「思い込み」がリスキリングを阻む? 過去の失敗体験を乗り越える大人の学習戦略

光のほうを向くビジネスパーソンたち

「英語力を伸ばしたい」

「プログラミングってできたほうがいいよね」

――「でも、自分には向いていない」「自分にできるはずがない」

そんな思い込みから、新たな挑戦を諦めていませんか?

社会が急速に変化するなか、リスキリングの重要性は高まる一方です。

大人の学びを阻む「思い込み」を手放して、新たなスキルを手に入れていきましょう。

「思い込み」あるある1.「プログラミング」と聞いただけで身構える

「理系じゃないからプログラミングは無理だ」「数学は苦手だからIT系には向いていない」――はたして本当にそうでしょうか?

かつて筆者はソフトウェア開発会社に勤めていましたが、文系出身の同期は、理系専攻だった筆者以上に見事なプログラミングスキルを身につけていました。むしろ理系出身の筆者自身は、いまだに「コーディングは苦手だ」と感じています。

その背景を振り返ると、「コードを書いても意図したとおりに動かない……」「いくつもの言語を覚えるのが大変」という失敗や挫折の記憶がよみがえります。

こうした過去の経験が、自分のなかに「やっぱり自分には向いていない」という思い込みを根付かせてしまうのです。

心理学で言う固定マインドセットとは、まさにこのこと。

「自分の能力は変わらない」「苦手なものはずっと苦手だ」という思考のクセが、新しい学びの可能性を狭めてしまいます。*1

サイコロで「DONT ASSUME」と表現した様子

「思い込み」あるある2. 年齢のせいにする

「もう若くないから新しいことは覚えられない」

「昔みたいに集中できない」

このような思い込みも、固定マインドセットによるものかもしれません。

東北大学 加齢医学研究所 教授の瀧靖之氏は、大人になっても努力をすれば「外部からの刺激や作用で、脳の体積や脳回路が変化する」と話します。*2

たしかに、若い頃のほうが脳の成長は大きいでしょう。しかし、大人になったからといって成長しなくなるわけではないのです。

となると、加齢は諦める理由になりません。

さらに、私たちは年齢を重ねたぶんだけ、若い頃にはなかった経験値、文脈理解力、抽象化能力などの大人ならではのアドバンテージをもっています。

学生時代は暗記や演習問題が中心でしたが、社会人の学びは「現場での応用」「実務との連携」が重要。これは、経験豊富な大人のほうがむしろ得意とする領域です。

これまで培ってきたアドバンテージに肉付けする伸びしろがあるのに、年齢を理由に成長を諦めてしまうのは、あまりにももったいないことだと言えます。

デスクで仕事をするビジネスパーソン

「思い込み」を克服する3つの戦略

では、この「思い込み」の壁を、どうすれば乗り越えられるのでしょうか?

ここでは、明日から試せる3つの戦略を紹介します。

1. 思い込みの「白紙化」ワーク

教育事業を展開する株式会社ウィザス 相談役の堀川一晃氏は、「思い込みの自己イメージが人生に影響してい」ないかを振り返り、それを「白紙化」することで、自分の可能性につけてしまった上限を取り除くようすすめています。*3

たとえば、次のように白紙化してみるのはいかがでしょうか。

筆者の「思い込み」を例に交えてみます。

ステップ1

自分の思い込みを書き出す

  • プログラミングが苦手だ
  • センスがないのでデザインなどには向いていない

ステップ2

その思い込みを抱くきっかけとなった経験を書き出す

  • 処理が無限ループしてしまって自分ではどうすることもできず、先輩に迷惑をかけてしまった
  • 学生時代のアルバイトで「絵がうまそう」というイメージをもたれており、商品POPなどを描かなければいけなかった。しかし実際は絵が下手なので、がっかりされてしまった

ステップ3

その経験が、思い込みの正しさを証明するものなのかを問い直す

  • 無限ループしてしまったのは、ただの失敗のひとつなのではないか?
  • 確かに絵は下手だが、仕事で手書きの絵を描くような機会はない。いまはツールを使ってデザインしたり、初心者向けのデザインの勉強本で学んだりもできるはず
  • 絵が下手であることと、デザインのセンスがないことはイコールではない

ステップ4

過去の経験を解析する

  • 当時はシステム全体の仕様の把握不足や、プログラミングの勉強不足という問題を抱えていた。そして、自分に合うプログラミングの勉強方法を見つけられていなかった
    勉強の仕方を工夫すれば、自分で思っているよりはできるかもしれない
  • デザインについて学ぶ前から「向いていない」と決めつけていた

このように「過去の失敗経験=自分には向いていない」と短絡的に結びつけてしまった思い込みを揺さぶるのが、白紙化の重要なステップ。

これらのステップを踏めば思い込みの原因ごとに対策を練ることができます。

何も書かれていないリングノート

2. 小さな成功を積み重ねる「マイクロ学習戦略」

「やればできる!」という自己効力感を培うのに有効なのが、学習タスクを細分化して取り組む戦略です。

たとえばプログラミングの学習なら、

情報収集から始めてみる

  • プログラミングが得意な同僚に勉強法を相談する
  • おすすめの参考書やオンライン教材を教えてもらう

準備段階の行動をとる

  • 教えてもらった参考書や教材を実際に購入する
  • エディタの準備など、学習環境を整える

小さく実践する

  • まずは参考書をパラパラと流し読みして、全体の流れをつかむ
  • 短いサンプルコードを書いて、動かしてみる

もともと苦手意識があったことに取り組むのですから、腰が重いのは当たり前。

いきなり大目標を設定するのではなく、頑張らなくても実行できるくらい小さく細分化した目標を積み重ねて、少しずつでも確実に前進していきましょう。

3. 学習目的を仕事の成果に直結させる「実践連動型学習」

「このスキルがあれば顧客への提案が1段階レベルアップする」

「この知識を使えば業務の自動化ができて、週3時間浮く」

このように、学習目的を自分の仕事やキャリアの成果と結びつけて取り組みます。

仕事ですから「できないからやらない」というわけにはいきませんし、実践できれば自身の成果にもつながるのです。

たとえば、

  • テストデータ作成のスクリプトを作成し、単体テストの作業時間を短縮させる
  • プレゼンに活かせるフレームワークを学び、実際に次のプレゼンで活用してみる
  • 資料作成が得意な先輩のレイアウトを真似して資料を作成してみる

こうして学習と実務をリンクさせると、実務で得た気づきを次の学習にフィードバックできるので、学びを深めながらスキルアップを図れます。

明るい表情のビジネスパーソン

***
「苦手だから自分にはできない」「向いていない」という思い込みが事実ではないことに気づければ、あとは挑戦への一歩を踏み出すだけです。

思い込みを手放して、自分にかけていた可能性の制限を取り払ってしまいましょう。

※引用の太字は編集部が施した

【ライタープロフィール】
澤田みのり

大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。

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