食欲を制御する満腹ホルモンは、体重維持に役立つだけではなく、脳と記憶にも影響を与えるそうです。食事をサッと終えて仕事に取りかかるより、しっかり栄養をとり、ゆっくり食事するほうが、仕事を捗らせるかもしれません。その根拠を探ります。

満腹ホルモン「コレシストキニン」とは

コレシストキニン(CCK)は、食欲抑制作用が明らかにされた最初の消化管ホルモンです。脂肪やタンパク質などを摂取することにより、十二指腸や小腸から分泌されるそう。

このホルモンは食事開始から10~20分ほどで血中濃度が上昇し、腸と脳のネットワーク「脳腸軸」を介して満腹中枢を興奮させ、適切に食行動を終了させる役割があるとのこと。

腸だけではなく脳にも存在し、特に大脳皮質、海馬において濃度が高いそうです。

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満腹ホルモンで認知症発症の可能性が低下

いくつかの研究において、満腹ホルモンの CCK には中枢神経系の活性化を示唆する作用(学習・記憶増強作用、不安を引き起こすなど)が報告されているといいます。そして、2019年1月9日に「Neurobiology of Aging」でオンライン公開されたアイオワ州立大学の研究では、その CCK レベルが高いほど――

・記憶スコアなどが改善される
・軽度認知障害、アルツハイマー病になる可能性が減る
・灰白質(ニューロンの細胞体が集まる領域)の増加に関連する

――と見出されたそうです。CCK がより高いレベルの人の場合、軽度認知障害またはアルツハイマー病を発症する可能性は65%も減少するのだとか。この研究を率いた Auriel A Willette 博士は、「私たちが食べるものと、それに伴う体の機能が、私たちの脳に影響を与える」と話しています。

コレシストキニン(CCK)は気質にも影響?

この満腹ホルモンは、人間の「気質」にも関係があるのだとか。筑波大学の原田勝二助教授ら研究グループが、遺伝子と気質との関連を調べた結果、CCK 濃度が高い(C)タイプの人は、意欲などにかかわるドーパミン濃度も高いとわかったそうです。CCKはドーパミンを制御する働きもあるとのこと。

逆に、CCK 濃度が低い(T)タイプの人は、ドーパミン濃度も低かったそう。それに伴う特徴を、脳科学教育研究所・所長の桑原清四郎氏が、具体的に示したものは次のとおり。※(C)タイプはDNAなどを構成する塩基のシトシン、(T)タイプはチミンを指しています。

・(C)タイプ=開放的で精力的に動き回るタイプ。
ドーパミン多く興奮しやすいタイプ。
① 楽観的
② ストレスを受けにくい
③ 開放的
④ 精力的

・(T)タイプ=悲観的に考えやすく、ストレスに弱いタイプ。
ドーパミンが少なく興奮しにくいタイプ
① 悲観的
② ストレスに弱い
③ 疲れやすい
④ 危険を過度に恐れる
⑤ 人見知り

(引用元:脳科学ブログ(教育への架橋)|コレシストキニンと気質

環境で変化する「性格」とは違い、「気質」は生まれつきのものだといいます。原田助教授も、遺伝子の違いが神経伝達物質に、さらには脳の働きに影響を及ぼしていると伝えているそう。

しかし、Auriel A Willette 博士がいうように、「食べるものが私たちの脳に影響を与える」というならば、習慣によって CCK 濃度が変化し、その恩恵を受けられると期待してもいいのではないでしょうか。

コレシストキニン(CCK)レベルを高めるには?

そこで、何はともあれ満腹ホルモン:コレシストキニン(CCK)レベルを高めると期待できる、以下2つの習慣をお伝えします。

1.しっかりと脂質、タンパク質をとる

昭和女子大学の渡辺睦行准教授が著した『いちばんやさしい管理栄養士国家試験合格講座最新出題基準対応』では、脂質が十二指腸に達すると、コレシストキニン(CCK)が分泌すると説明しています。

また、臨牀消化器内科の医学書にも、脂肪やタンパク質などを食べることによって、小腸から分泌されるとあります。タンパク質はともかく、脂質は過度にとる必要はありませんが、とらない・少なすぎるのは大いに問題です。

2.しっかりと、よく噛んで食べる

関西福祉科学大学の重森健太教授は、著書『走れば脳は強くなる: 体を鍛えながら記憶・思考・発想力を高めるコツ』のなかで、よく噛むとコレシストキニン(CCK)が分泌されると伝えています。

――忙しくて食事の時間がないからと、咀嚼なしで素早く摂取できるエネルギー補給食で済ませたり、脂質を含まない野菜サラダだけを食べたりしても、CCK は分泌されないということ。

たとえば野菜サラダにオリーブオイルやアマニ油など、健康的な脂質を加え、鶏肉や豆、チーズ、タマゴなどタンパク質をのせ、時間がないながらもよく噛んで食べれば、CCK は分泌されます。そのあとの仕事で、きっと何かしら変化を実感できるでしょう。

***
しっかり栄養、ゆっくり食事が脳にいいワケを説明しました。脳機能と意欲を高め、ストレスに強くなるためにも、ほぼ炭水化物のオニギリやパンだけ、具のないスープだけ、エネルギー補給食だけといった食事をやめ、豊富な野菜とタンパク質に、適度な脂質を含む食事を、よく噛んで食べるよう習慣づけてくださいね。

(参考)
医学専門ジャーナル・書籍の電子配信サービス|医書.jp|食欲調節と消化管ホルモン 消化管ホルモンによる食欲抑制 コレシストキニンの作用と役割 (臨牀消化器内科 31巻9号)
東京大学附属図書館・情報基盤センター|学位論文データベース|学位論文要旨詳細
ScienceDaily: Your source for the latest research news|What you eat could impact your brain and memory
ScienceDirect.com | Science, health and medical journals, full text articles and books.|Cholecystokinin and Alzheimer’s Disease: A Biomarker of Metabolic Function, Neural Integrity, and Cognitive Performance
脳科学ブログ(教育への架橋)|個人の気質に関わる遺伝子発見
脳科学ブログ(教育への架橋)|コレシストキニンと気質
J-STAGE|遺伝因子と環境因子との相互作用
Wikipedia|コレシストキニン
重森健太著(2016),『走れば脳は強くなる: 体を鍛えながら記憶・思考・発想力を高めるコツ』,クロスメディア・パブリッシング.
渡辺睦行著(2015),『いちばんやさしい管理栄養士国家試験合格講座最新出題基準対応』,秀和システム.