書店も読書もここまで進化した。脳を揺さぶる、本と書店の新体験

 

読書が趣味であればあるほど、好みの作家さんの作品ばかり読んでしまったり、好みのジャンルに偏ってしまったりするものではないでしょうか。 こうした、一点を掘り下げていくような読書も魅力的ですが、別ジャンルを開拓してみたり、自分がこれまで読んだことがなかったような本を読んでみることは、脳にも良い影響を与えてくれるんです。

 

新しいことを知ることそのものが頭の回転を早くする

 

ワシントン州立大学の神経科学者ヤーク・パンクセップは、脳のドーパミン系と呼ばれる、快の感情や意欲、学習と関わる部位が、予期せぬものを見出したり、新しいものを期待したりすることで活性化されるということを述べています。 また、Nico Bunzeck氏、Emrah Düzel氏らが「オドボール課題」と呼ばれる実験によって明らかにしたところによると、まったく新しい情報を知覚することが、人間の中脳にある黒質/腹側被蓋野(SN/VTA)と呼ばれる領域を活性化させるのだと言います。

この領域は、記憶や学習をつかさどる「海馬」や「扁桃体」と呼ばれる脳の部位と密接なつながりを持っているので、新しい体験によって黒質/腹側被蓋野を活性化することは、記憶や学習能力の向上、頭の回転が早くなることにつながるということが知られています。 一時期流行したアハ体験などは、まさに脳のこうした性質を利用して脳トレをしようとするものでした。

このように、新しいことを知るという体験は、脳にとって非常に良い影響があります。 大人になるにつれ、こうした新しいことを知る機会はどんどん減っていってしまうのが現実です。そこで、読書で新しいことを知るということです。

以下で、読書をしなくても、書店に行くという体験そのものが新しいことを知る機会になるような書店や本をご紹介します。

 

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空間自体が発見に満ちた書店に行く

 

本と新しい出会いをするためには、一般的に名前が知られているような大手書店チェーンはあまりおすすめできません。というのも、そうした書店は、全ジャンル万遍なく網羅的に書籍を揃えているため、出向いた時には自分の興味があるジャンルの売り場に直行してしまうことがほとんどだからです。

そこでおすすめしたいのが、書店の空間そのものがアトラクション性を持っていて、興味のない分野にも足を止めてしまうような書店です。 まずご紹介するのが、全国にある大手書店でも独自の空間作りをしている『蔦屋書店』です。 蔦屋書店は、運営元であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下CCC )が、本を売るための施設ではなく、そこで過ごす時間を楽しめるような空間作りを目指した書店として、「代官山 蔦屋書店」を始めとして展開しています。 私が実際に行ってみたのは、ロームシアター京都に今年1月にオープンした「京都岡崎 蔦屋書店」です。一般的な書店なら、同じ食を扱っているといえど、レシピ本とこまったさんの料理シリーズといった小説は分けて配置していますがここでは並んで置かれていましたし、洋菓子のコーナーのイギリスのお菓子のレシピ本の隣には赤毛のアンが置いてある、というように、棚を目で追うだけでも楽しめる配置が魅力的でした。 空間自体も書店とは思えないお洒落な内装になっていました。

二子玉川の蔦屋家電は、家電店と書店を併設した施設で、例えば「食」のコーナーには食に関する書籍の隣にそれに関連づけた家電を配置した、全国に類を見ないユニークな書店です。

また、CCCが指定管理者を務める佐賀県の武雄市図書館は、公立図書館と蔦屋書店を併設し、図書を借りることも買うこともできるという独自の経営スタイルで話題を呼んでいます。 これらの書店はいずれも併設のスターバックスでコーヒーを買って飲みながら本を読むことができるのが特徴です。

次に紹介したいのが、町にある小さな書店です。新刊をおいているお店、古本屋さん問わず、店主さん独自に選ばれ配置されている書籍は、どれもこれまでにであったことのないものであること請け合いです。 私個人としては、京都にある恵文社や、その元店長が独立して開いた誠光社、神戸のくちぶえ文庫などがおすすめです。これらの書店はどれも、置いてある本がほかの書店では見たことがないような知的好奇心を誘うものであるだめでなく、書店の空間そのものが非常に魅力ある空間になっています。

また、こうした特色ある町の本屋さんを探すのにおすすめなのが、読読(よんどく?) というサイトです。 自分がアンテナを張っていないとなかなか探すことが難しい書店も、地域で検索することができるので便利です。時間が空いた時に近場の書店を検索してみて足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

新しい技法を凝らした作品を読む

 

書店に足を運ぶのはやや面倒……。 そんな人におすすめなのが、スタイル自体が新しい小説を読んでみることです。

新奇な仕掛けが仕組まれた小説は様々にありますが、特に日本人があまり触れたことがないような技巧を凝らした本を数々発表した文学集団としてご紹介したいのが、「ウリポ」です。正式名称は「Ouvroir de littérature potentielle」(潜在的文学工房)で、数学者のフランソワ・ル・リヨネー (François Le Lionnais) を発起人として設立されたフランスの文学グループです。 新しい文学の可能性を追求するため、数学的技法などを用いて多くのテクストを引用しながら、気の遠くなるような作品を世に残しています。

例えばリポグラムという特定の文字を使わないという制約のもとに文章を書く技法を用いた代表作が、ジョルジュ・ペレックの『煙滅』(La Disparition、1969年)です。 フランス語で最も使用頻度の高い「e」の字を一度も使っていない長編ミステリー小説で、日本語訳では、「い」の段を用いずに翻訳されています。

また、レイモンクノーの『文体練習』(Exercices de style、1947年)という作品は、たった1つのストーリーを99通りもの文体で書いた作品です。他にもウリポに属する作家たちは数々の奇妙な作品を残しているので、難解なところが多くありますが、自分のこれまでの小説観を揺さぶるためには非常におすすめです。

紹介した書店は、行ってみて、店内を見て回るだけでも脳が新しい情報で刺激されるはずです。ぜひ、本を媒介にして、脳を活性化してみてくださいね。

参考サイト 頭の回転を速くする方法まとめ|新しい体験が頭の回転を早くする? wikipedia|ドーパミン WIRED|なぜ人は新しい情報を欲するのか:「情報中毒」と「好奇心のパラドックス」 ScienceDaily|Pure Novelty Spurs The Brain Neuron|Absolute Coding of Stimulus Novelty in the Human Substantia Nigra/VTA 今話題の蔦屋家電についての調査報告書|株式会社ラポールエステート wikipedia|文体練習 wikipedia|ウリポ

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