
📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season8
Season7では「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を20社の事例で深掘りしました。
Season8でも引き続き、現代のマーケティングの本質を事例で解き明かしていきます。
まだ過去のSeasonを読んでいない方は、そちらからどうぞ。
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2026年、原材料費やエネルギー費の高騰で、街の洋菓子店ではショートケーキ1個600〜700円が当たり前になりました。そんな中、郊外の広い駐車場に車が次々と吸い込まれ、カゴいっぱいにアイスやケーキ、和菓子を詰め込む人々で賑わう場所があります——「シャトレーゼ」です。
グループ連結売上高1,613億円(2025年3月期)・国内約800店・海外アジア9か国/地域に約190店。*1 物価高が続く2026年に、シャトレーゼはなぜ「神コスパ」を維持できているのでしょうか。
- 「安さ」の正体は値引きではない——中間マージンを「完全抹殺」する垂直統合の暴力
- 「広告費ほぼゼロ」と「全方位プロダクト」——UGCが勝手に回るマーケティングの永久機関
- 「売り方」の前に「仕組み」を設計せよ——構造の美しさが戦う前に勝負を決める
- よくある質問(FAQ)
「安さ」の正体は値引きではない——中間マージンを「完全抹殺」する垂直統合の暴力
シャトレーゼの安さを「原材料を安く叩いているから」と誤解している人がいます。実態は真逆です。
シャトレーゼは「菓子のSPA(製造小売)」と呼ばれる垂直統合モデルを採用しています。*2 一般的な洋菓子店が「問屋→卸業者→店舗」という流通経路を辿るのに対し、シャトレーゼは契約農家(素材)→自社工場(山梨での一括製造)→自社物流(全国への直送)→直営・FC店舗(販売)を、すべて自社インフラで一本化しています。
この設計が生み出すものは「中間マージンの完全排除」です。問屋・卸業者・外部物流が取るはずのコストをすべてカットし、その分を「素材のクオリティ」と「価格の安さ」に100%還元します。*2
| 項目 | 街の洋菓子店・一般チェーン | シャトレーゼ(垂直統合SPA) |
|---|---|---|
| 原材料の調達 | 問屋や卸業者を介して仕入れる | 契約農家から直接仕入れる |
| 物流と配送 | 外部の物流網に委託(コスト高) | 自社物流トラックで全国の店舗へ直送 |
| 広告・販促 | メディア広告やセール(値引き) | 広告費ほぼゼロ。価格とクチコミ(UGC)で集客 |
| 2026年の状況 | コスト高を価格転嫁せざるを得ず苦戦 | 仕組みの勝利で「神コスパ」を維持・アジアへ拡大 |
この垂直統合が「参入障壁」として機能する理由は、他社が「同じ構造を作るためには数十年とその間の積み上げが必要」だからです。山梨に自社工場を持ち、全国に直送する物流網を持ち、800店規模のFCネットワークを築くまでの時間・資本・信頼は、後発が簡単に複製できるものではありません。*1

「広告費ほぼゼロ」と「全方位プロダクト」——UGCが勝手に回るマーケティングの永久機関
シャトレーゼは派手なテレビCMやWEB広告をほとんど打ちません。その代わりに何をするか——価格をさらに下げます。*2
「このクオリティでこの安さはヤバい」という体験をした顧客が、自発的にSNSへ「シャトレーゼの神コスパ商品10選」「シャトレーゼのアイス全種食べ比べ」といったUGCを大量に生成します。これが次の顧客への最強の広告になります——しかもコストゼロで。
さらにシャトレーゼの商品設計が巧みなのが「誰も『欲しいものがない』状態を作らない」ことです。*3 洋菓子・和菓子・アイス・米菓・糖質カット商品・ワインまで、家族三世代が一店舗で全員の欲求を満たせる品揃えは、「また来たい」という理由を無限に作り出します。糖質カット商品の展開は、健康意識が高いシニア層や糖尿病患者にも「甘いものをあきらめなくていい場所」という唯一無二のポジションを与えています。
アジア展開も同じ原理です。山梨の工場で製造した商品を瞬間冷凍して輸出・現地で解凍販売という「シンプルな仕組み」で、シンガポール・香港・台湾・マレーシアなど9か国/地域に約190店を展開。*1 日本の品質をそのままアジアの価格帯で提供できるのも、垂直統合が生む圧倒的なコスト競争力があるからです。

「売り方」の前に「仕組み」を設計せよ——構造の美しさが戦う前に勝負を決める
シャトレーゼの事例から学べる最も根本的な問いは「あなたのビジネスの競争力はどこにあるか」という問いです。
競合に勝つために、安易に「自社の利益(身を削る値引き)」で戦っていないでしょうか。値引きで戦う企業は、競合が同じ値引きをすれば終わりです。しかしシャトレーゼのような垂直統合の仕組みは、競合が「同じ構造を作る」ことが物理的に困難なため、戦う前から勝負が決まっています。
仕入れ・製造・物流・販売のどこかに「中間マージンが発生している場所」はないでしょうか。そこを自社インフラに置き換えることで、その分を「素材の品質向上」か「価格の引き下げ」か「利益率の改善」に使えます。
2026年のマーケティングは、上辺のキャッチコピーで飾ることではありません。他社が絶対に追いつけない「構造の美しさ」を裏側に実装すること——シャトレーゼの売上高1,613億円という数字が、その証明です。

【本記事のまとめ】
1. 「安さ」の正体は値引きではなく中間マージンの完全排除——垂直統合SPAという参入障壁
契約農家→自社工場(山梨)→自社物流→直営・FC店という一本のサプライチェーンで問屋・卸・外部物流が取るコストをゼロにし、その分を「素材の質」と「安さ」に還元する。この構造を後発が複製するには数十年の積み上げが必要なため、戦う前から勝負が決まっている。
2. 広告費ほぼゼロ×全方位プロダクト——「神コスパ」体験がUGCの永久機関を回す
広告費を使わずさらに価格を下げることで、顧客が自発的に「神コスパ商品10選」などのUGCを生成するサイクルが機能する。洋菓子・和菓子・アイス・糖質カット・ワインまで三世代を網羅する品揃えが客単価と来店頻度を最大化する。垂直統合の仕組みをそのままアジア9か国/地域190店にも展開中。
3. 「売り方」の前に「仕組み」を設計せよ——構造の美しさが戦う前に勝負を決める
値引きで戦う企業は競合が同じ値引きをすれば終わる。仕入れ・製造・物流・販売のどこかに中間マージンが発生している場所を自社インフラに置き換えることで、競合が「同じ構造を作ること」が物理的に困難な参入障壁を生み出せる。
よくある質問(FAQ)
シャトレーゼはフランチャイズですか?直営店ですか?
両方あります。国内約800店のうち直営は約60店舗で、残りの大部分はフランチャイズ(FC)店舗です。FC展開が多い理由は、シャトレーゼの「仕組み(製造・物流)」を本部が一括管理しながら、店舗の運営コストはFC加盟者に負担してもらうことで、急速な出店拡大を可能にしているからです。海外展開も同様で、各国の「三喜経営(販売会社・加盟店・お客様がともに喜ぶ)」を理解したパートナー企業とのFC展開が基本です。本部が製造・品質管理を握り、販売はFCに任せるという役割分担が、国内外800店超というスケールを実現しています。
「垂直統合(SPA)」は中小企業にも実践できますか?
規模は違っても原理は応用できます。たとえば地方の農家が「農産物を農協に卸す(中間マージン発生)」のをやめ、直売所やECサイトで直接販売する、飲食店が「食材を業者から仕入れる」のをやめ、自ら農家と契約して直接調達する——これらがすべて小規模な垂直統合です。重要なのは「自社のサプライチェーンのどこに中間業者がいて、そのコストをなくせるか」を問うことです。シャトレーゼほどの規模でなくても、1〜2段階の垂直統合で十分な差別化が可能な場合があります。
シャトレーゼが物価高でも値上げしない理由はコスト構造だけですか?
主因はコスト構造ですが、経営哲学も大きく影響しています。古屋勇治社長は「おいしくて安い商品を提供することが使命」と明言しており、値上げよりも工場の効率化・規模拡大による単価引き下げを優先する姿勢を一貫しています。また「安さ」そのものがシャトレーゼのブランドの核であるため、値上げはブランドの本質を損なうリスクがあります。ただし原材料費の高騰が続く中で、一部商品の価格改定は行われており、「絶対に値上げしない」ではなく「極力価格を抑える仕組みを磨き続ける」という姿勢です。
*1|マイナビ2027「シャトレーゼグループの会社概要」。2025年3月期グループ連結売上高1,613億円(菓子国内外・ワイナリー・ホテル・ゴルフ場含む)・連結従業員6,800名・海外アジア9か国/地域への展開を確認
*2|ダイヤモンド・チェーンストアオンライン「13期連続増収中!菓子のSPA、シャトレーゼの勝ち続ける戦略とは」(2023年)。「菓子のSPA(製造小売)」という垂直統合モデルの解説・契約農家→自社工場→自社物流→直営FC店という一本化されたサプライチェーン・国内約800店(うち直営60店舗)・海外アジア9か国/地域約190店・広告費ほぼゼロのクチコミ集客・1店舗あたり売上高が5年で約2億円に倍増した事実を確認
*3|ビジネスチャンス「シャトレーゼ コロナ禍で184%伸長した絶好調の菓子チェーン(前編)」(2024年)。洋菓子・和菓子・アイス・米菓・糖質カット商品・ワインまでの全方位プロダクトポートフォリオ・山梨工場で製造した商品を瞬間冷凍してアジアに輸出・現地で解凍販売というシンプルな海外展開モデル・「三喜経営」という経営哲学・古屋勇治社長の「おいしくて安い商品を提供することが使命」という姿勢を確認
▼ 新人さんのためのマーケティング講座 Season8
現代のマーケティングの本質を事例で深掘りしていきます。
- 第1回:「消せない・加工できない・失敗するかもしれない」——そのカメラが、なぜ世界で売れ続けるのか
- 第2回:アシックスの靴は、何も変わっていない——それなのに、なぜ世界が熱狂しているのか
- 第3回:コスメは「数ヶ月で廃盤」が常識のはずだった——リップモンスターに何が起きているのか
- 第4回:「高すぎる」という声を無視し続けるアパホテルが、3期連続最高益を叩き出す理由
- 第5回:なぜZOZOは、アパレル不況のなかで取扱高過去最高を更新し続けられるのか
- 第6回:フェイラーは何も変えていない——それなのに、なぜ若者が抽選に殺到するのか
- 第7回:「カードが使えない、まとめ買い専用」——それでも週末に駐車場が満車になるロピアの構造
- 第8回:年200店舗ペースで首都圏を包囲するまいばすけっとの、誰も真似できない方程式
- 第9回:「お行儀のいい大学広報」を捨てた近畿大学に、何が起きたのか
- 第10回:スタジオアリスはなぜ、2段階値上げをしてもなお週末の店舗が埋まり続けるのか
- 第11回:シャトレーゼはなぜ、物価高の2026年に「安くて美味しい」を維持できるのか(本記事)
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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