼できるのはAppleだけ。いい買い物だった」
と認知を再構成してしまうのが、まさにそれです。
あるいは、
「まあ高かったけど、長い目で見たらコスパいいし」
「テンション上がるからそれだけで価値あるよね」
と、あとから理由をつけたくなるのも同じ。多少の不安があっても、あとづけの理由で自分の選択に納得しようとするのです。
このように、人は自分の選択に対する不安や迷いを、あとづけの理由で正当化することで、認知のつじつまを自動的に合わせてしまいます。
そうした無意識の調整があるからこそ、私たちは気に入ったブランドに愛着をもち、繰り返し選びたくなるのかもしれません。

そして、Appleに信者的なファンが多い背景には、こうした人間の心理だけでなく、緻密なブランディング戦略も大きく影響しています。
Appleはどのようにして「Appleらしさ」を築き、人々の心を惹きつけているのでしょう?
次項では、その「戦略」の扉を開けてみます。
3. Appleの仕掛け:ブランディング戦略
Apple製品に触れ、統一された美しさ、整った世界観に、魅力を感じてきた方は多いでしょう。これは、Appleが長年にわたって築いてきたブランディング戦略の一環です。
iPhoneのフォルム、macOSの画面設計、パッケージの開封体験、Apple Storeの内装に至るまで、すべてが「Appleらしさ」で貫かれています。
こうしたバランスは、強いブランドの証かもしれません。
Tuckビジネススクール(ダートマス大学)教授のKevin Lane Keller氏は、このような考えを伝えています。*3
ブランドの強さを保つには、以下のバランスを保つことが重要。
・一貫したメッセージで顧客を迷わせない「継続性」
・時代の流れに合った「変化」
Keller氏が指摘するように、強いブランドには「継続性(=一貫性)」と「変化(=革新性)」のバランスが欠かせません。
Appleはまさにこの両方を体現しています。製品デザインや店舗体験を通して「Appleらしさ」を守る一方で、「Think Different」や「Shot on iPhone」などのメッセージで、革新や自己表現といった価値観も打ち出してきました。
さらに、製品どうしの連携を深める「閉じたエコシステム」によって、ユーザーに一貫した使い心地と独自の世界観を提供し続けています。
このようにAppleは、「統一された世界観」と「新しい価値の提示」を両立させることで、単なる商品の提供を超えたブランディングを実現しているのです。
だからこそ、Apple製品を選ぶことは “ただの買い物” ではなくなっていく──
それはいつしか、「自分の選択=Apple」として、アイデンティティの一部にすらなっていくのかもしれません。

4. 「選ぶ」という行為に潜む、人間の心理
Appleというブランドを通して見えてくるのは、製品や広告のうまさだけではありません。
それ以上に、「自分の選択に一貫性を持ちたい」「不安を打ち消したい」という、人間の普遍的な心理が静かに作用していることです。
気に入った製品に愛着をもち、選び続けたくなる気持ちは、誰にでもある自然なこと。Appleはそうした心理を深く理解したうえで、ブランディングを設計しています。
私たちはふだん、「自分が選んでいる」と思っていても、じつはこうした心理の積み重ねのなかで、少しずつ選択がかたちづくられているのかもしれません。
Appleを題材に見ることで、意思決定の裏にある心のメカニズムを、あらためて捉え直すことができるのです。
*1: Arizona State University|The gentle science of persuasion, part four: Consistency
*2: Psychology Today|Cognitive Dissonance
*3: Harvard Business Review|The Brand Report Card
こばやしまほ
大学では法学部で憲法・法政策論を専攻。2級FP技能検定に合格するなど、資格勉強の経験も豊富。損害保険会社での勤務を通じ、正確かつ迅速な対応を数多く求められた経験から、思考法やタイムマネジメントなどの効率的な仕事術に大変関心が高く、日々情報収集に努めている。