入社して数年が経ち、後輩を指導する立場になったけれど、なかなかうまくいかないと感じているあなた。最近、営業の成績や上司からの評価で同期から差をつけられていると感じているあなた。「自分は不器用だから」「アイツは頭が切れるから」と嘆き、諦めてしまってはいませんか?
「自分なんて、頭の切れないごく平凡な人間だ」と悩んでいる方に、ぜひ実行してもらいたいことがあります。自分を平凡だと感じている方にやってもらいたいのは、「よい質問」をするということ。
実は、「頭が切れる人」は「よい質問」のコツをおさえていて、「よい質問」をすることによって自分や部下の成長を大いに促しているのです。あなたも、今日から簡単に実践できる質問のコツをつかんでみてください。
「頭が切れる」の正体は質問力だった
頭が切れる人とはどのような人を指すと思いますか? 頭の回転が速い人? すぐさま問題を解決できる人? 「頭が切れる」要因としてはいろいろと考えられますが、今回注目するのは「高い質問力」です。
国際医療福祉大学教授であり、臨床心理士や精神科医、受験アドバイザーなど様々な顔も持つ和田秀樹氏によれば、アメリカの一流大学で「頭が切れる」と評価をされ、優秀な成績を収めるのは、質問のうまい学生だそうです。アメリカではレベルの高い大学ほど、学生の「質問力」を一番に鍛え、学生が授業中にした質問が成績に大きく反映されます。
ではなぜ、質問力の高い人は頭が切れると思われるのでしょうか。和田氏の解説をひも解いていきます。
質問力=問題発見能力
和田氏によると、質問力とは「問題発見能力」なのだそう。大学での学びであれビジネスであれ、「自分が直面している状況の問題点とは何か」に気づけるかどうかは、質問力の高低にかかっているのです。
たとえば、「仕事がうまくいかない」という状況において、質問力の高い人は「仕事がうまくいかない理由」をいち早く発見できますが、質問力の低い人は、目下の状況に至った理由にたどり着くことができません。質問力の差は、「頭の切れのよさ」の差につながるのです。
質問力=問題解決能力
そして、頭が切れる人は、質問によって発見した問題点を解決しようとするときでも、よい質問をすることができます。問題解決における「よい質問」とは、仕事のトラブルやミスを冷静に見直し、問題を解決に導く思考を促す質問です。
「よい質問」は、自分自身だけでなく周囲の人にも向けられます。よい質問には、質問された相手が、答えようとする過程で問題の解決につながる新しい気づきを得られるという効果があります。
「××なことで悩んでいたけれど、○○さんに相談したら、問題が解決した。やっぱり○○さんは頭が切れるな」という経験がありませんか? 「問題解決」における「頭が切れる」とはまさしく、よい質問ができること、つまり質問力が高いことを指しているのです。
質問力=取材力
質問力とは同時に「取材力」であるとも和田氏は述べています。取材力とは、質問によって相手の要求や価値観を的確に聞き出すこと。
取材力は特に、商談に臨むセールスパーソンや面接官、部下の育成を手がける人などにとって重要な力だといえるでしょう。頭が切れる人は、人から情報を引き出す力、つまり取材力が高い人だと言い換えることもできるのです。
以上のことから、
- 頭が切れる人は、問題を発見する能力がある。
- 頭が切れる人は、問題を解決に導く力がある。
- 頭が切れる人は、相手の要求や価値観を的確に聞き出せる。
という3つのことがわかり、「頭が切れる」の正体は質問力だと結論づけられるのです。
頭が切れる人の質問術1. 質問を分解して問題の原因を突き止める
では、頭が切れる人は実際にどのような質問術を使っているのでしょうか? 仕事での場面別に見ていきましょう。
先輩セールスパーソンのあなたが、契約がなかなか取れない新人に「どうして契約が取れないのか」と尋ねるなら、質問をスッキリと分解することが大切です。
決して、「どうして契約が取れないんだと思う?」といったような、ざっくりとした質問をしてはいけません。契約が取れないのには、「訪問件数が足りない」「プレゼンテーションがうまくいかなかった」「先方の望みをくみ取りきれなかった」といった、細かい理由が複数あるはずです。本来は細かい理由をひとつひとつ確認していかなくてはならないはずなのに、「どうして契約が取れないんだと思う?」という質問のしかたでは、細かい質問をひとまとめにしてしまっています。
約1,700社の企業研修を手がける株式会社パンネーションズ・コンサルティング・グループ代表で、ビジネス・コミュニケーションの第一人者である安田正氏によると、「どうして契約が取れないんだと思う?」というような質問は「ごちゃ混ぜ型」の質問であり、よくないのだそう。代わりに必要なのが、質問を小分けにすること。次のようなやり方が考えられます。
→「まず、訪問件数は目標をちゃんと達成できてる?」
→「プレゼンテーションはイメージ通りにできた?」
→「先方から尋ねられたことに、きちんと答えられた?」
上記のように質問を分割すると、相手が質問に答えやすくなり、お互いに問題点が見えやすくなるのです。相手が思いつかなかったような質問であれば、新しい視点を与えることにもなります。
頭の切れる人をめざすなら、日頃から質問をスッキリと分割する癖をつけましょう。特に、新人教育や部下とのやり取りなどの場面で、今まで「ごちゃ混ぜ型」の質問をしていたと心当たりのある方は、ぜひ質問を「小分けに分解」してみてください。
頭が切れる人の質問術2. 問題を解決に導くため「学ぶ人の質問」をする
たとえば、職場でのトラブルに対処する方法を話し合うなら、「学ぶ人の質問」を心がけましょう。
アメリカのコンサルティング教育機関「Inquiry Institute」の創設者であり経営者でもあるマリリー・G・アダムス氏は、周囲の人から創造的な行動を引き出すには「学ぶ人の質問」をするのが有効だと言います。アダムス氏の代表作『すべては「前向き質問」でうまくいく』によると、「批判する人の質問」は周囲の人々を消極的にさせる一方、「学ぶ人の質問」は周囲の好奇心をかき立て、クリエイティビティにあふれた行動を促すのだそう。
アダムス氏の「批判する人の質問」とは、以下のような質問です。
- 誰のせいだろう?
- どうすれば自分が正しいと証明できるんだろう?
- 何が悪いのだろう?
- どうしてあの人はできないんだろう?
一方、「学ぶ人の質問」の例は以下のとおり。
- 事実はどういうことだろう?
- どんな選択ができるだろう?
- 相手は何を考え、何を感じ、何を望んでいるのだろう?
- 別の見方ができないだろうか?
部下や後輩がミスをして取引先の機嫌を損ねた、決算書類のミスが見つかった、プロジェクトの進捗が悪い……というき、頭の切れる人は「誰が悪くてこうなったの?」というような「批判する人の質問」をしません。頭の切れる人が「批判する人の質問」をしないのは、質問された側の想像力や積極性を委縮させ、ミスを恐れる指示待ち人間を創り出してしまう可能性があるからです。
誰かがミスをした場面で頭が切れる人がしているのは、ミスをカバーし円滑に仕事を進めるのに有効な「学ぶ人の質問」です。もし後輩が取引先の機嫌を損ねたのならば、
「何があったの?(事実)」
「謝罪だけではなくよりよいプランを持っていくのはどう?(選択)」
「君はどうしたい?(相手の望み)」
「もしかしたら君の発言の内容ではなくて、発言したタイミングがよくなかった可能性もあるかな?(別の可能性)」
などといった質問をしてみてください。相手を責めるよりむしろ、相手を適切な行動へと導くのが、頭の切れる人が自然としている行動なのです。
頭が切れる人の質問術3. 相手の要求や価値観=「3つのV」を聞き出す
商談に臨む場合なら、相手の「3つのV」を重視した質問をしましょう。「3つのV」とは、「ビジョン(Vision)」「バリュー(Value)」「ボキャブラリー(Vocabulary)」のこと。コーチング事業を手がける株式会社コーチ・エィの取締役専務執行役員でエグゼクティブコーチの粟津恭一郎氏によると、よい質問をするには、3つのVを大切にするべきなのだそう。
「ビジョン」とは、質問相手が目指している状態、本当に手に入れたいもの、心からやってみたいと思っていることを指します。「バリュー」は、質問相手が物事を判断するときに大切にしている価値観。そして「ボキャブラリー」は、質問相手が普段のやりとりでよく使う言葉のことです。
粟津氏は、「ビジョン」「バリュー」「ボキャブラリー」の3つのVに5W1H「いつ:When、どこで:Where、だれが:Who、なにを:What、なぜ:Why、どのように:How」の疑問詞をかけ合わせると、相手によい気付きを与えられる質問を作ることができると述べています。
担当する取引先の社長と会話をする場面を想定してみましょう。あなたは取引先と何か新しい契約を結ぶため、情報収集をしているとします。相手に質問をすることで情報を集めるなら、相手の持っている3つのVを聞き出したうえで、5W1Hを使いながら話を深堀していくのが効果的です。
取引先の社長「2年後には3兆円以上にしたいと思っているんだよね」
あなた「(なるほど、それが社長のビジョン=Visionだな。これにWhatを組み合わせて……)社長は、売上3兆円達成のためには『何を』することが最も大切だと考えていらっしゃるのでしょう?」
相手のビジョンと求められるアクションを聞き出し、新たな契約の機会を見出せます。3つのVをあらかじめ知っていたなら、会話の前に3つのVを重視した質問を準備しておきましょう。
3つのVを重視するメリットは、情報収集がうまくなることだけではありません。相手の懐深くに入ろうとすることで、相手から「自分のことを(我が社のことを)大切に考えてくれているのだな」という信頼を得ることもできるのです。
相手をより深く知ることが、有益な情報収集につながります。ぜひ実践してみてください。
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質問力というのはセンスではなく、意識の持ち方であり技術です。学び、問い、実践することを繰り返す人こそ「頭が切れる人」。本記事で紹介した質問術を参考にして、相手とのコミュニケーションをより豊かなものにし、仕事力アップにつなげてみませんか?
(※記事中の人物の肩書は記事公開当時のものです)
(参考)
和田秀樹 (2007),『頭のいい人の「質問力」と「返事力」』, 新講社.
安田正 (2017),『超一流 できる人の質問力 人を動かす20の極秘テクニック』, マガジンハウス.
マリリー・G・アダムス著, 中西真雄美訳 (2010),『すべては「前向き質問」でうまくいく』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
東洋経済オンライン|仕事を覚えるには「質問力」を磨くのが有効だ
粟津恭一郎 (2016),『「良い質問」をする技術』, ダイヤモンド社.
PRESIDENT WOMAN|リーダーは要注意! 「間違った問いかけ」で部下を追い詰めてはいませんか?
【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。