
📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season8
Season7では「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を20社の事例で深掘りしました。
Season8でも引き続き、現代のマーケティングの本質を事例で解き明かしていきます。
まだ過去のSeasonを読んでいない方は、そちらからどうぞ。
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2025年10月、Bリーグが2024-25シーズンの各クラブ決算を発表しました。千葉ジェッツの営業収入は約51.7億円——Bリーグ史上初の「50億円の壁」を突破し、J1クラブの平均売上高(約58億2,000万円)に迫る水準です。*1
さらに2025年6月期の単体純利益は4億1,600万円(前期比66.1%増)と過去最高益を更新。*2 プロバスケットボールチームが、なぜここまでの「集金力と熱狂」を持てるのか——前回のFビレッジ(不動産ハック)に続き、今回は「ファンダムハック」の方程式を解剖します。
- MIXIが持ち込んだのは「スマホゲームの課金システム」——選手をキャラクター化してLTVを爆増させる
- 「ららアリーナ東京ベイ」というUGC自動生成装置——映える空間がファンを自発的な広告塔に変える
- 顧客を「受動的な消費者」から「当事者」へ——熱狂の経済圏はこうして設計する
- よくある質問(FAQ)
MIXIが持ち込んだのは「スマホゲームの課金システム」——選手をキャラクター化してLTVを爆増させる
千葉ジェッツが他のBリーグクラブと決定的に異なるのは、2019年10月にMIXIと資本業務提携を結びグループ傘下に入ったことです。*3
MIXIといえば「モンスターストライク」で知られるスマホゲーム運営会社。彼らが千葉ジェッツに持ち込んだのは、ゲーム運営の根幹にある「ユーザーを熱狂させてLTV(顧客生涯価値)を最大化する」というノウハウでした。
その核心が「選手のキャラクター化」です。スポーツ選手を「応援するヒーロー」ではなく「育てて輝かせる推しキャラ」として設計し直しました。グッズ購入・SNSでの発信・ファン投票・限定コンテンツへのアクセス——これらはすべて、スマホゲームの「課金→キャラ強化→達成感」という心理サイクルと本質的に同じ構造です。*3
顧客インサイトは「試合の勝ち負けを見る」ではありません——「私が支えることで、私の推しが輝く」という当事者としての自己効力感への投資です。この定義の転換が、チームの成績に左右されない安定した熱狂を生み出します。
| 項目 | 従来のスポーツ経営 | 千葉ジェッツ |
|---|---|---|
| ビジネスの本質 | チケットを売って試合を見せる | 「推し」への投資とアリーナ体験の提供 |
| 売上の最大化手法 | スポンサー企業の看板広告に依存 | グッズ・飲食・デジタル課金(高LTV) |
| ファンの行動 | 受動的に客席から応援する(観客) | SNSでUGCを爆発させ自ら集客する(当事者) |
| 2026年の価値 | 地域のレジャー・親会社の広報 | J1に並ぶ売上50億円超の超高収益エンタメ |

「ららアリーナ東京ベイ」というUGC自動生成装置——映える空間がファンを自発的な広告塔に変える
2024年に開業した新本拠地「ららアリーナ東京ベイ」(千葉県船橋市・収容約1万1,000人)は、単なる体育館ではありません。*1
試合開始の暗転の瞬間——1万人がLEDペンライトをかざし、ド派手なプロジェクションマッピングと重低音に包まれる空間が生まれます。「どこを切り取っても映える(Instagrammable)」この設計が、ファンに自発的なクチコミ動画や写真をSNSへ大量投下させます。入場料収入が約15億6,000万円とB1最高水準なのも、この体験に「来たい」と思わせる力があるからです。*1
さらにMIXIならではの「OMO(Online Merges with Offline)経済圏」の設計が際立ちます。*3 公式アプリを起点としたモバイルオーダー・チケットの二次流通・限定デジタルコンテンツの配信——リアルとアプリが一体化することで、アリーナを一歩出た後もファンはデジタル空間で千葉ジェッツとの接点を持ち続けます。
モンスターストライクというゲームが「リセマラ→キャラ入手→クエスト攻略→強化→仲間と協力プレイ」という体験サイクルで課金を促すように、千葉ジェッツは「アリーナ来場→推し発見→SNS投稿→グッズ購入→デジタルコンテンツ→次の試合へ」というサイクルを設計しています。

顧客を「受動的な消費者」から「当事者」へ——熱狂の経済圏はこうして設計する
千葉ジェッツの事例から学べる最も重要な問いは、「あなたのサービスは顧客をただの受動的な消費者として扱っていないか」というものです。
「良い商品を作れば選ばれる」という時代は終わりました。顧客自身に「このサービスを一緒に育てる主役(当事者)」としての役割と、自己表現(推し活)のステージを与えることで、価格やスペックを超えた熱狂の経済圏が生まれます。
千葉ジェッツがやったことは、バスケットボールを「見るもの」から「参加するもの」に変えることでした。ファンクラブ「6TH MAN CLUB(第6の選手)」という名前がそれを象徴しています——ファン自身が選手と並ぶチームメンバーだという定義です。この「当事者感」こそが、J1平均に迫る51.7億円という売上を支えています。
2026年のマーケティングは、モノの良さを説得することではありません。顧客が自ら主役になって踊りたくなる「最高のステージ(システム)」を、デジタルとリアルを融合させて用意すること——千葉ジェッツの純利益過去最高という数字が、その証明です。

【本記事のまとめ】
1. MIXIが持ち込んだ「スマホゲームの課金システム」——選手のキャラクター化とLTV最大化
モンスターストライクの運営ノウハウをスポーツに転用。選手を「育てて輝かせる推しキャラ」として設計し、グッズ・SNS発信・ファン投票・限定コンテンツを通じて「試合の勝ち負けではなく私の推しへの投資」という当事者感を生み出した。チームの成績に左右されない安定した熱狂の経済圏がここから生まれる。
2. ららアリーナ東京ベイというUGC自動生成装置——映える空間設計がファンを広告塔に変える
収容約1万1,000人の最新アリーナは「Instagrammable」な空間設計で来場者が自発的にSNSへ投稿し次の来場者を呼ぶ循環を生む。入場料収入はB1最高の約15億6,000万円。アプリを起点としたOMO(オンラインとオフラインの融合)経済圏で来場後もデジタル接点が続く。
3. 顧客を「受動的な消費者」から「当事者(第6の選手)」へ——熱狂の経済圏の設計原理
「良い商品を作れば選ばれる」時代は終わった。顧客自身に「このサービスを一緒に育てる主役」の役割と自己表現のステージを与えることで価格・スペックを超えた熱狂が生まれる。千葉ジェッツの「6TH MAN CLUB」という名前がその哲学を体現している。
よくある質問(FAQ)
千葉ジェッツはなぜMIXIと組んだのですか?
2019年10月に資本業務提携を結んだ背景には、MIXIが持つデジタルエンターテインメントのノウハウとスポーツビジネスの親和性があります。MIXIはモンスターストライクという国民的スマホゲームを通じて「ユーザーを熱狂させてLTVを最大化する」仕組みを持っており、この知見をスポーツファンダム(熱狂的ファン集団)の構築に転用することで、従来のスポーツビジネスの限界を突破できると判断しました。その後MIXIは千葉ジェッツの全株式を取得し完全子会社化しています。
「ファンダム(熱狂的ファン集団)」を作るための具体的な方法は何ですか?
千葉ジェッツの方法論から3つのポイントが抽出できます。①「当事者感」の設計——ファンクラブ名を「6TH MAN CLUB(第6の選手)」とし、ファン自身がチームの一員であるという定義を与える。②「UGCが生まれやすい空間・仕組み」——映えるアリーナ設計・SNS投稿を促す体験設計でファンが自発的に宣伝役になる。③「継続的な接点」——試合日以外もアプリ・デジタルコンテンツで関係を維持し、次の来場・購買へのブリッジを作る。この3つを組み合わせることで「来場→熱狂→発信→次の来場」という自己強化するサイクルが生まれます。
千葉ジェッツのビジネスモデルは他のスポーツチームでも再現できますか?
原理は再現できますが、いくつかの前提条件があります。まず「映える体験を提供できるアリーナ・スタジアム」という物理インフラ、次に「デジタルとリアルをつなぐテクノロジー(アプリ)」、そして「選手・キャラクターをプロデュースする運営能力」の3つが必要です。千葉ジェッツの場合はMIXIのテクノロジーとプロデュース能力、ららアリーナという新設施設、そして長年培ったファンベースという3要素が揃ったことで急成長しました。既存の古い施設で同じことをやろうとしても難しく、「インフラ投資」と「デジタル戦略」の両輪が不可欠です。
*1|BASKET COUNT「Bリーグがクラブ決算概要を発表、千葉Jは営業収入50億円を突破」(2025年10月15日)。2024-25シーズン千葉ジェッツ営業収入51.7億円(Bリーグ史上初50億円突破・前年比69.1%増)・入場料収入6.4億円→15.6億円(2.4倍)・物販3.0億円→5.4億円・J1クラブ平均売上高約58億2,400万円・島田慎二チェアマン「BリーグのトップレベルがJ1の平均に近づくレベルになっている」発言・「LaLa arena TOKYO-BAY」開業効果・収容約1万人を確認
*2|gamebiz「千葉ジェッツふなばし、25年6月期決算は最終利益66%増の4億1600万円と大幅増益 過去最高業績に」(2025年)。第15期(2025年6月期)純利益4億1,600万円(前期比66.1%増)・過去最高益を確認
*3|gamebiz「千葉ジェッツふなばし、2023年6月期決算は最終益62%減の3800万円」(2023年)。2019年10月にMIXIと資本業務提携・MIXIグループ入りの経緯・モンスターストライク等のデジタルエンターテインメントノウハウをスポーツビジネスに転用するOMO経済圏の設計・ファンクラブ「6TH MAN CLUB」という「当事者感」の設計哲学を確認
▼ 新人さんのためのマーケティング講座 Season8
現代のマーケティングの本質を事例で深掘りしていきます。
- 第1回:「消せない・加工できない・失敗するかもしれない」——そのカメラが、なぜ世界で売れ続けるのか
- 第2回:アシックスの靴は、何も変わっていない——それなのに、なぜ世界が熱狂しているのか
- 第3回:コスメは「数ヶ月で廃盤」が常識のはずだった——リップモンスターに何が起きているのか
- 第4回:「高すぎる」という声を無視し続けるアパホテルが、3期連続最高益を叩き出す理由
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- 第7回:「カードが使えない、まとめ買い専用」——それでも週末に駐車場が満車になるロピアの構造
- 第8回:年200店舗ペースで首都圏を包囲するまいばすけっとの、誰も真似できない方程式
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- 第11回:シャトレーゼはなぜ、物価高の2026年に「安くて美味しい」を維持できるのか
- 第12回:「ホームセンター」という定義を捨てたカインズに、何が起きているのか
- 第13回:営業利益193%増・累積損失一掃——エスコンフィールドが「野球場」の概念を破壊した方法
- 第14回:千葉ジェッツはなぜ、Bリーグ史上初の売上50億円を叩き出せたのか(本記事)
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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