
あなたのプレゼン、要点がわかりにくい――会議が終わったあとも、その上司のひとことが忘れられず、胸が重くなる。午後の業務をこなしながらも、「どうして要点をまとめておかなかったのだろう」「前も上司に注意されたのに……」と、自己否定の考えが止まらない。
仕事中のミス、顧客からのクレーム、上司からの指摘など――ちょっとした出来事が頭から離れず、「自分は気持ちが弱いな」と責めてしまう人もいるでしょう。
しかし、切り替えの早さは "気持ちの強さ" の問題ではありません。適切な「発想の転換」が重要なのです。
今回は「切り替えが上手な人の考え方」を3つご紹介します。ちょっとした出来事が頭から離れない方は、ぜひご一読ください。
1.「もし〇〇だったら」と考えてみる
思考の切り替えが下手な人は、視野が狭くなる傾向があります。一方で、切り替え上手な人は失敗しても「もし、〇〇だったら?」と複数の可能性を考え、視野を広げています。
たとえば、資料の数値を間違えて上司から指摘を受けたとしましょう。思考の切り替えが苦手な人の頭のなかは、こんな思いに占領されてしまうかもしれません。
- あのときもっと確認していれば……。
- 自分はどうして注意力がないのだろう……。
- 上司から「ミスばかりで信頼できない」と思われた……。
しかし、これらの考えにとらわれてしまうと、「どうせ自分はダメだ」という結論しか導き出せません。一方で切り替え上手な人は「もし指摘されず、取引先に誤ったデータを送っていたら?」とほかの最悪なパターンを考え、思考を切り替えています。
心理学では「もしも〇〇だったら?」とほかの可能性を考えることを「反事実的思考」と呼びます。株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役で、東京大学大学院情報学環特任研究員を兼務する伊達洋駆氏は、「反事実的思考」には以下の2種類があると説明しています。*1
「上向き」の反事実的思考
現実よりもよい結果を想像する考え方→原因を探り、改善策を考えるのに役立つため、将来の行動を変える原動力となる。
例)「もっとしっかりと確認していたら、上司に指摘されず、むしろ褒められていたかもしれない」→確認作業を丁寧に行なうようになる。
「下向き」の反事実的思考
現実よりも悪い結果を想像する考え方→現況が「まだマシなほうだ」ととらえ直すため、ストレスや不安を減らすことができる。
例)「もし指摘されなかったら、取引先に誤った情報を伝えていたかもしれない」
→落ち込む度合いを和らげ、心の安定を保てる。
つまり、「もし〇〇だったら」と仮の状況を想定することで、認知を見直すことができるのです。ポジティブな考えに変えるために、この「反事実的思考」をうまく活用しましょう。
ただし、伊達氏は以下の注意点も挙げています。*1
- 「上向き」の反事実的思考が過剰になると――
自分を責めたり後悔したりする可能性がある - 「下向き」の反事実的思考が過剰になると――
現況に満足しすぎて改善の機会を逃す可能性もある
程よく取り入れることを心がけましょう。

2. ミスを「ミスト・テイク」の発想に
失敗したら誰でも気分は落ち込むもの。だからこそ、「ミス(=mistake)」という単語を聞いて心地よい気持ちになる人はほとんどいないでしょう。
しかし、それは「終わり」ではなく「学びの途中」です。思考の切り替えが上手な人は、失敗を "達成するまでの学び" だととらえます。
国際的な研修・コーチング機関「JAS Leadership」のCEOで創設者のジャニーン・シンドラー氏は、ミス(mistake)という言葉には否定的な響きがあるとして、これを再定義したことを伝えています。*2
ミスは学びの機会です。私は「mistake」という言葉をやめて、代わりに「missed-take」—私と私の会社が商標登録した用語—を使うことを提案します。
つまり「missed-take(ミスト・テイク)」とは、ミスを「間違い」や「悪いこと」ではなく、「成長を助ける学びの機会」としてとらえることです。*2
映画の撮影でも作品の完成のために何度もテイク(試行)を重ねますよね。それと同様に、うまくいかなかった出来事は成功するための「試行」だと考え直すのです。
たとえば、会議で自分の提案がうまく伝わらず、周囲の反応が薄かった場面を想定してみましょう。これを「失敗(mistake)」ととらえる人は――
「自分は説明が下手。やはり人前で話すのは向いていないな……」
と、能力の問題だと考えます。これだと自信を失い、次に発言することが怖くなってしまう可能性があります。
しかし、これは単なる失敗体験の物語ではありません。「ミスト・テイク(missed-take)」思考の人は――
「今回の反応の薄さで、結論に入る前の説明が長かったとわかった。次のプレゼンでは結論を短くまとめておこう」
――といった具合に、出来事を学びとして、次のプレゼン(テイク)に活かそうと考えます。
同じ失敗でも、「能力の問題」として自分を責めるのではなく、「改善のための学び」ととらえ、成長の糧にするわけです。
ぜひ、あなたも「ミス」を「ミスト・テイク」に定義し直してみてください。

3. メタ認知的知識をストックする
切り替えが下手な人は、不安な出来事を繰り返し考える傾向にあります。しかし、切り替え上手な人は「自分の思考のクセ」を理解しているため、グルグル思考から離れやすいのです。
私たちには思考の偏り――「認知バイアス」があります。
たとえば、ネガティブ思考のループに陥りやすい場合、以下のバイアスが潜んでいるかもしれません。(※『The Everything Psychology Book』の著者で心理学教育者のケンドラ・チェリー氏の解説を参考にした)*3
- 説明力を評価されたにもかかわらず、資料のミスを指摘されたことばかりで頭がいっぱいになる。
→意識が特定の情報ばかりに向いてしまう「注意バイアス」が働いている - 常に「自分はセンスがない」という思い込みに帰結する証拠ばかりを優先し、褒められた事実は軽視する。
→自分の既存の信念に合致する情報ばかりを優先する「確証バイアス」が働いている
これらが適切な判断力を奪っているのは明白です。
一方で、切り替え上手な人は、こうした状況に陥ったままではいません。「あっ、また思い込みにはまっている」と気づくことができるのです。つまり、切り替え上手な人とは、自分の思考に対して客観的になれる人のこと。
そのためには「メタ認知」が重要です。
大阪大学名誉教授・鳴門教育大学名誉教授の三宮真智子氏は、「認知の誤りを見直し正すのは、認知よりも一段高いレベルの『メタ認知』」だと説明し、このメタ認知が「気持ちのコントロール」にも役立つと伝えています。*4
自分を一歩引いて俯瞰し、自分の状況や「思考のクセ」に気づくことができれば対処できるうえ、感情にも振り回されにくくなるということです。
では、メタ認知はどのようにすれば働くのでしょうか?
三宮氏はひとつの方法として、「豊富なメタ認知的知識を持つ」ことを挙げています。メタ認知的知識とは、心理学の知見から学んだり、自己観察で得られたりする認知特性の知識のことです。*4
つまり、たとえば――
- 人間は思い込みで判断することが多い
- 自分はミスをすると必要以上に気にしやすい
- 一度うまくいかないと「自分には向いていない」と思い込みやすい
など、考え方のクセや偏りやすい状況を理解しておくほど、メタ認知が働きやすく(自分を俯瞰しやすく)なります。そして、自分に有効な方略を見つけ、活用しやすくなることにもつながります。
グルグルと "ネガティブな考えにとらわれたまま" でいることは、もうなくなるでしょう。
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思考を切り替える秘訣は、"いまの視点をズラす" ことです。そうすることで、とらわれている考えから抜け出すことができます。
よろしければ、本稿で紹介した3つの考え方をヒントにしてみてください。
よくある質問(FAQ)
*1: BUSINESS RESEARCH LAB|「もしも」の想像が未来を作る:反事実的思考の効果
*2: Forbes JAPAN|失敗を「ミスト・テイク」と捉え直す新しい視点
*3: Verywell Mind|How Cognitive Biases Influence the Way You Think and Act
*4: 公益社団法人 日本心理学会|メタ認知の心理学
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。