みなさんは、何かやるべき課題がある時、すぐに取りかかることができますか。それとも、頑張るからにはご褒美がないと……と思うタイプでしょうか。

試験がおわったらショッピングに行こう。頑張って残業したら、おいしいものを食べて帰ろう。そんな風に、ご褒美をうまくつかって、仕事や勉強を乗り切っている人はいると思います。ですが、いつもご褒美を用意できるとは限りませんし、ご褒美自体がマンネリ化して飽きてしまい、ご褒美があってもやる気が出ない、なんてこともあるでしょう。

では、うまく自分のやる気を高めるための適切なご褒美のあげ方とは、いったいどのようなものなのでしょうか。今回は、報酬とモチベーションの関係性についてお伝えしたいと思います。

モチベーションはどこから生まれるのか

心理学者のエドワード・L・デシによると、人間はもともと「有能感」と「自己決定」への欲求を持っており、この2つがモチベーションの重要な源泉となっているのだとか。「有能感」とは、自分が置かれている環境にうまく対処できる能力のこと。「自己決定」は、有能感に基づいて、自分で考えて行動することを指します。

ではなぜ、有能感と自己決定が、モチベーションの源泉だと言えるのでしょうか。

人間は、自分はうまくやれるという自信(=有能感)があると、外からの強制によるのではなく、自分が主体的に行動を起こせるのだという認識(=自己決定)を持つことができます。自分が主体的に行動を起こすのですから、当然、その行動には納得して取り組むことができますよね。これが、有能感と自己決定がモチベーションに不可欠である、と言える仕組みなのです。

例えば、子どもの頃、親や先生に「勉強しなさい」と強く言われても全然やる気が出なかったという経験があるでしょう。これは、勉強という行動を起こさなければならないことを、いくら親に強制されたとしても、自分自身で納得できていなかったから。これでは、嫌々ながらに勉強して、やる気が出るどころか、本当に勉強が嫌いになる、という悪循環さえも想定されます。

しかし、もし「自分は、ちゃんと勉強すればテストでいい点が取れる」という有能感に基づき、「いい成績がとれるのだから、勉強しよう」と自己決定して勉強することができれば、納得して勉強という行動に移ることができます。このように考えて勉強すれば、自然とモチベーションが湧いてくるでしょう。

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外発的動機付けは、モチベーションを下げるのか

近年、報酬を与えるとモチベーションが下がる、という知見が増えています。

「アンダーマイニング効果」という現象をご存知でしょうか。これは、私たち人間が自発的にやっていることに対して目に見える形の報酬(例えば、金銭)が与えられると、一時的にその行動は増えるものの、その報酬が減ったりなくなったりするとやる気が失われてしまう、というものです。

褒められたり、お小遣いをもらったりするなど、目に見える形で報酬を与えられることを「外発的動機付け」と言います。一方、達成感や充足感のように、自分の心の内部から湧き出る感覚が報酬となることを「内発的動機付け」と言います。

外発的動機付けに頼った行動をしていると、延々と報酬をもらい続けなければ、その行動を継続させることができません。しかも、報酬への欲求が高まり、徐々に報酬量を引き上げていかなければならなくなることもあるでしょう。いずれ、限界がきてしまいますよね。

冒頭で触れたような、ご褒美自体に飽きてしまいご褒美があってもやる気が出なくなる、というのは、外発的動機付けに頼った行動であるがゆえに起きてしまう問題なのです。

では、本当に、目に見える報酬なんて結局役に立たない、と結論付けることができるでしょうか。

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「小さな」報酬はむしろやる気を引き出す

目に見える報酬をモチベーションの維持・向上に役立てるには、報酬の「大きさ」がカギとなります。

アカデミー・オブ・マネジメント・ラーニング・アンド・エデュケーション誌に掲載された論文によると、「小さな、取るに足らない程度の」報酬であれば、自律的なモチベーションは損なわれることなく、むしろ高まるのだそうです。

その研究のなかでは、欧州最大のビジネススクール、ウィーン経済・経営大学で、次のような実験が行われました。

受講生を2つのグループに分け、一方のグループには、任意提出式の課題において、1つ完了するごとにボーナス点を与えました。もう一方のグループには、ボーナス点は与えられません。ボーナスの点数は、0.7点というわずかなもの。この点数は、事前に何点のボーナスが欲しいかについての調査を行った際に最低点として回答された0.75点を少し下回るもので、報酬は「十分に小さく」設定されたのです。

結果はどうだったでしょうか。なんと、0.7点のボーナスをもらえるグループが提出した課題の数は、ボーナスをもらえないグループの4倍となったのです。さらに、ボーナスをもらえるグループには、自律的な学習意欲も見られました。

わずかなボーナス点であるにも関わらず、自律的な学習意欲にまで貢献したというのは、いったいどういうことでしょうか。

ボーナス点を与えられたグループにとって、0.7点というわずかな報酬は、課題への取り組みを完全に正当化するには小さすぎるものでした。そこで、課題に取り組むという努力は正しいのだと納得できるような、何か別の動機を探す必要があったのです。確かに、報酬が少ないと「自分は加点だけのために課題をやっているんだっけ?」と多少疑問に思ってしまいますよね。その、何か別の動機というのが、楽しいとか興味があるといった前向きな感情で勉強に取り組むという、自律的な学習意欲に現れていた、というわけです。

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勉強に報酬を与えることは、悪いことではありません。報酬による勉強が長続きしないなら、報酬をきわめて小さくすれば、自分から進んで勉強する意欲を阻害することなくモチベーション高く勉強に取り組めるのだ、ということがお分かりいただけたと思います。

チョコ一粒。好きな音楽一曲。最小限のご褒美は人それぞれかと思いますが、みなさんなりの小さなご褒美を用意して、モチベーションを落とさずに勉強に取り組んでみてください。

(参考)
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|「小さな報酬」が学習のモチベーションを高める
たちばなエクール|やる気と報酬の関係について1 -アンダーマイニング効果-
NOMA総研|角山剛 モチベーション論 第3回 内発的モチベーション