「ヒヤリ・ハット」は仕事中の「うわ、いま危なかった……!」というようなヒヤリ、ハッとした心情を表す言葉ですが、その事例を集めて分析するとミスを減らす効果が生まれるそうです。一方で「真っ黒なノート」には、集中力や記憶力アップが期待できるのだとか。
そこで今回は、うっかりミスの多い筆者が真っ黒なノートを使い「ヒヤリ・ハット」ノートをつけてみました。
「ヒヤリ・ハット」とは
「ヒヤリ・ハット」とは、主に医療・介護・航空・鉄道・運送・製造現場などにおける、「危うく事故が起こりそうであったものの、幸いにも回避できた出来事」を指します。いわゆる事故につながってもおかしくなかった出来事のことです。
ヒヤリ・ハットが広まったのは、損害保険会社の安全技師をしていたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ氏によるレポートが発端なのだとか。同氏は1929年に(以下内容を含む)「The Foundations of a Major Injury」というレポートを発表しています。
SHOW THAT IN A UNIT GROUP OF 330 SIMILAR ACCIDENTS, 300 WILL PRODUCE NO INJURY WHATEVER, 29 WILL RESULT ONLY IN MINOR INJURIES AND 1 WILL RESULT SERIOUSLY.
THE MAJOR INJURY MAY RESULT FROM THE VERY FIRST ACCIDENT OR FROM ANY OTHER ACCIDENT IN THE GROUP.
(引用元:三上喜貴(2011),「安全安心社会研究の古典を読む(No.1)ハインリッヒの「産業災害防止論」」,長岡技術科学大学安全安心社会研究センター,安全安心社会研究,No.1,pp.87-100.)
――つまり、「大きな事故・災害の背後には、数多くの危険有害要因がある」ということ。先に挙げた業界に限らず、あらゆる仕事をするビジネスパーソンも「ヒヤリ・ハット」事例を集めて分析し、経験則として有効に活かすことができれば、軽微なミスから大きなミスまで防げる確率がグンと上がるはずです。
なぜ「真っ黒」なノート?
では、なぜ今回その「ヒヤリ・ハット」ノートに、白いペンで書く真っ黒なノートを使うのか。その理由は黒の特性にあります。
神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部准教授・仁科恭徳氏の論文(※1)によると、「白」は進出色で「黒」は後退色。これらは私たちの距離感覚に影響し、大きさや印象を錯覚させるそうです。
また、千葉大学工学部(資料公開当時)の川瀬太郎氏は、1972年の『照明学会雑誌』(※2)で、黒などの濃い色をベースに、白文字などの明るい色をのせた「白抜き文字」は読みやすく、人の注意を引いて確実に認識させると述べています。
白抜き文字と、一般的な白地に濃い色文字では、地と文字の物理的な輝度落差は同じでも、視覚的な明るさ感の落差は白抜き文字のほうが大きくなるので、文字が明るく鋭く感じられるとのこと。そのため、白抜き文字を見ると無意識に目の感度が高まり、文字をしっかりと認識できるそうです。
さらに、真っ黒なノート「TONE REVERSAL NOTEBOOK」を開発した株式会社19の安藤将大氏と浅野絵菜氏によれば、個人塾で真っ黒なノートを実際に使用してもらったところ、生徒たちの学習意欲が向上したそうです。浅野氏いわく「黒いノート(に白文字)はコントラストがはっきりしているので飽きにくい」とのこと。したがって――
真っ黒なノートに白ペンで書くと、白文字が黒地から飛び出ているような錯覚をもたらし、くっきりと浮き上がった明るく鋭い白文字が目の感度を上げて集中力を高め、強く印象に残し、しかも、飽きないので続けやすい。
――ということ。これが今回、「ヒヤリ・ハット」ノートに真っ黒なノートを使う理由です。
(参考※1:仁科恭徳(2019),「日本人大学生の色彩嗜好、色彩イメージ、および 英語色彩表現の理解度に関する調査」, 教育開発ジャーナル, 第10号, pp.21-36.
(参考※2:川瀬太郎(1972),「白抜き文字の与える印象について」, 照明学会雑誌, 第56巻, 12号, pp. 682-683.)
真っ黒なノートで「ヒヤリ・ハット」を記録してみる
田園調布学園大学人間福祉学部社会福祉学科介護福祉専攻教授の浦尾和江氏によると、 「ヒヤリ・ハット」は5W1H=When(いつ)・Where(どこで)・Who(だれが)・What(何を)・Why(なぜ)・How(どのように)で文章を構成することが基本で、私情は入れず、客観的な事実のみ、簡潔に書くことがポイントなのだそうです。
浦尾氏監修の内容を参考にすると項目は次の4つ。
では、さっそくやってみましょう。真っ黒なノートは前出の「TONE REVERSAL NOTEBOOK(株式会社19)」使用です。
真っ黒なノートで「ヒヤリ・ハット」を記録したら……
前出の川瀬氏は、黒字に白抜き文字は目の感度を高めるので、「目そのものにも緊張を強いる」と述べています。実際にやってみると目の緊張のせいなのか、気持ちのうえでも緊張感が高まりました。
リラックスしながら書きたい日記ではなく、今後のミス防止のために書いているノートなので、この緊張感は大いに役立つでしょう。
そして、やはり文字が浮いているようなので書くのが楽しい。このワクワク感は継続力に一役買いそうです。
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真っ黒なノートを「ヒヤリ・ハット」ノートにしてみたら楽しく緊張しました。ぜひお試しあれ!
(参考)
三上喜貴(2011),「安全安心社会研究の古典を読む(No.1)ハインリッヒの「産業災害防止論」」, 安全安心社会研究, 第1号, pp.87-100.
川瀬太郎(1972),「白抜き文字の与える印象について」, 照明学会雑誌, 第56巻, 12号, pp. 682-683.
職場のあんぜんサイト(厚生労働省)|安心衛星キーワード|ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)
国土交通省|自動車総合安全情報 ~自動車の安全な交通を目指して~|ヒヤリハット調査の方法と 活用マニュアル
仁科恭徳(2019),「日本人大学生の色彩嗜好、色彩イメージ、および 英語色彩表現の理解度に関する調査」, 教育開発ジャーナル, 第10号, pp.21-36.
パラサポWEB|記憶力が高まる!? 「真っ黒なノート」の秘密とは?
高齢者介護をサポートするレクリエーション情報誌『レクリエ』|ヒヤリ・ハット報告書の書き方のポイント
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