もっと本を読むべきだとは思うが、どうも、あまり読む気がしない……。ならば、「ミニ読書法」を試してみませんか? あなたが日々、仕事でストレスを抱えているなら、なおさらおすすめです。ほんの数分間読むだけでも、多大な本の恩恵にあずかるはず。さっそく説明しましょう。
読書は「癒しの活動」?
臨床神経心理学者で『Trouble in Mind』の著者でもあるジェニー・オグデン(Jenni Ogden) 博士は、アメリカの小説家 ジェーン・スマイリー(Jane Smiley)氏の言葉を紹介しています。
Many people, myself among them, feel better at the mere sight of a book.
(引用元:Psychology Today|Are You In Need of Bibliotherapy?)
この「多くの人々が、その中でも私自身が、ちょっと本を視界に入れるだけで気分が良くなる」というスマイリー氏の言葉は、本が好きであるとか苦手であるとか以前に、「癒し」における本への大きな期待が込められているのかもしれません。
ずいぶん昔から読書は、「癒しの活動」と考えられていたのだとか。たとえば、古代エジプトの君主・ラムセス2世は、読書のための特別な部屋を持っていたそう。古代ギリシャの図書館では、扉に「魂の癒しの場所」と書かれていたとのこと。
オグデン博士によれば、それから長いあいだ、医療の専門家や心理学者らは治療のために本を処方してきましたが、それは、あくまでも補助的なものだったそうです。
そんななか、「ビブリオセラピー(読書療法)」は生まれました。
ビブリオセラピー(読書療法)とは
「ビブリオセラピー(読書療法・Bibliotherapy)」という言葉は、1916年に、牧師で人気エッセイストでもあったサミュエル・マッコード クローザーズ(Samuel McChord Crothers)氏によって初めて使用されました。
この言葉は、「人々が抱える問題の解決を本で援助する技法」を意味します。その後、欧米でこのセラピーの訓練プログラムが確立したとのこと。現代では、読書を用いて心理的な支援を行う、心理療法のひとつと考えられています。本が行動を変え、苦痛を減らしてくれるわけです。
2013年6月には、なんと政府公認で、医師が精神疾患の患者に対して「薬」ではなく、「本」を処方する医療システムが英国で始まったそうです。医師が患者の症状に合わせて適切な本を処方すると、患者は薬局ではなく、図書館へ行って処方された本を借ります。このビブリオセラピーは、すでに他国にも広がりをみせているとのこと。
本を読むことの多大な効果とは
もはや精神科の「薬」と同等に並んでしまった「本」ですが、そのほかにも多大な効果があります。文章読解力、語彙力、発信力や、集中力などが高まるほか、ストレスを軽減し、生存率まで高めてくれるのだとか。
英サセックス大学の研究によると、読書によって軽減されるストレスは68%。音楽鑑賞、コーヒー、ゲーム、散歩などによるストレス軽減度を上回るそうです。
また、米イェール大学の研究チームが12年間にわたって調査を行った結果、週に3時間半以上読書をする人は、全く読まない人よりも死亡率が23%低いと結論づけられました。読書時間が3時間半に満たない場合でも17%低くなり、読書をする人は、読書をしない人に比べて2年も長生きするのだそう。
これらをまとめると、本の効果は――
- 問題解決の援助
- 心理的な支援
- 行動を変える
- 苦痛を減らす
- ストレスの軽減
- 死亡率の低下
- 読解力、語彙力、発信力、集中力アップ!
――と、多大なものです。
これで多少は「読もうかな?」と思えたらいいですが、それでもやはり「いまひとつ意欲がわかない」というのなら、ぜひ「ミニ読書法」をお試しください。
「ミニ読書」=「1章だけ読書」とは?
DGH(Develop Good Habits.com)管理人の S・J・スコット氏は、著書『人生を大きく変える 小さな行動習慣 Habit Stacking』のなかで、気分転換やリラックスしたいタイミングで、5~10分読書に費やすだけでも十分だと述べています。
たとえば、ビジネス書や実用書なら1つのトピックだけ、小説や物語なら1つの場面程度を読んで本を閉じてしまうのです。持ち歩きやすい本を選んで、ちょっとした合い間や、移動時間に5分程度読むといいとのこと。
ちなみに、決して読書家ではない筆者も、よく出かけるときは本を持っていき、移動時間や待ち合わせ、病院などの待ち時間、連れ人のトイレを待つ数分間などに、サッと本を読むようにしています。たったそれだけでも、けっこう読みすすめることができますよ。なおかつインプットする情報が少ないせいか、よく記憶しやすいのです。そして、なんといっても「数分間だけ読む」という行為が、たった「数分間だけ運動」と同じくらい、気持ちのうえで負担になりません。
ただし、その際に持ち歩く本を選ぶ重要なポイントは、【そのときの気分に合っている】ということ。仕事で読む必要がある本だとしても、その中から気分に合うものを選ぶといいでしょう。家事の合間に、コーヒーを淹れる合間に、「さあ出かけるよ」と家族を待つ自宅でのちょっとした合間も利用できます。
フィクションがより治療的?
スコット氏は、何を読んだらいいか迷うのであれば、誰かにおすすめを聞いたり、ベストセラーや売れ筋ランキングから選んだり、レビューを見て決めたりするといいと述べています。
ただし、特に癒されたいと感じているならば、フィクションがおすすめです。
2013年の時点で、英国のNHS(国営医療サービス)がビブリオセラピーのために指定していた本はすべて、「自己啓発」のジャンルだったそう。しかし、オグデン博士は2016年に「ビブリオセラピストは哲学や、詩、ノンフィクション等の本を処方することもあるが、小説がより一般的だ」と説明しています。
たとえば私たちが物語の登場人物に感情移入し、涙を流しているとき、実は自分自身のために泣いているのだとか。主人公が窮地に陥れば、その際の教訓を自分のことのように学びます。主人公が最後にハッピーになれば、私たち自身もハッピーになれるということです。
もちろん、いい映画を観ることも効果的ですが、情報が多すぎる映像よりも、活字でその向こう側の世界を想像するほうが、より登場人物に自分自身を置き換えやすくなります。著者と自分の想像を合体させたり、物語から脱線してしまうほど想像を広げたりすることが可能になるからです。
オグデン博士いわく「自分自身をよりよく理解したいなら、小説を読むことだ」とのこと。
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ビブリオセラピー(読書療法)や、本の効果、ほんの数分でも効能がある「ミニ読書法(1章だけ読書)」を紹介しました。ぜひ今日から、短い読書を楽しんで、多大な恩恵にあずかってくださいね。
(参考)
Psychology Today|Are You In Need of Bibliotherapy?
Wikipedia|Samuel McChord Crothers
Wikipedia|Bibliotherapy
Wikipedia|読書療法
日本読書療法学会|読書療法とは
クーリエ・ジャポン|英国政府公認! 鬱の人には、「本」を処方します
Study Hacker|読書家は長生きする!? 1日たった30分の読書が、私たちにもたらすもの
ダ・ヴィンチニュース|読書が苦手な人や忙しい時にもオススメ。“1章だけ読書”の3つの効能【モヤモヤ解消の小ワザ】連載第5回