
サッカー日本代表・久保建英選手のプレーには、なぜあれほど迷いがないのでしょう。
ボールを受ける前から状況を読み、瞬時に最適な選択をし、それを正確に実行する――。その秘密を解き明かすことができれば、私たちがビジネスで直面する「判断と実行」の質を高めるヒントが見えてきます。
本記事では、久保選手のプレースタイルを分析し、そこから導き出される「俯瞰→判断→型による実行」というプロセスを、ビジネスにどう応用できるかを探っていきます。
久保選手はなぜ瞬時に的確なプレーができるのか
久保選手の強さの本質は、「俯瞰→判断→型による実行」という3つのプロセスにあります。ひとつずつ見ていきましょう。
1. 俯瞰力:常に全体を見ている
元日本代表プロサッカー選手の福田正博氏は、久保選手のプレーについてこう語っています(以下カギカッコ内引用)。*1
ボールを受ける前から、味方の位置、相手の位置、スペースの状況を把握している。だからこそ、ボールが来た瞬間に最適な選択ができるのです。
2. 的確な判断:情報をもとに最善の選択
俯瞰によって得た豊富な情報がある――それゆえに、久保選手は「判断のともなう技術」を発揮できます。*1
パスか、ドリブルか。右サイドか、中央か。前線か、バックパスか。
その場の状況に応じた最適な選択を、瞬時に下すことができる。これは、俯瞰による情報量の多さが判断の精度を高めているからです。
3. 型による正確な実行:判断を確実に体現する技術
しかし、正しい判断ができても、それを実行する技術がなければ意味がありません。
久保選手は「感覚的でなく体に染み込んだロジックを体現」する選手だと、サッカー専門記者の西川結城氏は評しています。*2
トラップからシュートまで「一連の型」として習得し、重心の保ち方、軸足の使い方といった細部まで、論理的なアプローチで技術を磨いてきました。この「型」があるからこそ、判断を正確に実行できるのです。*2
普遍的な成功プロセス:俯瞰→判断→実行
久保選手の強さを整理すると、次のような構造が見えてきます。
1. 俯瞰
→ 整理された情報を多くもつほど、判断の精度が上がる
2. 判断
→ 豊富な情報をもとに、最適な選択ができる
3. 型による実行
→ 訓練によって身につけた型で、判断を確実に体現できる
これは、サッカーに限らない普遍的な成功プロセスです。ビジネスにおいても、この3つのステップを意識することで、判断と実行の質を高めることができます。

ビジネスでの応用:フレームワーク→判断→ルーティン化
では、久保選手の「俯瞰→判断→型による実行」を、ビジネスでどう再現するか。3つのステップを丁寧に見ていきましょう。
ステップ1:フレームワークで俯瞰する
久保選手は「顔を上げて首を振る」ことで、ピッチ全体の状況を把握していました。
ビジネスでこれに対応するのが、フレームワークを使った俯瞰です。久保選手が首を振るように、私たちはフレームワークを使って状況を多角的に見渡します。
なぜ俯瞰が重要なのか? それは、整理された情報が多ければ多いほど、判断の精度が上がるからです。見えていない要素があると、判断を誤るリスクが高まります。
主なフレームワーク
- MECE:抜け漏れなく、ダブりなく全体を整理
- 3C:顧客(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)の視点で状況把握
- SWOT:強み・弱み・機会・脅威を分析
- 5W1H:Who, What, When, Where, Why, Howで情報を整理
具体例:新規プロジェクトを検討する場合
たとえば、新しいプロジェクトの立ち上げを検討する場面を想像してください。
いきなり「やる・やらない」を判断するのではなく、まずMECEで状況を俯瞰します。
MECEで情報を整理:
- ヒト:必要な人材は? スキルは揃っている? 体制は?
- モノ:必要なリソースや設備は?
- カネ:予算は? コストと収益の見込みは?
- 情報:市場データは? 競合の動きは? 顧客ニーズは?
こうして抜け漏れなく情報を整理することで、久保選手が「ピッチ全体を把握している」のと同じ状態をつくり出せます。
ステップ2:情報をもとに正確な判断をする
久保選手は、俯瞰で得た情報をもとに「パスか、ドリブルか」「どこにパスするか」を瞬時に判断していました。
ビジネスでも同じです。ステップ1で俯瞰した情報をもとに、最適な意思決定を行ないます。
なぜ俯瞰が判断の精度を上げるのか? それは、情報が整理されていると、優先順位やリスクが明確になるからです。感覚や勘に頼らず、根拠をもって判断できるようになります。
判断のポイント
- 優先順位は何か?(最も重要なのは「ヒト」か「カネ」か?)
- やること・やらないことは何か?
- リスクとリターンのバランスは?
- いますぐやるべきか、後回しにすべきか?
具体例:先ほどのプロジェクトの続き
MECEで俯瞰した結果、以下のような判断ができます。
判断例:
- 「ヒト」の要素が最も不足している→まずは人材確保が優先
- 「カネ」の見込みが立たない→現段階では見送り、市場調査を継続
- 「情報」は十分で、リスクも許容範囲→Go判断
情報が整理されているからこそ、こうした根拠ある判断ができるのです。
ステップ3:業務をルーティン化して確実に実行する
久保選手は「トラップからシュート」までの型を訓練で体に染み込ませているから、判断を正確に実行できます。
ビジネスでも同じです。正しい判断ができても、それを実行する「型」がなければ、感情や迷いで行動がブレてしまいます。
だからこそ、頻繁に行なう業務をパターン化(ルーティン化)することが重要なのです。
型をつくる対象
週に3回以上行なう業務が対象です。たとえば:
- メール返信
- 会議進行
- プレゼン
- 報告書作成
これらについて、「何を→どの順番で→どう実行するか」を言語化し、型にします。
具体例1:プレゼンの型
- 結論を先に伝える
- 背景を3点以内で説明
- データで裏づけ
- 次のアクションを提示
- 質問を受ける
具体例2:メール返信の型
- 相手のメールを再読し意図を確認
- 結論から書く
- 理由を2〜3点で補足
- 次のステップを明示
- 送信前に1分置いて読み直す
具体例3:会議進行の型
- 開始時にゴールを明確化
- 各議題に5分の時間制限
- 意見は「賛成・反対・質問」に分類
- 最後に決定事項と次のアクションを確認
これらの型を反復して体に染み込ませることで、久保選手がプレッシャーのなかでも正確にプレーできるように、ビジネスでも感情的になりそうな場面でも冷静に実行できるようになります。
久保選手に学ぶ、判断と実行の質の高め方
久保建英選手のプレーから学べるのは、「俯瞰→判断→型による実行」という普遍的なプロセスです。
- 俯瞰:フレームワークを使って全体を把握する
- 判断:豊富な情報をもとに最適な選択をする
- 型:業務をルーティン化して確実に実行する
この3つを意識するだけで、ビジネスにおける判断と実行の質は確実に上がります。
まずは、目の前のプロジェクトや案件に対して、MECEや3Cなどのフレームワークで状況を俯瞰してみてください。その情報をもとに優先順位を判断し、頻繁に行なう業務については型をつくって効率化する――この流れを実践することから始めてみてはいかがでしょうか。
瞬時の判断力、状況を読む俯瞰力――そんな久保選手の才能は、どのような家庭環境から育まれたのでしょうか? 姉妹サイト「こどもまなび☆ラボ」では、久保建英選手の幼少期について解説しています。
*1: スポーツブル|久保建英の武器を福田正博が分析。「スター誕生。新時代が始まる」
*2: スポーツナビ|日本代表で誰よりも魅力ある選手―― 久保建英は感情を操り、感情にほだされる
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。