疲れた脳はクリエイティブ! 研究でわかった、疲れた頭の使い方

パソコンの前で悩んでいる女性

夕方6時。大事な企画を前にパソコンを開いたのに、頭にモヤがかかったように何も浮かんでこない。メールの返信すら、同じ文章を何度も書いては消してしまう。「今日はもう脳が働かない」と、自分にがっかりしながらデスクを見つめる——そんな夕方を、何度も過ごしてきたのではありませんか。

でも、もし「頭が回らない夕方」こそ、ある種の仕事に一番向いた時間だとしたら、どうでしょう。

じつは脳には、疲れているときにしか出せない力があります。それを知って1日の段取りを少し変えるだけで、あの夕方の徒労感は「いちばんクリエイティブな時間」に変わります。

まず知ってほしい——「発想の脳」と「論理の脳」は別物

そもそも、座っているだけでも脳は疲れます。判断や情報処理によって「認知資源(脳のエネルギー)」がすり減っていくからです。*1 しかも現代は、10年前の約300倍ともいわれるデータが飛び交う時代。*2

夕方に頭が回らなくなるのは当然で、あなたの気合や能力の問題ではありません。

では、疲れた脳はただ使いものにならないだけなのか——といえば、そうではありません。1日の脳には、大きく2つのモードがあります。ひとつは、疲れてくると顔を出す「発想の脳」。もうひとつは、冴えているときに力を発揮する「論理の脳」です。

疲れた脳は発想に強く、元気な脳は論理に強い——この役割の違いを知っておくだけで、1日の段取りは大きく変わります。

発想の脳と論理の脳

意外に思うかもしれませんが、ひらめきが必要な問題では、疲れているときのほうが成績が上がるという研究があります。アルビオン大学のマライケ・ウィース氏とミシガン州立大学のローズ・ザック氏の実験では、疲れている時間帯のほうが創造力のエネルギーが20%も高まったのだそうです。*3

元気な脳は「集中のフィルター」が全開で、目の前の作業に関係ない情報を締め出します。論理や精度にはこれが武器になりますが、ひらめきの素材まで遮断してしまう。

逆に疲れた脳はフィルターがゆるみ、頭のなかを漂うランダムな考えが本筋と結びついて、思わぬ発想が生まれやすくなるのです。*3

実践①——疲れた脳を「発想の時間」に回す

まずやってほしいのは、アイデア出しの仕事を、あえて"疲れている時間帯"に置くことです。その時間帯は、朝型か夜型かで分かれます。

・午前中を活動的に過ごせる「朝型タイプ」:疲れを感じ始める夕方以降
・午後のほうが調子が出る「夜型タイプ」:疲れが残っている午前中

この時間に回したいのが、次のような"正解のない"仕事です。

(アイデアが広がる仕事の例)

・ブレインストーミング
・アイデアや問題についての壁打ち
・コンセプトの作成
・ワークフローの再設計
・1on1(悩みや行き詰まりを相談できる場)

疲れて頭が回らないと感じたら、それは"発想の時間"の始まり。落ち込むのではなく、アイデア出しに切り替えてしまいましょう。

ブレインストーミング

実践②——元気な脳を「論理の時間」に使う

逆に、頭が冴えている時間は「論理の脳」の出番です。特に起床後4時間ほど、なかでも最初の2時間は集中力が高まりやすく、複雑な判断や精緻な作業に向いています。*4 元気な脳に任せるべきは、「論理的思考」と「精度」を要するタスクです。

(きっちり仕上げる仕事の例)

・企画の骨組みや論理構成を組み立てる
・データや情報を整理して報告書を仕上げる
・精度の高い文章を書く・推敲する

疲れた脳で生まれた「ひらめきの種」を、元気な脳で「形」にする。この2段階のリズムが、1日の知的生産を最大化します。ただし、朝型か夜型かで冴える時間は違うもの。「朝は必ず論理」と固定せず、自分の調子に合わせて入れ替えてください。

論理の脳を使っている画像

行き詰まったら「脳の余白」をつくる

モードを使い分けても、ひらめかないときはあります。そんなときに効くのが、目の前の課題を一度手放して、まったく関係ない作業をすることです。心理学者のソフィー・エルウッド氏らの実験が、それを裏づけています。

課題:学部生90名を3グループに分け、「1枚の紙の使い方をできるだけ多く挙げる」という創造性テストを行なう(どのグループも、課題に与えられた時間は4分間)

グループA:中断なしで4分間取り組む
グループB:途中で似た種類の作業を挟む
グループC:途中でまったく無関係な作業(性格診断テスト)を挟む

結果:グループCが最も多くのアイデアを出した

折り紙とはさみ

組織心理学者のデイビッド・バーカス氏は、こう考察しています。*5

・同じ課題をやり続けると、すでに思いついたアイデアに捕らわれ、思考が堂々巡りしやすくなる
・いったん意識を別に向けると古い思考パターンがリセットされ、課題に戻ったとき新しい発想に切り替えやすくなる

ポイントは「まったく無関係」であること。似た作業では効果が薄いので、思いきり毛色の違う手を動かします。

(切り替えに使える作業の例)

・メールチェックや返信
・後回しにしていた申請作業
・レビュー
・資料整理
・備品補充
など

意識を課題から引きはがせれば、それが「脳の余白」になります。アイデアが出なくなったら、数分だけ別の作業へ。戻ってきたとき、思いがけない発想が待っているかもしれません。

***

その日の仕事は、時計ではなく"脳の状態"で組み立てる。疲れを責める代わりに味方につければ、1日のパフォーマンスも創造性も、無理なく上がっていきます。

よくある質問(FAQ)

Q なぜ座っているだけなのに疲れを感じるのですか?

A 一日の判断や情報処理によって「認知資源」と呼ばれる脳のエネルギーが消費されるためです。認知資源は使うほど減り、休息や睡眠によって回復します。体を動かしていなくても脳は疲れるので、あなたの気合や能力の問題ではありません。

Q 疲れた脳のほうがアイデアが浮かびやすいというのは本当ですか?

A ウィース氏(アルビオン大学)とザック氏(ミシガン州立大学)の研究では、ひらめきが必要な洞察問題に取り組む際、疲れている時間帯のほうが創造力のエネルギーが20%高まったという結果が出ています。脳の集中力のフィルターがゆるむことで、雑多な思考がメインの思考と結びつきやすくなるためと考えられています。

Q アイデアが浮かばないときはどうすればいいですか?

A 目の前の課題とはまったく無関係な作業に一時的に切り替えることが効果的です。研究によると、無関係な作業を挟んだグループが最も多くのアイデアを出したことがわかっています。数分だけ別の手を動かして、戻ってきてみてください。

Q 企画や執筆はいつ行なうのがよいですか?

A 脳が元気で「集中力のフィルター」が高く機能しているときが適しています。多くの場合、起床後4時間ほど、なかでも最初の2時間は集中力が高まりやすいため、論理的な作業や精度を要する執筆に向いています。ただし冴える時間帯は朝型・夜型で異なるため、自分の調子に合わせて調整してください。

【ライタープロフィール】
澤田みのり

大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。