14歳と地域の大人をつなぐ7日間で、子どもは何を更新するのか——「Blue Family Project」が照らす“共育”の可能性

子どもの進路選択や将来への向き合い方に、いま多くの保護者や教育関係者が悩んでいます。情報はあふれているのに、なぜ子どもたちは「決められない」のでしょうか——。

この問いに、現場で何人もの14歳と向き合いながら答えを探してきたひとりの実践者がいます。「誰に出会うかで、人生は変わる」という信念のもと、12〜15歳の中学生を対象にした教育プロジェクト「Blue Family Project」を全国の地域で展開する、株式会社Grass Family.取締役の出口真帆さんです。出口さんは全国の地域と連携し、非日常の環境のなかで多様な大人と出会い、自分の人生と真正面から向き合う7日間を子どもたちに提供してきました。

今回は、その出口氏に、現場で得た仮説——「人を変えるのは情報ではなく、出会いである」——を、ひとりの14歳のストーリーとともに寄稿いただきました。

文/出口真帆 構成・編集/STUDY HACKER編集部

【プロフィール】
出口 真帆(でぐち・まほ)
株式会社Grass Family. 取締役/Blue Family Project共同主宰
1992年神奈川県出身。東京女子大学卒業。「誰に出会うかで、人生は変わる」という信念のもと、12〜15歳の中学生を対象にした教育プロジェクト「Blue Family Project」を展開。全国の地域と連携し、非日常の環境のなかで多様な大人と出会い、自分の人生と真正面から向き合う7日間を提供している。これまでの実践を通じて、子ども・大人・地域が相互に変化し合う「共育」という関係性に可能性を見出し、その普及に取り組んでいる。また、自治体と連携した地域ブランディングやプロモーションにも携わり、熊本県和水町の映像施策では国際観光映像祭優秀賞およびふるさとCM大賞最優秀賞を受賞するなど、地域の価値を可視化する取り組みも行っている。

「もう地元では、やり直せないと思っていました」

そう話したのは、中学3年生のりょうまだった。バスケットボールでの怪我をきっかけに学校に行けなくなり、そのまま不登校になった彼にとって、「学校に行っていない自分」というレッテルは、時間が経つほどに重くなっていったという。本当は、もう一度やり直したい。でも、もう無理だ——。

そんな彼が、北海道・芦別(あしべつ)での7日間を経て、自分の進路を、自分の言葉で選び取った。

たった7日間が、ひとりの14歳の人生を動かした。私はこの2年間、全国の中学生と地域の大人たちをつなぐ7日間のプログラム「Blue Family Project」を通じて、何人もの14歳と向き合ってきた。そのなかで気づいたことがある。子どもの意思決定を変えるのは、情報の量ではなかった。

「情報」はあるのに、なぜ子どもは進路を決められないのか

いまの時代、進路に関する情報は、誰もが簡単に手にすることができる。インターネットを開けば、どの学校に進めばいいのか、どんな選択肢があるのか、いくらでも知ることができる。「学校に行けない自分でも、やり直す方法」といった情報もまた、検索すればすぐに見つかる。

それでも、「もう無理だ」と思ってしまう。

私がこれまで出会ってきた14歳の多くも、「やりたいことがわからない」「このままでいいのか不安だ」と話す。進路を「選びたい」ではなく、「間違えたくない」という消去法でとらえているケースも少なくない。

情報はある。けれど、決められない。

では、人はなにによって、自分の進む道を選べるようになるのだろうか。

人を変えるのは「情報」ではなく「出会い」である

現場で見てきたなかで、私にはひとつの仮説がある。人は「情報」ではなく、「出会い」によって変わるのではないか、ということだ。

ここでいう出会いとは、単に人と会うことではない。これまで知らなかった価値観、自分とは異なる生き方、そしてときには自分自身の本音や弱さと向き合うこと——その全部を含んでいる。

りょうまもまた、これまでと同じ環境のなかでは、「不登校になった自分」という見方から抜け出せずにいた。どれだけ情報を集めても、自分自身の見え方そのものが変わらない限り、行動を変えることは難しかったのだと思う。

しかし、日常とは違う環境で、多様な大人たちと対話を重ねるうちに、彼のなかで「自分はどういう人間なのか」というとらえ方が、少しずつ変化していった。この変化こそが、自分で進路を選び取る力につながっていったのではないかと、私は感じている。

たった7日間で変化が起きる、3つの構造

ヤギの世話を教わる中学生

では、なぜこのような変化が、わずか7日間で起きるのだろうか。現場で繰り返し観察してきたなかで、共通する3つの要素があると感じている。

1. 日常から切り離された「非日常の環境」

家族や学校では行ったことのない北海道・芦別市での生活は、これまでの人間関係や評価から、いったん離れる機会になる。

「不登校だった自分」という見方が通用しない環境のなかで、自分をフラットに見直す余白が生まれる。これは、自宅や学校では起きにくい。なぜなら、そこには「これまでの自分」を覚えている人がいて、無意識のうちに「これまでの自分」として振る舞ってしまうからだ。

2. 多様な大人たちとの「対等な関係性」

芦別で出会うのは、教師でも親でもない大人たちだ。地場の企業の社長、農家、職人——人生でまだ出会ったことのない生き方をしている大人たちが、ひとりの人間として中学生と向き合い、本音で対話する。

このとき、子どもたちのなかで起きる変化は静かだが、たしかだ。「どう見られるか」ではなく、「どう在りたいか」を考える時間が、少しずつ増えていく。これまで触れたことのない価値観に出会うことで、自分の思いを問い直すことができるのだ。

3. 「対話と内省」の反復

体験して終わり、ではない。その日の夜に振り返り、感じたことや考えたことを言葉にする。このプロセスを繰り返すことで、「自分はどういう人間なのか」という認識が、少しずつ更新されていく。

自分の見え方が更新されると、これまで選べなかった選択肢や可能性が、現実的なものとして見え始める。意思決定が変わるのは、情報が増えたからではない。自分の見え方が更新され、「本当の自分」を自分で認識できるようになったからだ。

「共育」——大人もまた、子どもとの関わりのなかで更新される

こうした変化は、子どもだけに起きているわけではない。

りょうまが変わっていく過程で、関わる大人たちもまた、変わっていった。日々の対話を通じて、「教える存在」から「共に教え、教えられる関係」へと立場が変わっていく。参加者が7日間を通して自分を見つめ直す姿に触れることで、大人自身もまた、自分の在り方を問い直していく。

そこには、中学生が持つピュアな視点や、まっすぐな問いの力が、大きく影響している。

地域の人々にとっても、中学生との関わりは一方的な「受け入れ」ではなく、自分たちの暮らしや仕事の意味を問い直す機会になっていた。出会いを通して、参加した中学生、協力した大人たち、そして地域が、ともに変化していく。それぞれが相互に影響し合いながら成長していくこの関係性を、私は「共育」と呼んでいる。

保護者・教育者ができる「小さな出会いの設計」

ビニールハウスで農作業体験をする中学生

では、こうした変化を生む「出会い」は、特別な環境でしか起きないものなのだろうか。

必ずしもそうではない、と私は考えている。

本質は、「どんな経験をするか」以上に、「誰と関わるか」、そして「どのような関係性のなかに身を置くか」にある。

たとえば、子どもが迷っているとき、すぐに答えを与えるのではなく、「あなたはどうしたいの?」と問いかけること。あるいは、親や教師という立場をいったん横に置き、ひとりの人間として対話してみること。そうした小さな関わりの積み重ねのなかにも、自己認識が変わるきっかけは生まれる。

進路や将来を決めるうえで、本当に必要なのは、正しい情報を集めることだけではない。

自分はどういう人間なのか。
何に心が動くのか。
どんな未来を選びたいのか。

それらを問い直すきっかけとなる「出会い」を、子どもたちがどれだけ持てるか。その積み重ねこそが、彼らの意思決定を、内側から支えていくのではないかと、私は感じている。

そしてそれは、子どもに対してだけではなく、私たち大人自身にとっても、同じことなのかもしれない。

Blue Family Projectとは?

Blue Family Projectは、12〜15歳の中学生が「人生と真正面から向き合う7日間」を体験する教育プロジェクトです。参加者は全国の地域に滞在し、学校や家庭では出会えない地域の大人たちや、その地域で暮らす同世代と対等に関わるなかで、自分自身の価値観や可能性を見つめ直していきます。単なる体験にとどまらず、対話と内省を繰り返すことで、「自分はどう生きたいのか」を言語化し、日常に持ち帰る設計となっています。また、子ども・大人・地域が相互に影響し合いながら変化していく「共育」という関係性が生まれることも、本プロジェクトの特徴です。

bluefamilyproject.grass-family.co.jp

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部

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