シンクロニシティの科学:人生の転換期をビジネスの武器にする方法

各メモに次の一歩を書き足した手書きメモ「久しぶりに思い出した人から、その日の午後に連絡が来た」

「苦しい時期に、見知らぬ人から、必要な言葉をかけられた」

偶然にしては出来すぎたタイミングに、はっとした経験はありませんか。

スイスの精神科医・心理学者カール・グスタフ・ユング氏は、こうした「意味のある偶然」をシンクロニシティと呼びました。*1

興味深いのは、それが人生のどの時期にも均等に起こるわけではなく、キャリアの転換、離職、独立、大きな挑戦といった「節目」に集中しやすいという指摘があることです。

この現象を長年研究してきたのが、バージニア大学客員教授で元ミズーリ大学精神科主任のバーナード・バイトマン博士らです。*2

本記事では同氏らの論考をもとに、以下の考え方をビジネスの視点から整理。

——「転換期という揺らぎの時期」を、「偶然を成果へと変える好機」として活かす。

あわせて「ビジネスで『意味のある偶然』をとらえるアンテナの磨き方」もご紹介します。ぜひご一読ください。

なぜ「人生の転換期」に偶然が重なるのか?

「転換期を迎える前後に、思いがけず昔のクライアントが連絡をしてくる」

不思議なことに、これは筆者が過去に何度か体験したことです。

バイトマン博士によれば、意味のある偶然は、悲嘆・病気・キャリアの変化・離婚・退職・親になることなど、アイデンティティが再構築される時期に集中して現れやすいといいます。*2

理由のひとつは、心理学で古くから知られている「不確実さが知覚を変える」という現象です。

不安定な時期には、人は普段なら見過ごすパターンや関係性、予期せぬつながりに敏感になります。いわば、注意のアンテナの感度が上がるのです。*2

ひらめいた女性

さらに同氏らは、注意の変化だけでは説明しきれない、より深い「再編成」のプロセスがあるのではないかと考えています。

安定した時期には、生物学的・心理的・社会的なシステムが定まったパターンに落ち着いています。一方、変化が大きい時期には、これらの要因が強く相互作用し、小さなきっかけが大きな変化を生みやすくなります。いわば「可塑性が高まる窓」が開くというわけです。*2

わかりやすく言えば、転換期には、自分を取り巻く人・情報・環境の結びつきが組み替わりやすく、小さな出来事がその後のキャリアを左右するきっかけになりやすいということです。

そのため、この時期は「偶然」が大きな転機へと発展しやすいのではないでしょうか。

📖 あわせて読みたいキャリアの8割は "偶然" がきっかけ! 計画的に "偶然" を導く5つのポイント。

ビジネスで「意味のある偶然」をとらえるアンテナの磨き方

転換期には、これまでのルーティンがゆるみ、見落としていた可能性に注意が向きやすくなります。この状態は、ビジネスの突破口を探すうえで見逃せないチャンスです。

それならば、私たちは「意味のある偶然」をとらえるアンテナを磨くべきですよね。

この実践のヒントは、教育心理学者でスタンフォード大学教授のジョン・D・クランボルツ氏らの研究が役に立つはずです。同氏らは、偶然をチャンスに変えるために必要な行動特性として、以下の5つのスキルを挙げています。*3

  1. Curiosity(好奇心) 新しい学習の機会を模索すること
  2. Persistence(持続性) 挫折にめげずに努力を続けること
  3. Flexibility(柔軟性) 姿勢や状況を変えられること
  4. Optimism(楽観性) 新しい機会を可能性があり達成可能なものと捉えること
  5. Risk Taking(冒険心・リスクテイク) 結果が不確実でも行動を起こすこと

これは、キャリアカウンセラーがクライアントを支援する際の5項目なので、これを個人に落とし込んでみましょう。そうなると、実践のヒントは以下のとおりシンプルです。

1.「想定外」を書き留める

予定になかった出会い、業界外のニュース、雑談で出た違和感など、ふだんならスルーする情報を、判断を保留したままメモに残しておきます。

点そのものを増やしておかなければ、点と点はつながりようがありません。たとえばこのような内容です。筆者は持ち歩ける小さめのノートに、これを記してみました。

 
  • 6/26 ○○さんから突然連絡
  • 6/29 「編集」より「設計」という言葉が妙に残る
  • 6/30 久しぶりに△△さんを思い出した
  • 7/1 駅で見た広告のコピーが刺さった
  • 7/3 「もう一度挑戦してみたら?」と言われた
  • 7/4 生成AI×教育の記事を3本連続で見かけた

想定外の出来事を日付とともに書き留めた手書きメモ

これにより、あとから見返したときに、ばらばらだった出来事のつながりに気づきやすくなるはずです。

2. ゆるやかな仮説を持って行動量を増やす

「こうかもしれない」という仮の問いを携えて人に会い、現場に足を運ぶほど、偶然が有意義な出来事に変わる確率は上がります。

筆者は行動量が増えるよう、先ほどのメモにこう書き足してみました。

 
  • 6/26 ○○さんから突然連絡→来週ランチに誘う
  • 6/29 「編集」より「設計」という言葉が妙に残る→設計で検索
  • 6/30 久しぶりに△△さんを思い出した→LINEする
  • 7/1 駅で読んだ広告のコピーが刺さった→なぜ? 理由を3行メモ
  • 7/3 「もう一度挑戦してみたら?」と言われた→土曜午前中だけやる
  • 7/4 生成AI×教育の記事を3本連続で見かけた→関連本を1冊読む

各メモに次の一歩を書き足した手書きメモ

こうすることにより、偶然の出来事が「気になる出来事」で終わらず、次の行動につながるきっかけへと変わることが期待できます。

3. 行動量を増やすときの注意点

ただし、ひとつ重要な注意点があります。

バイトマン博士らは、この関係が直線的ではなく、逆U字を描く可能性を指摘しています。適度な不安定さはパターン検知を最大化しますが、混乱が過度になると、かえって視野が狭まり統合する力が落ちてしまうのです。*2

つまり、闇雲に自分を追い込むのは逆効果。適度な構造と余白を保ちながら、自分を「開いておく」バランスが鍵になります。

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偶然を、必然に変える構えを持つ

バイトマン博士らの視点は、神秘的な断定と懐疑的な切り捨ての「中間」にあります。意味のある偶然は、宇宙からのメッセージでも、単なる認知の錯覚でもない。人生が再編成されるときに、複雑なシステムが生み出す「整合」の表れかもしれない、というものです。*2

研究はまだ初期段階であり、断定はできません。それでも、転換期に意味やつながりが濃く立ち上がるという観察は、一貫して報告されています。

次に大きな節目で不思議な偶然に出会ったら、こう問いかけてみてください。

「いま、自分の何が組み替わろうとしているのか」

その問いこそが、揺らぎの時期を成果へと変える、最初の一歩になるはずです。

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***

人生には、あとから振り返ると「あれが転機だった」と思える出来事があります。その瞬間には、ただの偶然にしか見えなかったものが、後になって一本の線でつながることも少なくありません。

もちろん、すべての偶然に意味があるとは言えないでしょう。それでも、変化の時期だからこそ見えてくる出会いや気づきに、少しだけ注意を向けてみる。その小さな姿勢が、次のキャリアや人生を切り拓く一歩になるはずです。

人生の転機

よくある質問(FAQ)

Q. シンクロニシティ(意味のある偶然)とは何ですか?

スイスの精神科医・心理学者カール・グスタフ・ユング氏が用いた概念で、明確な因果関係がないのに、意味のあるつながりを感じさせる偶然の一致を指します。久しぶりに思い出した相手からその日に連絡が来る、といった「出来すぎたタイミング」の経験がこれにあたります。

Q. なぜ人生の転換期に偶然が重なりやすいのですか?

バイトマン博士らによれば、転職・独立・離婚・退職などアイデンティティが再構築される時期は、不確実さによって注意のアンテナの感度が上がり、普段は見過ごすパターンやつながりに気づきやすくなるためです。加えて、人・情報・環境の結びつきが組み替わりやすくなり、小さな出来事が大きな転機へ発展しやすいと考えられています。

Q. ビジネスで「意味のある偶然」を活かすにはどうすればいいですか?

2つの実践が有効です。1つは、想定外の出会いや違和感を判断を保留したままメモに残し、「点」を増やしておくこと。もう1つは、ゆるやかな仮説を携えて人に会い、現場に足を運ぶなど行動量を増やすことです。これにより、偶然が「気になる出来事」で終わらず、次の行動につながります。

Q. 偶然を求めて、あえて自分を不安定な状況に追い込むのは効果的ですか?

効果的とは言えません。バイトマン博士らは、不安定さとパターン検知の関係が逆U字を描く可能性を指摘しています。適度な不安定さは気づきを最大化しますが、混乱が過度になると視野が狭まり、かえって統合する力が落ちてしまいます。適度な構造と余白を保ちながら自分を「開いておく」バランスが鍵です。

(参考)

*1: C.G.ユング, W.パウリ『自然現象と心の構造 非因果的連関の原理』河合隼雄・村上陽一郎 訳、海鳴社、1976年。

*2: Psychology Today|Why Meaningful Coincidences Cluster During Life Changes(Rob Sacco & Bernard Beitman)

*3: Mitchell, K. E., Levin, A. S., & Krumboltz, J. D. (1999). Planned happenstance: Constructing unexpected career opportunities. Journal of Counseling & Development, 77(2), 115-124.

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STUDY HACKER 編集部

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