「相手は変えられないから、自分が変わる」の誤解。消耗しがちな優しい人に知ってほしい本当の変わり方

机の上に開かれたノートとペンを俯瞰で写した写真「相手は変えられないのだから、自分が変わろう」。そう言い聞かせて、理不尽な上司にも、動かない同僚にも、精いっぱい歩み寄ってきた。

けれど、いつまでたっても状況はよくならないし、「なんで自分ばかり変わらなければいけないのだろう?」と不公平感を覚える。こんな経験はありませんか?

真面目で優しい人ほど、この「自分が変わる」という考え方を素直に実践してしまいます。

しかし、この言葉は「本来の使い方」をしないと、逆に自分を追い詰めることにつながってしまうのです。

この記事では、「相手は変えられないのだから、自分が変わろう」という言葉の本当の使い方と、「本当の変わり方」を解説します。

「自分が変わればいい」で、なぜうまくいかないのか?

「自分が変わろう」という取り組みが空回りする原因として、「自分が変われば、まわりの環境や相手との関係もよくなるはずだ」と期待してしまうことが挙げられます。

じつはこれは、真面目で優しい人ほど陥りやすい落とし穴です。

わかりやすくするために、具体例を見てみましょう。

 
 

ケース無責任なチームメンバー(Aさん)が期日を守らず、トラブルが起きても「聞いていない」「他の仕事で手一杯だった」と言い訳ばかりする。

あなたの対応「責めても仕方ない。チームの仕事を滞らせないために、自分がフォローして先回りしよう」と考え、Aさんの仕事まで率先して引き受けることにしました。

その結果Aさんは「任せておけば代わりにやってくれる」と味を占め、ますます無責任になっていきました。チーム全体の仕事はうまく回っているように見えるため、上司も特にフォローしません。あなたの負担だけが増え、特に評価もされないという状態に陥ってしまいました。

あなた自身は「チームのために、自分ができることをしよう」と行動しています。

しかし、相手からは「勝手にやってくれるから楽だな」と都合よく受け取られ、かえって状況が悪化してしまうことも少なくないのです。

実際、他者に配慮しすぎる人ほど職場で都合よく利用されやすいことが、研究でも指摘されています。

断ることが苦手な人は、自己中心的な同僚から見ると「つけ込みやすい相手」に映ってしまうのです。*1

落とし穴

この言葉の本来の意味

もともとこの言葉は、「変えられない相手ではなく、自分がコントロールできる領域に集中しよう」という文脈で使われてきたものです。

変えられない他人に執着するのではなく、自分の選択に集中する。力点はそこにあります。

つまり、「自分が変わろう」という言葉を「いまの状況がうまく回るように、自分を過剰に適応させること」ととらえるのは間違い。

本来の正しいとらえ方は、「相手が変わらないなら、その事実を受け止めたうえで、自分が幸せでいられる選択をする」ということなのです。

では、具体的になにをすればいいのでしょうか?

次の章では、自分をすり減らすことなく「自分が幸せになるための変化を起こす」具体的なステップをご紹介します。

自分を幸せにするための「変わり方」

「自分が幸せになるための変化を起こす」といっても、具体的にどう行動すればいいのか、わからない人もいるかもしれません。

頭のなかで考えているだけだと、相手への不満と自分の課題が混ざり合って、堂々巡りになりがちです。

そこでおすすめなのが、紙に書き出して切り分けること。「どこまでが相手の問題で、どこからが自分にコントロールできる領域なのか」という境界線が、目に見える形になります

紙に書き出す

やり方はシンプルです。ノートを上から3つのエリアに区切り、次の順に書き込みます。

一番上のブロックには、「出来事」。「何が起きたか」という事実だけを書きます。

真ん中のブロックには、「相手の問題との切り分け」。「なぜこの出来事が起こるのか」「どこまでが相手の問題か」を思うままに書き出します。

一番下のブロックには、「自分を守るためにできること」。自分が実際にコントロールできる行動を書きます。

ここからは、実際に筆者が書き出したものを紹介します。

筆者は「いつも自分ばかり面倒な頼まれごとや急ぎの仕事を振られ、それが当然であるかのように扱われること」にうんざりしていました。

そこで、このフォーマットに沿って書き出してみました。

ノートを横線で3つのエリアに区切り、一番上に出来事を書き出した手書きの実例

3分割したノートに相手の問題との切り分けと自分を守るためにできることを書き込んだ手書きの実例

【出来事】いつも自分ばかり面倒な頼まれごとや急ぎの仕事を振られる

【相手の問題との切り分け】頼みやすい雰囲気の人=都合よく使っていいと思われている。でもその思い込みに合わせる必要はない。

【自分を守るためにできること】上手に断る・ミーティングの議題にして当番制にする・頼まれごとを記録して上司と共有する

特に真ん中の【相手の問題との切り分け】は難しかったのですが、そんなときはAIに相談しながら書き進めました。

自分ひとりで考えるより、相手と自分の境界線がクリアに見えてくるのでおすすめです。

【ポイント】

「相手の問題」なら、自分が変わろうとしない

「これは自分の責任ではない」と割り切るだけで、気持ちがとてもラクになります。

「自分にできること」ではなく、「自分を守るためにできること」と書く

単に「自分にできること」と書いてしまうと、いつものクセで「自分が我慢して場を収める方法」を探してしまいがち。

「自分を守るため」とはっきり意識することで、「自分をすり減らす行動になっていないか?」と立ち止まって確認できるようになります。

実際に行動する

「自分を守るためにできること」としてリストアップした行動を、ひとつずつ実践していきましょう。

これこそが、まさに「自分が幸せになるための変化を起こす」ということです。

ただ、ここで多くの人がつまずくのが、「断る」「条件をつける」といった「相手に境界線を示す」行動です。これまで「自分が変わる」ことで場を収めてきた人にとって、線を引くのは真逆の動きだからです。

タスクの線引き

そして、この言いづらさを放置すると、頼まれたその場で「今回だけなら」と引き受けてしまい、結局「自分が変わる」ことで場を収めるいつものパターンに逆戻りしてしまいます

そこで、あらかじめ「言える形」を用意しておきましょう。相手と良好な関係を保ちつつ自分を守る「伝え方の実践例」をご紹介します。

 
 

「ここまでは対応できますが、ここから先は難しいです」

「今回はこの範囲で対応しますね。それ以上は難しいので、〇〇さんにも協力をお願いできますか?」

「〇〇という理由があり、すべてを引き受けるのは難しいと感じています」

このように、相手を頭ごなしに否定したり感情的に攻撃したりせず、自分の意見や「譲れないライン」を誠実に伝える方法を、心理学では「アサーティブコミュニケーション」と呼びます

すべてを引き受けて自分を犠牲にするのでも、すべてを跳ね返して対立するのでもなく、「自分ができるライン」を明確に示すのです。マーカー

これは「伝え上手に生まれ変わろう」という話ではありません。相手に合わせて自分を作り替えるのをやめ、「いまの自分にできる範囲」をそのまま言葉にする。それだけのことです。

言い方そのものは、練習すれば慣れていきます。実際に、看護師を対象とした研究でも、短時間のアサーティブコミュニケーション研修によって参加者の自己主張スキルの向上が確認されたと報告されています。*2

「私ができるのはここまでです」としっかり言葉で提示することで、相手の過度な介入や甘えを止める抑止力になります。

もしひとりで伝えるのが難しければ、先輩や上司、人事部などに相談し、周囲を巻き込んで対応していきましょう。

相手の身勝手な振る舞いは、あくまで「相手の問題」です。

あなたが無理に自分を変える必要は、ひとつもないのです。

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「他人は変わらないのだから、自分が変わる」という言葉の本当の意味は、「相手が変わらないなら、その事実を受け止めたうえで、自分が幸せでいられる選択をする」ということです。

やっかいな相手とのあいだにはきちんと境界線を引きながら、しなやかに、自分らしく働いていきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 境界線を引くと、相手との関係が悪くなりませんか?
境界線は相手を拒絶するためのものではなく、自分の責任範囲を明確にするためのものです。むしろ、感情的な巻き込まれを減らすことで、冷静で対等な関係を築きやすくなります。
Q. 毎回紙に書き出す必要はありますか?
慣れるまでは、モヤモヤを感じたタイミングで書き出すのがおすすめです。慣れてくると、ノートを開かなくても頭のなかで3列に整理できるようになります。
Q. アサーティブに主張したら、わがままだと思われませんか?
アサーティブな主張は、自分の意見を一方的に押し通すものではなく、相手への配慮を保ったうえで自分の考えを伝える技術です。「ここまではできる」という条件を添えることで、わがままではなく誠実な姿勢として伝わりやすくなります。

【ライタープロフィール】
柴田香織

大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。