「勉強したいのに手がつかない人」に効く|元Google社員のタスク管理術「バーナーリスト」

バーナーリストのレイアウト

朝の通勤電車で英語アプリを開き、昼休みに簿記の問題集をパラパラ、帰宅後は中国語の単語帳……。 でも気づけば、どの勉強も中途半端で進歩を実感できない。

——勉強量はどんどん増える。でも、時間は増えてくれない。

変化の大きい現代では、資格取得からリスキリング、ビジネス教養まで幅広く学ぶことが求められています。「あれもこれも勉強しなければ……」と焦れば焦るほど、頭のなかがごちゃごちゃ。結局「今日も先延ばししてしまった……」と自己嫌悪に陥ることも。

複数の勉強を同時進行させる秘訣は「もっと時間をつくること」ではありません。本当に必要なのは、タスク管理による「選択と集中」です。

今回は、タスク管理術「バーナーリスト」を筆者の実践報告とともにご紹介。この方法を使えば、限られた時間のなかでも複数の学習課題を効率よく進められるようになりますよ。

忙しくても勉強できる人は「しない」タスクを決めている

「時間の確保」に悩んでいるビジネスパーソンは多いでしょう。しかし、時間を確保するより効率のよい戦略は「しないタスク」を決めることです。

「勉強量が多いほど成果があがる」——たしかに、それは一理あるかもしれません。しかし、一方で「勉強のタスク」が増幅すると、想像以上に私たちは「選択すること」に消耗してしまうのです。

「選択肢(タスク)が多いほど、パフォーマンスが下がる」。この矛盾に満ちた現象を「選択のパラドックス」と呼びます。これは、米国の心理学者バリー・シュワルツ博士が、TEDトークで発表して広まった理論です。

ビジネス心理学者のカミーユ・プレストン博士は「選択のパラドックス」の概要を以下のとおりにまとめています。

while choice is liberating up to a point, too much choice can hinder our ability to take action.

(選択肢があることは、ある程度までは私たちに自由を与えてくれます。けれど、選択肢が多すぎると、かえって行動を起こす妨げになることがあります)*1 ※訳は筆者が補った

勉強に置き換えると、「選択のパラドックス」が起こると以下の状況が考えられます。

  • 何から始めたらいいのかわからず、結局着手できない
    「英語の単語帳をやるべきか、それとも文法書を優先すべきか」と迷っているうちに、結局何も手をつけられない
  • 1日の勉強タスクが多すぎて、やる気を失う
    「資格対策も語学もプログラミングも全部完璧にやりたい」と思うあまり、どれも中途半端で終わってしまう
  • タスクが多すぎて覚えられない
    今日やるべき勉強リストを思い出すだけで脳のエネルギーを消耗し、肝心の学習に集中できない

つまり……「始める前から疲れてしまう」状態になるわけです。

一方、効率的に学習を継続できる人は選択肢を意図的に絞っています。『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』の著者であり、脳科学者の中野信子氏は、「研究者としても医師としても一歩抜きん出て」いた知人のエピソードを著書のなかで語っています。

ただし、ここからが肝心なのですが、彼女がすごいのは、「やるべきこと」を考えると同時に、「やらないこと」を明確にしていたところにありました。*2

成果を出す人は、集中して効率的に勉強を進めるために、「やらないこと」を決めてムダを省いているのです。

リストに赤ペンでチェックを入れている

効率的に勉強タスクを消化する「バーナーリスト」とは?

前項で忙しくても勉強できる人は、「しないタスクを決めている」と説明しました。そこで「タスクを絞る」管理法「バーナーリスト」がおすすめです。

バーナーリストとは、Google元社員のジェイク・ナップ氏、ジョン・ゼラツキー氏が『時間術大全――人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』(ダイヤモンド社)で紹介し、反響を呼んだタスク管理法です。著書では、仕事の管理術として紹介されていますが、勉強のタスク管理にも活用できる方法です。

バーナーリストのレイアウトは、以下のとおり。

バーナーリストのレイアウト

このリストは、レストランで調理をするシェフが、手順よく料理を仕上げるためのイメージをもとにつくられています。

  • 手前のバーナーでは「いままさに調理している料理(=最重要タスク)」
  • 奥のバーナーでは「次に調理する料理(=2番目に重要なタスク)」
  • そして「使う予定の道具を置いているカウンター(後回しのタスク)

——シェフの「効率よくタスクを消化する」段取りを紙面化したものなのです。

著者は「バーナーリスト」に関して以下のコメントを残しています。

時間や精神エネルギーと同様、バーナーリストのスペースは限られている。だからリストのおかげで、必要なときには「ノー」と言って最優先事項に集中し続けることができるのだ。*3

まさに「タスクの選択肢を絞る(=選択のパラドックスを防ぐ)」ことで、集中力を上げられるわけですね。従来のToDoリストのように「やりたいこと」をただ並べるのではなく、物理的なスペースの制約によって「本当に必要なタスクだけ」を厳選できる仕組みになっています。

机の上に教科書やノートが開いた状態で置かれている

勉強を進めるために「バーナーリスト」を試してみた

今回筆者は「英語」「韓国語」「教養のための読書」の3つの勉強を、スムーズに進めるために「バーナーリスト」を試してみました。

STEP1.「最重要タスクを手前のバーに置く」

まず始めに「バーナーリストのレイアウト」をつくります。紙を2分割に仕切り——

紙を2分割した様子

「左側が手前のバーナー(コンロ)、右側が奥のバーナー」です。*3

そして、「英語」「韓国語」「教養のための読書」のうち、もっとも重要なタスクを「手前のバーナー」(左上)に書きます。

左上に今日のタスクを書き出した

ここでポイントなのは、置くタスクは「ここ数日でやれそうなもの」であること。*3

つまり、バーナーリストは中期的なリストではありません。筆者は今回1日のタスクにして書いてみました。

今日のタスクをアップで撮影した

ノート自体がA5サイズであるのもあり、手前バーナーのスペースは限られています。この制約により、自然と最重要タスクを絞り込むことができました。「これなら確実に消化できる」という安心感が生まれます。

ちなみにカウンターのスペース(左下)は、メモ用として余白を残しています。

STEP2.2番目に大事なタスクを奥のバーナーに置く

次は「2番目に大事なタスク」を奥のバーナー(右上)に書きます。これは、STEP1で置いた「重要なタスク」が終わってから取り組むのではなく、メインタスクの合間に並行して進めるリストです。

奥のバーナーに2番目に大事なタスクを書き出した

左上の重要なタスクに集中しつつ、電車での移動時間や昼休みの10分といったスキマ時間があれば右上のリストにも取り組む ことで、複数の勉強タスクを効率的に同時並行で進められます。

アップで撮影した様子

STEP3.キッチンシンクをつくる

最後は「1番目、2番目とは無関係ではあるものの、やる必要のあるタスク」を、右下のキッチンシンクに書きます。筆者は「Webマーケティング」「経済ニュース」に関しても記入しました。

優先順位は低いがやる必要のあるタスクをキッチンシンクに書き出した

優先順位としては最下位ですが、成長のために「やる必要のある勉強」 です。時間に余裕がある日や、メインタスクが早く終わった際の「ボーナストラック」として機能します。

アップで撮影した

STEP4.振り返り、できたタスクを斜線で引く

1日が終わったらタスクを振り返ります。完了したタスクは斜線で消去し——

バーナーリストを正面から撮影した

上記の画像のとおり。結果として、最重要のタスクはひとつ残してしまいましたが、普段は後回しになりがちな韓国語の勉強タスクをふたつ消化できました。最重要タスクをこなす合間のスキマ時間に、取りかかることができたからです。

そして——、

カウンターに「次に取り入れたいタスク」を記入した

このように、カウンターに「次に取り入れたいタスクのメモ」を記入。仕事をしながら「AIに関する勉強も必要かも」と思い浮かんだため、忘れないようカウンターにメモを残しました。

この振り返りをもとに、翌日のバーナーリストを作成。

2回目のバーナーリスト

 1日目でできなかった「キッチンシンク」のタスクを「奥のバーナー」に昇格させ、優先度を上げて取り組むことにしました。

バーナーリストは勉強のタスク管理に活用できる!

実際にバーナーリストを使用した効果と注意点をまとめます。

✓ 複数の勉強を同時並行で進めるための管理術として効果あり

従来のToDoリストでは、「英語の勉強」「韓国語の勉強」「読書」がフラットに並んでいるため、どれから手をつけるべきか迷いが生じがち。

一方、バーナーリストなら視覚的に優先順位が明確になり、「集中できる時間にやるタスク」「スキマ時間にやるタスク」の使い分けが頭のなかで整理しやすくなります。

❌ 詰め込みすぎは逆効果

今回の実践では、「手前のバーナー」で未完了のタスクが残りました。これは、手前のバーナーだけでなく、奥のバーナーやキッチンシンクにも欲張ってタスクを詰め込みすぎたことが原因。

バーナーリストの効果を最大化するには、各エリアのスペースに合わせてタスクを厳選することが重要です。また、ノートは小さめサイズがおすすめ。物理的なスペースの制約があることで、「本当に必要なタスクだけ」を意識的に選び抜きやすくなります。

***
勉強量が多いとどうしても、「あれもこれも」と焦りがち。でも、バーナーリストで賢く「選択する」ことをしてみてください。量を絞れば、勉強の向き合い方も変わってきますよ。

【ライタープロフィール】
青野透子

大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。

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