
「部下をほめているのに、なぜか反応が薄い」
「いいね、すごいねと声をかけても、響いている手応えがない」
「自分が言われたら燃える言葉なのに、この子にはまったく刺さらない」
対話型ワークショップを通じて組織開発を支援している私たち KURUMAZA のもとには、こうした「ほめているのに伝わらない」という声も、たびたび届きます。
ほめることが大事だというのは、もう誰もが知っています。問題は、その「ほめる」が相手に届いていないことのほうです。よかれと思ってかけた言葉が、なぜか部下のやる気に火がつかない —— そこにも、これまでの連載で見てきた「ズレ」がひそんでいます。
前回までの記事では、上司と部下のあいだに生じる「ズレ」、それを話題にできる「聞ける環境」、1on1の「時間」の設計、そして「理解の像」のすり合わせについてお伝えしてきました。今回はその先の話。なぜほめても響かないのか、どうほめれば部下が動き出すのか。タイワマンと一緒に、見ていきましょう。
取材・文/STUDY HACKER編集部
【プロフィール】
KURUMAZA(くるまざ)
KURUMAZAは、車座になって対話する機会を提供し、関係性に変化を起こし課題を解決しながら組織力強化を図る会社です。人間関係によって生じているチーム内の問題を完全オーダーメイド型のワークショップによって解決します。
- 「ほめているのに響かない」のは、ほめ方がズレているから
- 承認には、種類がある
- いちばん効くのは「盲点の窓」への承認
- 「部下に媚びる」のとは、まったく違う
- 「観察する力」を、部下の強みに向ける
- よくある質問(FAQ)
「ほめているのに響かない」のは、ほめ方がズレているから
ほめることには、たしかに効果があります。ただし、そのほめ方には種類があり、効くものと、効かないものがあります。
多くの上司が無意識にやっているのは、「いいね」「すごいね」「素晴らしい」「最高だ」といった賞賛の言葉です。これ自体は悪いものではありません。でも、ここに落とし穴があります。
賞賛は、連呼するほど効果が薄れていくからです。
「いつも最高としか言わないな、うちの上司は」——そう感じられた瞬間、その言葉はもう、部下の心を動かさなくなります。これが、ほめ方の最初のズレです。
ほめても響かないのは、あなたの気持ちが足りないからではありません。
「賞賛」を繰り返すほど、その言葉が軽くなっていくからです。
では、効くほめ方とは何か。それが、相手の事実をそのまま言葉にして返す承認です。「すごい」という評価を乗せるのではなく、相手が実際にやっていること、相手のなかに確かにあるものを、そのまま言葉にして渡す。
賞賛が「上から点数をつける」だとすれば、承認は「ちゃんと見ているよ、と伝える」ことです。
「すごいねを繰り返してばかりいると、やがて効かなくなる。コツは、見えたことや行動をほめる。それだけで、ほめ言葉は急に本物になるんだよ」
承認には、種類がある
ひとくちに承認といっても、いくつかの段階があります。代表的なものを挙げてみます。
存在の承認 | 「おはよう」と挨拶する。それだけで、「あなたがそこにいることを、私は認めています」というメッセージが届きます。何かを成し遂げたから認めるのではなく、ただそこにいてくれること自体を認める——承認のもっとも土台にあるものです。
行動の承認 | 相手がやっている行動を、そのまま言葉にする。「電話してくれたんですね」「資料、準備してくれてたんだ」。評価でも指示でもなく、ただ見えた行動を口にするだけ。これがいちばん手軽で、しかも相手に届きやすい承認です。
成果の承認 | 目に見える成果や結果を認める。何かを達成したときに、具体的な達成度合いで言葉にするほど、相手は「ほめられた」「ちゃんと見てくれている」と感じます。達成という事実を、具体的に認めて言葉にします。
成長の承認 | 以前と比べての変化や伸びに目を向けて伝える。成果そのものではなく、その人がたどってきた道のりを認めるものです。「前より段取りがうまくなったね」「説明の仕方が、前よりずっとわかりやすくなったね」。変化に気づいていることを、本人に伝えます。
ここで意外と多いのが、「あとちょっと」のズレです。たとえば「おはよう」。部下に対して、名前をひとこと添えて「◯◯さん、おはよう」と言うだけで、承認の質はぐっと上がります。でも、そのひとことを足していない。これは、すぐできて効果も大きいのに、もったいないズレです。
「おはように名前を足すだけ。たったそれだけで、挨拶が承認に変わるんだ。すぐできるのに、やってない人が多いんだよね」

いちばん効くのは「盲点の窓」への承認
承認のなかでも、とりわけ強く相手に届くものがあります。それが、本人がまだ気づいていない強みを言葉にして渡す承認です。
ここで「ジョハリの窓」という考え方が役に立ちます。
JOHARI WINDOW
ジョハリの窓
| 自分は気づいている | 自分は気づいていない | |
| 他人は 知って いる |
開放の窓 自分も他人も知っている |
盲点の窓 ★ここをほめる 他人は知っているが、本人は気づいていない |
| 他人は 知ら ない |
秘密の窓 自分しか知らない |
未知の窓 自分も他人も知らない |
本人が自覚している強み(開放の窓)をほめても、発見は生まれにくい。まだ気づいていない盲点の窓に光を当てたとき、はじめて「そうだったのか」という気づきが起こる。
ここで重要なポイントは、他人は知っているのに、本人だけが気づいていない「盲点の窓」です。
この盲点の窓こそ、ほめるときの最大のポイントです。周りや上司は気づいているのに、本人はまだ自覚していない強み。そこに光を当てて言葉にすると、本人のなかに「気づき」が生まれます。
具体例で考えてみます。たとえば、ある人が「話すのが上手ですね」と言われたとします。でも本人はずっとプレゼンの練習を重ねてきたので、「まあ、練習してますから」と受け止めるだけで、あまりほめられた感じがしない。
ところが、こう言われたらどうでしょう。「あなたのプレゼンは、いつも私を励ましてくれるんですよ」。すると本人のなかで、「私は、人を励ますことができていたんだ」という発見が起きる。自分では気づいていなかった一面を、他者の言葉によって初めて知る。これが、盲点の窓への承認です。
本人がすでに知っていることをほめても、「まあ、そうですね」で終わる。
本人がまだ気づいていない強みを渡したとき、はじめて「ほめられた」という発見が生まれる。
そもそも、なぜほめるのか。気持ちよくさせるためではありません。本人に気づきを与え、その良い行動を、本人がこの先も繰り返してくれるようにするためです。
行動経済学の言葉を借りれば、正の刺激を与えて、望ましい行動を強化している。逆に言えば、気づきも次の行動も生まないほめは、ただ「いいね」と言っているだけ。そこには、相手を育てる力はありません。
「本人がまだ気づいてない宝物を掘り起こして、『ちゃんと見えてるよ』って渡す——それが、君にしかできない仕事なんだよ」

「部下に媚びる」のとは、まったく違う
ここまで読んで、こう感じた方がいるかもしれません。「結局、部下にペコペコ気を使えという話か」と。
それは違います。承認は、媚びることではありません。
この連載で一貫してお伝えしてきたのは、「あなたがこれまで培ってきた力を、向ける先を変えるだけでいい」ということでした。承認も同じです。あなたはマネージャーとして、これまで数えきれない人や案件を見てきた。その観察力を、部下のまだ見えていない強みのほうへ向け直す。
とりわけ「行動の承認」は、媚びの要素がほとんどありません。やっていることを、そのまま言葉にするだけだからです。お世辞も、へりくだりもありません。見えた事実を口にしているからです。
「承認は、ペコペコすることじゃないんだよ。見えたことを、そのまま言葉にするだけ。君の観察力を、目立つ成果じゃなくて、部下のまだ気づいてない強みに向けてみて—— それだけでいいんだよね」

「観察する力」を、部下の強みに向ける
今回お伝えした承認は、新しいスキルを覚える話ではありません。あなたがこれまで培ってきた「人や状況をよく見る力」を、部下のまだ見えていない強みのほうへ活かすだけです。
賞賛を連呼するのをやめて、見えた行動を言葉にする。本人が気づいていない盲点の窓に光を当てる。性格を変える話でも、特別なトレーニングが必要な話でもありません。どこを見て、何を言葉にするか、それがポイントです。
「ほめるのが下手なんじゃないんだよ。見るところが、ちょっとだけズレてただけ。本人がまだ気づいてない一面に光を当てたとき、部下は自分から動きはじめるよ」
連載もこれで5回目になりました。ここまで読み進めてきたあなたは、対話を「性格の問題」ではなく「設計の問題」として捉える視点を、もう手にしているはずです。ほめることもまた、生まれ持ったセンスではなく、向ける先を選ぶ技術なのだということ。
これは、いまの時代のマネージャーにとって、決して小さな獲得ではありません。
タイワマンと一緒に、不器用でも誠実に。あなたの職場の承認が、部下のまだ見ぬ強みを、そっと照らし出していきますように。

よくある質問(FAQ)
Q1. 盲点の強みを伝えても、「お世辞でしょう」と流されてしまいます。どうすればいいですか?
そういうときは、具体的な証拠をセットで渡すのが有効です。「素晴らしいね」と抽象的に言うのではなく、「あの仕事で、一週間前から段取りを組んで、関係者に先回りで根回ししてくれたよね。あの動きに助けられたよ」というように、いつ・何を・どう良かったのかを具体的に伝える。
さらに「私はあなたから、こういう影響をもらっている」と自分の実感を添えると、お世辞では言えない言葉として相手に届きます。
Q2. 名前を呼ぶのが照れくさくて、つい「おはよう」だけで済ませてしまいます。
最初は誰でも照れくさいものです。ただ、名前を添えるかどうかで、承認の質ははっきり変わります。「おはよう」は挨拶ですが、「◯◯さん、おはよう」は「あなたを見ているよ」というメッセージになる。少しづつ、名前を添えることから始めてみてください。数日で、自然と口から出るようになります。
Q3. 「すごいね」「いいね」という賞賛は、もう使わないほうがいいのでしょうか?
いいえ、賞賛そのものが悪いわけではありません。問題は、賞賛ばかりを連呼することです。具体的な行動の承認や、盲点の窓への承認と組み合わせて使えば、賞賛もちゃんと効きます。「すごいね」のあとに「特に、あの段取りがよかった」と具体を足す —— それだけで、同じ「すごいね」が生きてきます。
Q4. リモートワークやハイブリッド勤務で、部下の行動を観察できません。どう承認すればいいですか?
たしかに、行動が見えにくい環境では承認の難度が上がります。ただ、見えないなりに拾えるものはあります。チャットの丁寧な返信、会議での的確なひとこと、資料に込められた工夫—— 画面越しにも、その人の仕事は表れています。
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社 代表取締役。
1977年生まれ、福岡県出身。2010年に株式会社恵学社(現・株式会社イングリッシュカンパニー)を創業。2014年に学習メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ、編集長を通算10年以上務める。
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