なぜ、多くの夢は叶わないのか。バフェットの言葉とiPhoneの形が、わたしたちに教えてくれること

夜の交差点の矢印

あなたには、どうしてもやりたいことがありますか? 本を出したい、自分の店を持ちたい、お金持ちになりたい。どんなことでもかまいません。

では、それは叶いそうですか? こうした大きな目標は、「いつかやりたい」と思っているうちに何年もたち、夢のまま終わってしまうことが少なくありません。

なぜ、夢のまま終わってしまうのでしょうか。理由の一つは、いろいろなことを抱えて、やりたいことに力を集められていないことにあるのかもしれません。

ヒントは、投資家ウォーレン・バフェット氏が友人に贈った助言と、iPhoneの形にあります。

バフェット氏が友人に贈った「ブルズアイ」の助言

世界的な投資家として知られるバフェット氏は、長年の友人であるメリンダ・フレンチ・ゲイツ氏に、次のような助言を贈ったそうです。メリンダ氏がインタビューで振り返った言葉です。*1

「自分が取り組んでいることの中から、自分のブルズアイを見つけなさい。それ以外は放っておけばいい。自分の力をそのブルズアイに注ぎ続ければ、気分がよくなる。手をつけなかったことへの罪悪感も、少なくなるはずだ」

※和訳は編集部による

ブルズアイとは、ダーツの的の真ん中のことです。冒頭で思い浮かべた「どうしてもやりたいこと」が、あなたのブルズアイにあたります。アメリカのビジネス誌Inc.は、この助言を「ブルズアイ・ルール」と呼んで紹介しています。*1

助言の後半で、バフェット氏は、ほかのことを放っておけば気分がよくなり、罪悪感も少なくなると言っています。ほかのことを放っておくのに、なぜ気分がよくなるのでしょうか。

書類を持つ女性

夢が夢で終わるのは、ほかのことを全部抱えているから

毎日の仕事に、家のこと、資格の勉強、人づきあい。やりたいことがある人も、たいていはほかに多くのことを抱えています。どれも大事なので、どれも手放せません。全部を抱えてしまうのは、どれも大事にしたいからで、怠けているからではないはずです。

ただ、終わっていないことを抱えたまま別の作業に移ると、前の作業に注意が残り、目の前の作業の出来が下がることが、研究で報告されています。*2 毎日のことはこなせているのに、どうしてもやりたいことだけが進まないのは、抱えていることにそのつど注意を取られて、ブルズアイに回す力が残っていないからかもしれません。

ですが、「やってることを手放した方がいい」といわれて、「はい。手放しますね」とはなりにくいのが、実際のところではないでしょうか。できるならやってるよ、というやつですね。

やらないとまずい気がするとか、気になってしまうとか、みんなやってるとか……そんな「やってしまう理由」があるから、やっているわけで。

そこで、次から実際に手放すとはどういうことなのか、どうすれば手放せるのか、大きな話と身近な話に分けて紹介します。

デスクのキーボード

iPhoneは、2つのNoから生まれた

2007年1月、アップルのスティーブ・ジョブズ氏は、最初のiPhoneを発表しました。*3 その発表で、ジョブズ氏は当時のスマートフォンの問題点を挙げ、2つのものにNoと言っています。

1つ目のNoは、スタイラス(画面を操作するためのペン)です。「スタイラスなんて誰がほしい?」と言い、いちいち出したりしまったりしなければならず、なくしてしまうことを挙げました。そのかわりに使ったのが、指です。*4

2つ目のNoは、キーボードとボタンです。当時のスマートフォンには、必要かどうかに関係なくキーボードがついていて、ボタンはアプリごとに変えることができませんでした。ジョブズ氏は「こうしたボタンをすべてなくして、大きな画面だけにする」と話しています。*4

 

iPhoneが言った2つのNo

×スタイラス
×キーボード・ボタン
→
指で触れる画面アプリごとに何にでもなる

2007年のiPhone発表でのジョブズ氏の説明をもとに作成。

その結果、指で触れる大きな画面は、アプリごとに電話にも、地図にも、音楽プレーヤーにもなりました。ジョブズ氏が発表で話していたように、アプリはそれぞれ、少しずつ違う操作画面を必要としているからです。*4 2つのNoによって、iPhoneは「なんでもできる」画面を手に入れました。

ジョブズ氏が手放したのは、スタイラスやボタンのように、使い道が決まっていて場所をとるものでした。それらをなくしたから、いちばん大事な画面を大きく使えるようになったのです。わたしたちの時間も同じで、抱えていることを手放せば、空いた時間と力をブルズアイに回せます。

日差しの中のジャーナル

「ブルズアイ・メモ」で、今はやらないことを決める

では、何を手放せばいいのでしょうか。紙1枚に、次の2つを書き出します。この記事では、これを「ブルズアイ・メモ」と呼ぶことにします。手順は2つ、必要なものは紙1枚です。

手順1 帰宅後の時間を、ブルズアイだけに使うと決める

まず、毎日のどの時間をブルズアイに使うかを決め、その時間にやることを書き出します。「自分の店を持ちたい」なら、「帰宅後の時間は毎日、店を持つことに関係することだけに使う」と決め、その下に、出店エリアのリサーチ、事業計画書の下書き、開業資金の相談先探しのように、やることを並べます。

手順2 ほかの大きな目標を、「今はやらない」欄に書く

次に、ブルズアイ以外に抱えている大きな目標を、「今はやらない」欄に書き出します。英語の習得や資格の取得のように、どれもやりたいことばかりかもしれません。それでも、ここに書いたことには帰宅後の時間を使いません。それぞれに「いつ再開するか」を添えておくと、捨てたわけではないことがはっきりします。

 

ブルズアイ・メモの例

自分の店を持ちたい人の場合

ブルズアイ 帰宅後の時間は毎日、ここだけに使う

自分の店を持つ

□ 出店エリアと物件のリサーチ

□ 事業計画書の下書き

□ 開業資金の相談先を探す

今はやらないこと / いつ再開するか

英語の習得店が軌道に乗ってから
資格の取得開店後に改めて
趣味の楽器開店してから

書き出したことは紙に預けてあり、いつ再開するかも決めてあります。書き出していつ再開するかを決めておけば、頭の中で気にし続けずにすみます。バフェット氏が「罪悪感も、少なくなる」と言ったのは、こういうことだと思います。

「今はやらない」と書くことは、ジョブズ氏がスタイラスとボタンにNoと言ったのと同じです。そうして空いた帰宅後の時間は、すべてブルズアイに回せます。

***

どうしてもやりたいことは、ほかのことに追われているうちに、いつのまにか後回しになってしまいます。

今夜、紙を1枚用意して、あなたのブルズアイと「今はやらない」ことを書き出してみませんか?

よくある質問(FAQ)

Q. ブルズアイが一つに決められないときは、どうすればいいですか?
決めるのは一生のブルズアイではありません。いまの自分がいちばん力を注ぎたいものを一つ選び、しばらく続けてみて違うと感じたら、選び直してもかまいません。
Q. 急ぎの仕事が次々に入る時期でも使えますか?
締め切りが続く時期は、帰宅後の時間を確保すること自体が難しいかもしれません。そういう時期は、ブルズアイに使う時間を週末だけにするなど、小さくしてみてください。その日の仕事の順番を決めるアイビー・リー・メソッドのような方法と組み合わせるのも一つの方法です。
Q. 「今はやらない」と書いたことは、いつやればいいですか?
書き出すときに添えた「いつ再開するか」の時期に、改めて見直してください。そのときになっても優先したいと思えなければ、やらないと決めてもかまいません。

【ライタープロフィール】
朝井律

人はなぜそう考えるのか。ついそうしてしまうのか。ある条件下で、人がしてしまう行動は? 行動経済学・心理学・脳科学など、「人の意思決定」や「思考のクセ」に特に関心をもち、その知識を活かした記事に強みをもつ。